病院の機能と組織

みんなの医療ガイド

病院の機能と組織

1.病院と診療所の違いは?

 病院と診療所の違いは、まずベッド(病床)の数です。
 病床が20床未満であれば診療所、20床以上であれば病院。診療所のなかには、病床を持たない「無床診療所」が多く、2010年10月現在、99,824施設ある診療所のうち、89,204施設が無床診療所です。ちなみに、病院は、8,670施設あります。
 病院と診療所には、病床数以外にも、さまざまな違いがあります。たとえば、医師の数。診療所の場合、医師1人という施設が多いですが、病院の場合、最低3名以上の医師がいることが求められます。さらに、診療所では医師1人が診る患者数に制限はありませんが、病院では、「外来患者40名に対して医師1名」「入院患者16名に対して医師1名」が必要とされています。

2.病院の機能

 病院の機能は、規模や地域の医療環境などによって異なりますが、大きく分けて入院機能と外来機能の二つがあります。そして高齢化が進むなかで重要性が増してきているのが、在宅機能です。そのほか、人間ドッグや検診などの予防活動もあります。

■外来

 皆さんご存知の通り、受付をして、診察、検査、処置などを受け、最後に会計を行うというのが、外来診療です。また、夜間や休日の急を要する診療、救急車で搬送された重症な患者さんの治療など救急外来診療も、病院が担う重要な外来診療の一つです。
 「病院は待ち時間が長い」と言われがちですが、最近では電子カルテやオーダリングシステム、医事システム、画像管理システムなどを導入し、院内のIT化を図ることで待ち時間の短縮に努めている病院が増えています。
 また、「軽い症状の場合は近隣の診療所に」「専門的な診断・治療を必要とする場合や救急の場合は病院に」といった患者さん側の使い分けも、病院の待ち時間短縮には欠かせません。

■入院

 入院にいたる経緯には、病院の外来で診察を受けて医師から入院が必要と判断された場合、かかりつけ医からの紹介、救急外来を受診し入院治療が必要となった場合という3つがあります。
 入院後は、まず、身体状態などの検査や患者さんを取り巻く状況調査を行い、それらの結果をもとに主治医が治療計画が作成されます。その後は、一刻も早い回復と退院をめざして、チーム医療が開始されます。治療が順調に進み、退院可能と医師から判断されれば、相談員や病棟とも調整し、退院日が決まります。

■在宅

 患者さんが病院に来院するのではなく、患者さんのご自宅や施設を医師等医療者側が訪問し、医療を提供するのが、在宅医療です。
 高齢化が進み、病院に通院することが難しい患者さんも増加していること、がんや難病の患者さんなどで自宅での療養を希望される方が増えていること、看取りの問題などから、在宅医療の必要性は年々増加しています。

3.病院の組織

 病院の組織は、規模などによって異なります。基本的には、診療部門(医局)、看護部門、医療技術部門(薬剤課、検査科、放射線科、栄養科、リハビリテーション科など)、事務部門の4つから成り立っています。そのほか、情報管理、経営企画、医療相談など、さまざまな専門領域の担当がありますが、病院の規模によって集約・兼業される場合が多いです。

■管理者

 病院には、医療法人立病院や公立病院など“法人”立の病院と、個人立の“非法人”立病院があります。法人立病院の場合、医療法人であれば理事長、公立であれば病院開設者・管理者が経営の責任者を担い、病院長が管理者として診療の責任者を担っています。
 一方、個人立病院では、病院長が開設者・管理者として経営、診療の両方の責任者になります。

■診療部(医局)

 医局とは、医師の集まりです。大病院では、各診療科の構成単位のことを指しますが、一般の病院においては各診療科の医師が集まり、診療情報共有や研修などを行う場所を医局と呼んでいます。
 これまで医療は医師を頂点としたピラミッド型と言われがちでした。医師の役割が重要であることは変わりませんが、病気・病態が多様化し、医療全体が高度化するなか、多職種がそれぞれの専門性を発揮しながら連携するチーム医療に変わってきています。そのなかで医師は、治療方針の決定と実際の治療を行い、かつ、各職種間のコミュニケーションを図って情報を集積し、患者さんにフィードバックするとともに、指示命令系統の指揮官を担うというポジションです。医師の指示決定の善し悪しが医療全体の質向上や、適切かつ効果的な医療提供の成否のポイントとなります。

■看護部

 看護部の仕事は、処置も含めた診療の補助業務、患者さんの体を清潔に保ったり、食事の介助をしたりといったケア、そして患者さんに異常がないかをチェックする観察と、大きく3つあります。
 看護師、看護補助者は、病院のなかでも最も人数の多い職種です。かつ、患者さんに接する時間も最も長く、病院の顔、評価の最重要職と言えるかもしれません。また、慢性期病棟では、介護福祉士や介護支援専門員(ケアマネジャー)といった介護系の職種も活躍しています。

■薬剤科(薬局)

 薬剤科の役割は、薬剤の専門家として、品質が保証された医薬品を有効かつ安全に、適切な情報とともに患者さんに提供することです。具体的には、薬品の管理、医師の処方に基づいた調剤、患者さんへの薬に関する指導、薬品情報の入手・管理などが主な仕事です。
 薬剤は日々進化していますが、どんな薬剤にも副作用があります。また、必ずしもすべての患者さんに有効かつ安全という保証はありません。これからの薬剤師には、①起こり得る副作用を未然に防ぐ、②医薬品の情報提供と薬剤に関する知識の普及教育、③医薬品が適正に使用されるように監視する、④医師と連携し、薬剤情報を提供、⑤適正な薬剤使用の提案による、医療費の削減――といったことが期待されます。

