全日病ニュース

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改定率-2.27%で決着、実質は-4.48%。

▲塩崎厚生労働大臣は記者会見で、麻生財務大臣との閣僚折衝の結果を淡々と報告した。(1月11日)

改定率-2.27%で決着、実質は-4.48%。

【2015年度の介護報酬】
15年度予算案の介護報酬財源国費分は14年度当初予算と同額に

 2015年度介護報酬の改定率は表向き-2.27%で決着したが、実質は-4.48%という、介護保険史上最悪のマイナス改定となった(1面記事を参照)。
 15年度の介護報酬関連予算には、消費税増収分の活用を得つつ、①給与を月1.2万円相当引き上げる介護職員処遇改善加算の拡充に+1.65%を確保する、②中重度要介護や認知症の高齢者を受け入れる事業所、地域密着の小規模事業所に対する加算措置に+0.56%を確保する、2つの措置が含まれる。
 したがって、-2.27%の予算枠の中で+1.65%と+0.56%を確保するという、実質4.48%のマイナス改定が強行された。
 大臣折衝の内容を整理した文書(大臣折衝事項)には、「収支状況などを反映した適正化等▲4.48%」と書き込まれた。介護による収入にかかわる報酬は4.48%削減するが、介護従事者給与原資の一部になる処遇改善加算と小規模事業所に対するインセンティブを補填するので、トータルとしては-2.27%に落ち着くという論理である。
 厚労省内には、「やっぱり-2%以下にはできなかったか」という慨嘆と「2.5%以上の下げ幅をよくここまで回復した」という評価と、2つの声が行きかった。
 1月8日夜に、塩崎厚生労働大臣と麻生財務大臣は非公式な会談をもった。
 2%台後半から3%の範囲でマイナスとすることを求める麻生大臣に、塩崎大臣は「介護事業者によって差はあるものの、どこも楽ではない。経営悪化によってサービス低下をきたさないよう配慮すべき」と、マイナス幅の圧縮を要求した。
 しかし、麻生大臣は「国の財政状況は厳しい」と強硬な姿勢を崩さなかった。
 翌9日の会見で、塩崎大臣は「かなり幅広い問題を意見交換した。単に改定率の話だけでなく、制度のあり方や機能の仕方などいろいろなことが議論に出た」と、社会保障全体の予算配分が主題であり、介護報酬はそのうちの1つでしかないという認識を披露。
 その結果については、「引き続き協議する。具体的な内容を言う段階ではない」と述べるにとどまり、改定率は白紙という建前を貫いた。
 しかし、1月9日に、麻生大臣は安倍首相に-2.27%で臨む方針を示し、了解をとりつけている。1月11日昼に行なわれた公式の大臣折衝で合意に達したものの、実質は1月8日の非公式会談で決まったといえる。
 厚労省は2%を割り込んだ線での決着を望んでいたが、財務省は「2%後半から3%までが最低限」との姿勢に終始した。しかし、介護事業者や与党の一部が強く反発する中、当初の過去最大の下げ幅となる2%後半を実現したいとする財務当局が軟化、下げ幅を過去最大(-2.3%)よりギリギリ小さくすることで決着する案が浮上した。
 その結果、15年度予算案における介護報酬財源の国費分が2兆6,201億円となる-2.27%で調整がついた。2兆6,201億円は14年度当初予算と同額となる。
 財政中立とする―これが-2.27%の真意であった。
 財務省は「介護報酬を約1%下げると介護費用は約1,000億円減少する」と指摘してきた。したがって、今回の引き下げで、給付費と利用者負担合わせて2,270億円が節減されることになる。それは、介護事業者にとっては、介護報酬が実質的に4,480億円減ることを意味する。

14年の介護実調が大幅引き下げの根拠。その実調に改善の方向

 一方、14年の介護事業経営実態調査によると、収支差率は、特定施設12.2%、通所介護(デイサービス)10.6%、特養8.7%、介護療養型8.2%などと高く、全サービスの加重平均も8%程と中小企業平均の2.2%と比べると高水準にあるとし、「全体として-6%程度の適正化が必要」であると財務省は主張してきた。
 その結果、14年度の介護報酬改定は、収支適正化ということで、報酬全体を4.48%下げ、他方で、消費税増税分という安定財源を確保して、介護職員の処遇改善(+1.65%)と地域包括ケアシステムの構築に資する小規模事業所支援(+0.56%)を行なう予算配分が実現、基本的に財務省の意向が貫かれた。
 財務省が「-6%の適正化が必要」と主張した根拠に使われた14年介護事業経営実態調査は、毎回改定前年の、決算月が多い3月を対象に4月に実施されるが、回収率は5割を下回っている。しかも、単月調査である上、客体が毎回違っていることもあり、かねてから、その精緻度が疑問視されてきた。
 14年の調査に対しても、例えば、前回の3.5%から12.2%へと収支差率が急増した特定施設について、全国特定施設事業者協議会は「昨年、特定協から野村総研に委託して実施した特定協の独自調査では、収支差率は8.7%であった。12.2%というのは疑問が残る結果である」との声明を発表。
 収支差率が8.7%とされた上、高水準の内部留保蓄積で批判にさらされてきた特養についても、全国老人福祉施設協議会は「我々の独自調査では収支差率は4.3%でしかない」と反論している。
 介護事業経営実態調査等介護事業をめぐる調査手法の設計は、介護給付費分科会でも、かねてから見直しを求める意見が出ていた。
 そういう意味からは、1 月11 日の「大臣折衝事項」に、「次回の介護報酬改定に向けては、サービス毎の収支差その他経営実態について、財務諸表の活用の在り方等を含め、より客観性・透明性の高い手法により網羅的に把握できるよう速やかに所要の改善措置を講じ、平成29年度に実施する介護事業経営実態調査に確実に反映させる」と明記されたことの意義は大きい。
 それでも、財務省は、さらに「今後、収支差率を中小企業の水準より低い水準とすることも検討すべきではないか」と提案している(14年10月8日財政制度分科会)。
 だが、常勤労働者で福祉施設介護職員の平均給与額は21.9万円と全産業平均の32.4万円より10万円以上少なく、勤続年数も5.5年と、全産業平均の11.9年の半分にも満たないのが現状だ(厚労省「2013年賃金構造基本統計調査」)。
 そうした中で、一体改革の2025年シナリオは12年度より約100万人多い250万人の介護職員が必要と推計。その有力な手段として処遇改善加算を設け、今回も、当初1人月額1万円の増額という案を1.2万円に積み増しした上、前改定で「処遇改善加算は次期改定まで」とした方針を変え、今改定でも加算を継続した。
 しかし、このほど厚労省が各都道府県から受けた報告をまとめたところ、2025年に確保できる介護職員数は全国で220万人程にとどまり、現在の処遇改善等をもってしても、30万人不足すると推計されることがわかった。
 介護職員確保の難しさは介護給付費分科会でもしばしば語られており、委員からは「給与待遇だけではだめ。産休・育休を含めた待遇の底上げ、さらには誇りの持てる職場づくりが欠かせない」との声があがっている。
 そうした職場環境をつくるためには、安定的な収益の確保が欠かせない。
 中小企業以下の収支差率で要介護高齢者に献身的サービスを提供するスタッフに応える職場環境を提供していけるのか、財政的視点のみで2025年を乗り切ろうとする財務省の考え方に疑問はつきない。