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ホーム全日病第801回/2013年5月15日号「成長戦略」の柱に健康・医療産業...

「成長戦略」の柱に健康・医療産業。海外視野に競争力を強化

▲日本経済再生本部の第1回会合で安倍首相は健康・医療を重点分野にあげた。

「成長戦略」の柱に健康・医療産業。
海外視野に競争力を強化

【安倍政権の規制改革】
医療法人 附帯業務に健康事業を追加か。対企業出資が俎上にのぼる可能性

 安倍政権は、アベノミクスと称される日本経済再生をめざす政策において、金融緩和と機動的な財政政策に続く第3の矢としている「成長戦略」の柱に健康・医療産業を据え、規制緩和と制度改正によって企業の事業意欲と競争力を高める環境整備に取り組んでいる。
 「成長戦略」の鍵は規制緩和であるが、安倍政権は、議論よりも改革の早期実施を優先する視点から、現行規制の見直しを短期間でなしとげる現実路線で臨んでいる。
 健康・医療に関しては、主に再生医療、医療機器、ICT化を対象とした急ぐべき規制改革案をまとめ、6月半ばに策定する「成長戦略」に盛り込む考えだ。

 

 アベノミクスが目指す経済活性化の諸施策は、安倍首相の肝入りで設置された政府直轄の日本経済再生本部を総合司令部とし、その傘下の産業競争力会議が実行部隊として戦略目標と施策全体の立案を担い、それと連動した規制改革会議が競争力回復を支える環境整備の施策を担当。経済財政諮問会議と総合科学技術会議が財政・経済および産業技術施策のフレームづくりで対応する構図をとっている。
 1月25日の日本経済再生本部で、安倍首相は「喫緊の重要政策課題に関する当面の対応」を関係閣僚に指示。規制改革は雇用関連、エネルギー・環境関連、健康・医療関連を重点分野とした上で、「特に健康・医療については、世界に我が国の医療関連産業が展開して国富の拡大につながるように、大胆な改革を推進する」と強調した。
 日本の医薬品・医療機器は2011年に約2.9兆円の輸入超過となったが、特許や提携等の技術貿易で医療は2,500億円強の出超であり、医療貿易赤字の原因は明らかにモノの入超にある。この実態を、モノについては輸出超過とし、技術貿易ではさらなる出超にしていく。「成長戦略」はこうした方向を目指している。
 政府は、2月22日に、医療、医薬品、医療機器を戦略産業として育成し、経済再生の柱とするために、内閣官房に「健康・医療戦略室」を設置。厚労省も同日、「健康・医療戦略厚生労働省推進本部」を設置した。さらに政府は、3月15日に関係府省の局長を集めた「健康・医療戦略(推進)会議」を内閣官房に設置、省庁の垣根を越えた態勢を固めた。

 

規制改革会議 急ぐべき実務的な課題を優先

 規制改革会議は、2月15日に、これまで各界から寄せられた要望から代表的なもの59項目を、安倍首相が指示した重点分野に「創業・産業の新陳代謝等」を加えた4分野に分けたWGで検討。急ぎ、6月の「新成長戦略」に盛り込んでいくことを確認した。
 「健康・医療」では、再生医療の推進、医療機器承認業務の民間開放、治験前臨床試験の有効活用、一般用医薬品販売規制の見直し、レセプト等医療データの利活用など13項目があげられた。
 4月17日の規制改革会議は再生医療と医療機器に関する見解をまとめた。その中には、再生医療等製品に対する保険外併用療養費制度の適用や企業の医療機器開発意欲を高める保険償還価格(銘柄別収載制度の導入)の検討など、診療報酬に影響する項目もある。
 健康・医療WGは4月までの議論から、医療に関しては、①再生医療の推進、②医療機器にかかわる規制改革の推進、③医療ICT化の推進に対する考えをまとめ、規制改革会議への中間報告(5月2日)とした。
 基本理念を定め、国に必要な法整備や財政措置を求める再生医療推進法は、議員立法によって4月26日に成立した。一方、厚労省は、安全確保の枠組みを定める再生医療規制法案を、また、再生医療製品の承認を短期間で可能にする薬事法改正を今国会に出す予定だ。薬事法改正法案には医療機器の早期承認を可能とする措置も盛り込まれる。
 再生医療規制法案は、自由診療を含む、ヒトの細胞を使うあらゆる治療行為に倫理審査委員会の承認と国への届け出を義務づけ、違反には治療中止命令を出せるというもの。薬事法改正案では、再生医療製品について、安全性が確認できれば、有効性が完全に証明されていない段階でも条件付きで国の承認が受けられるなど手続きを簡素化する。
 再生医療の市場規模は2050年に国内だけで2.5兆円、世界では38兆円になると見込まれている。安倍首相も「2030年の市場規模は関連産業も含めると約1兆6,000億円になる」と、期待を寄せる。
 厚生労働省令で第1類と第2類は不可とされている一般用医薬品(大衆薬)の郵便等販売についても、規制改革会議は3月8日に全面解禁を求める意見をまとめた。1月の最高裁判決を受けて2月14日に検討会を設置、現行規制に代わる新たなルールの検討を始めた厚労省は、規制改革会議の方針を受け、当初予定を繰り上げ5月内にとりまとめることにした。
 健康・医療WGの中間報告は、こうした法令等の整備を踏まえて、引き続き、運用面における環境の整備を細かく求めていくとしている。
 「社会福祉法人の会計情報を公開すべし」という意見にも、厚労省は5月2日の規制改革会議で、「何らかの形で財務諸表が公表されるよう具体策を検討する」と回答している。
 規制改革会議は4月17日に、外国と比較して現行規制の必要性や程度を検証する国際先端テストの実施を決めた。この検証を踏まえ、個人情報保護法について、個人情報の利用ルール明確化を求める方針だ。労働者派遣の期間規制も見直しの対象となる。
 規制改革会議は5月に行なうICT化の検討結果を経て、他3WGの見解も含めた報告書を5月末までに政府に提出したいとしている。