■検査科

 検査科には、臨床検査技師、衛生検査技師が従事しています。行う検査は病院の規模や機能によって異なりますが、検査科が担当する仕事には、血液や尿などに含まれる化学物質を分析する「生化学的検査」、血液に含まれる成分を分析する「血液学的検査」、アレルギー検査などの「免疫学的検査」、感染症の診断を行う「微生物学的検査」、細胞や組織を顕微鏡を用いて観察する「病理学的検査」、寄生虫を観察する「寄生虫学的検査」などがあります。
 また、①心電図、②呼吸機能、③磁気共鳴画像、④心音図、⑤脳波、⑥眼底写真、⑦超音波(エコー)、⑧毛細血管抵抗、⑨筋電図、⑩眼振電図、⑪経皮的血液ガス分圧、⑫基礎代謝、⑬重心動揺、⑭聴力といった生理学的検査も検査科の仕事です。これらは、医療行為と位置づけられていますが、医師の補助として行う場合は臨床検査技師が担当しています。

■放射線科

 放射線科の仕事は、画像を使った診断と放射線治療の大きく2つに分かれます。
 X線撮影(レントゲン撮影)やCT、MRIなどの撮影を行い、画像から異常所見を発見し、報告するというのが、画像診断。このほか、血液造影などの画像診断の手技を用いて治療を行ったり、がんの放射線治療など、治療も行います。

■リハビリテーション科

 リハビリテーション科には、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士、義肢装具士といった専門家がいます。
 身体や精神に障害のある患者さんに対し、筋力増強訓練や歩行訓練、電気刺激、マッサージなどを利用して身体機能の回復をめざすのが「理学療法」。手芸や工作、土木、園芸、音楽、パソコンなどを利用して、応用動作や社会適応力の回復をめざすのが「作業療法」です。このほか、目の機能異常を検査したり、視能の訓練・指導を行う「視能訓練」、音声や言語、聴覚機能の向上や維持のために行う「言語聴覚療法」など、患者さんの状態に応じて最善な方法でリハビリテーションを行い、社会復帰をめざします。

■栄養科

 栄養科には、管理栄養士、栄養士、調理師、調理人といった人たちがいます。入院患者さんの日々の食事、職員食を担当するほか、栄養面での指導も行います。
 食事も治療の一環であり、栄養・食事の専門家として、栄養士が患者さんと直接接し、指導する機会は増えています。さらに近年、チーム医療の一環として、栄養サポートチーム(NST)への参加もしています。

■事務部門

 事務部門が扱うのは、ヒト・モノ・カネと情報です。
 人事課、経理課、庶務課、総務課、施設課、用度課などに担当が分かれ、病院の運営をサポートし、職員が働きやすい環境を整えることが事務部門の役割です。

■医事課

 医事課の主な仕事は、受付・会計、入院時の事務手続きや入退院の請求書の作成、そして保険請求業務です。

■情報管理部門

 情報管理部門の役割は、情報システムの管理と診療情報の管理の大きく2つに分かれます。
 病院でも、効率性や利便性、また情報活用の観点からIT化が進んでいます。さまざまな医療情報システムの運営・管理を担当することも情報管理部門の役割。
 もう一つの診療情報の管理は、診療情報管理士が中心となって行います。診療録の記録内容の点検するほか、診療録から得た病名などのデータをもとに分類、集計し、医療統計や疾病統計を作成し、病院管理や公衆衛生のための資料としています。

■地域連携室

 近年、一医療機関のみで患者さんの診断から治療、在宅療養、介護等の一貫したサービスを提供することが困難な状況です。地域における各医療機関が専門性や特性による機能分担を図り、患者さんの身近な地域で患者さんの症状にあった適切な医療を効率よく提供することが求められています。地域連携室は、地域の医療機関との連絡調整業務や地域の医療機関、介護施設等からの紹介受付が主な仕事です。

■医療相談室

 医療相談室は、医療ソーシャルワーカー(MSW)などが担当し、患者さんあるいはご家族の抱える経済的、社会的、心理的悩み、病気に対する相談を受け、院内外の社会資源を利用しながら問題解決にあたるセクションです。
 病院においては、入退院の相談窓口、退院後の社会復帰・在宅医療への橋渡し役として、地域の医療・保健・福祉施設との連携調整を行うことも多く、地域連携室と同じ部門として扱われることもあります。

■経営企画室

 「経営企画室」「総合企画室」「経営戦略室」など名称は病院によって異なりますが、病院運営を支援する専門組織を設ける病院は増えています。
 この経営企画室が担うのは、病院の管理運営にかかわる指標の集計・分析、情報分析に基づいた経営戦略立案、病院全体の中長期計画の実行支援などです。

■委員会

 病院には、医療安全に関する委員会や感染対策に関する委員会など、法律上、設置することが義務づけられているものも含めて、多くの委員会が設けられています。委員会の多くは、縦割りになりがちな病院組織のなかで、多職種横断的に位置づけられています。
 こうした委員会は、医療の質の向上や、病院サービスの向上、病院運営の効率化などを目的にテーマごとに設けられており、近年、数が増えています。