 

産業競争力会議 健康サービス産業の育成が重要課題

 産業競争力会議では「健康長寿社会の実現」がテーマに取り上げられ、医療イノベーションの推進と公的保険に依存しない健康サービス産業の育成が重要課題にあげられている。
 高齢者向けの市場規模は2025年に約100兆円、健康・予防を含む生活関連産業がその過半を占めるという試算もあり、民間議員は、健診、在宅医療、診療記録を含むPHR(Personal HealthRecord)活用等の領域で、企業参入の枠を広げる施策を求めている。
 安倍首相は、4月2日の日本経済再生本部で、保険者や個人の疾病予防、健康活動を促進するためのインセンティブ措置を具体化するよう、田村厚生労働大臣に指示をした。さらに、医療研究開発の司令塔機能を創設する具体策をまとめ、日本の医療技術・サービスの国際展開をあらゆる手段を動員して支援するようにと菅官房長官に指示した。
 これを受け、田村大臣は4月23日の同会議で厚労省の考えを表明。その中で、医療法人による健康事業は「保健衛生に関する業務として整理できるものは、今後、通知改正で対応していく」と、一定の附帯業務拡大を進める考えを表わした。先進医療に対する保険併用療養費の適用拡大に関しては慎重な姿勢を示した。
 また、「医療法人が海外現地法人に出資できるようにしてはどうか」という提起には、「社会医療法人は海外現地法人に出資可能だ。一般の医療法人については、海外事業に失敗したとしても、地域医療の提供に影響を与えない範囲であれば出資可能とすることについては検討していく」と、医療法人の営利法人への出資を検討する意向を表明した。
 菅官房長官への指示について、内閣官房は、「日本版NIH」と「MEJ(メディカル・エクセレンス・ジャパン)」設立の方針を4月23日の産業競争力会議に提示した。MEJは、政府の支援のもと、国際医療協力推進の窓口機関となるもので、4月23日に設立された。
 こうした措置を受け、厚労省は5月10日、日本の医療の海外展開を支援する医療国際展開戦略室を省内に設置した米国国立衛生研究所を模した「日本版NIH」は独立行政法人として設置され、臨床研究中核病院等との連携を得て、基礎研究から臨床研究・治験にいたるまでを一元的に管理するとともに、研究費配分を含む、臨床研究・治験が確実に実施される仕組みを構築する。内閣に設置される推進本部が医療研究開発の総合戦略を策定するとともに、各省の医療・健康関係の研究開発予算を一元化して重点的な予算配分を行なう、という構想である。
 各省の研究開発予算は3,500億円にのぼるとみられ、これに民間企業から集めた資金も加わるので、「日本版NIH」はわが国科学技術振興費の4分の1以上に関与することになる。

 

戦略特区構想に「外国の医療資格者に医療を認める」案

 4月17日の産業競争力会議で、竹中慶大教授ほかの民間議員は、3大都市を想定し、首相主導で制度改革を実験する「アベノミクス戦略特区」の設置を提唱した。その1つとして、国際医療拠点づくりにつなげる「医療ツーリズム特区」を新設、病床規制の緩和、医療機器・医薬品の相互承認推進などを実施すべしと提起した。
 竹中氏は、「戦略特区」のイメージとして、東京都を例に、「各国の医療免許保有者に一定の医療行為を認める」「英語対応の救急医療」「病院等の公共性の高い施設に容積率・用途規制を緩和する」などを提案した。「戦略特区」の構想は政府内でも検討が始まっており、「成長戦略」の重点政策として盛り込まれる。
 安倍首相は、3月8日の衆院予算委員会で、医療法人理事長の「原則医師」という規制の見直しを示唆する発言を行なった。現時点で具体的な議論にはいたっていないが、医療を日本経済再生の戦略的産業とみる安倍首相は、今後も、産業界からの要求を改革課題にのせてくることが考えられる。ただし、現在のところ、医療への株式会社参入には否定的であり、また、「先進医療に対する保険外併用療養の適用拡大」はともかく、混合診療全面解禁といった“議論先行”のテーマは改革課題の俎上にのぼっていない。