全日病ニュース

全日病ニュース

専門医制度の拙速な実施避け、地域医療に十分な配慮求める

専門医制度の拙速な実施避け、地域医療に十分な配慮求める

【四病協・日医が専門医機構と学会に要望】

 四病院団体協議会と日本医師会は6月7日に会見を開き、日本専門医機構と基本診療領域を担う学会に対し、新たな専門医の仕組みを2017年度から拙速に導入することはせず、地域医療を崩壊させることのないように十分な配慮をした上で専門医研修を始めることを求めた。また、専門医を目指す医師や患者・国民を含めた幅広い関係者で検討の場を設けることを提案。その場で各診療領域のプログラムを精査し、懸念が払拭できないプログラムは開始を延期することを求めた。

 新たな専門医の研修プログラムが始まると、都市部の大学病院や大病院に専門医を目指す医師が集中し、地域偏在が拡大する懸念が高まっている。また、制度を運営する日本専門医機構のガバナンス不足が指摘されており、新専門医制度をめぐる混乱に拍車をかけている。厚労省は社会保障審議会・医療部会のもとに「専門医養成の在り方に関する専門委員会」を設置し、「専攻医」の定員枠などの対応を検討しているが、関係者の不安は払拭されていない。
 会見では、日医の横倉会長が要望の趣旨を説明。「地域医療提供体制と専門医機構が提案する仕組みの間に齟齬が生じている」と述べた。全日病の西澤会長は、地域の中小病院から医師の引揚げが始まれば、「地域医療の崩壊につながる」とし、制度全体を立ち止まって見直す必要性を強調。日病の堺会長は「専門医制度は医療提供体制を包含した複合的課題となっている」との認識を示した。日本精神科病院協会の山崎会長は、「このままでは初期臨床研修制度で壊れた医療がさらに崩壊する」と発言。医療法人協会の加納会長は「しっかり立ち止まり研修プログラムを点検する必要がある」と強調した。
 要望書は具体的な提案として、専門医を目指す医師や患者・国民も加え、関係者を集めた検討の場を早急に設置することを求めた。検討の場で、各診療領域のプログラムを集中的に精査。
 地域医療の観点から懸念が残れば、来年度の開始を延期し、現行の仕組みを維持することを求めた。
 各診療領域のプログラムにおいて、地域医療に配慮した病院群が設定されているかについて、都道府県の協議会の了解を得ることを条件とした。日本専門医機構に対しては、「日常的な運営のあり方」を含め、抜本的な見直しを求めている。
 塩崎恭久厚労相は同日、四病協・日医の要望についてコメントを発表。「医師・研修医の偏在防止及び日本専門医機構のガバナンスの抜本的見直しを要望した趣旨を十分理解する」との認識を示した上で、専門医機構および学会に対し、医療関係者や自治体の意見を真摯に受け止めるよう、強い期待を表明している。

●新たな専門医の仕組みへの懸念について(要望)

 ①患者や国民に不利益を及ぼすような急激な医療提供体制の変更をしないこと。地域医療の崩壊を防ぐことを最優先し、ここは一度立ち止まり、専門医を目指す医師の意見を聞くとともに、地域医療、公衆衛生、地方自治さらには患者・国民の代表による幅広い視点も加えて早急に検討する場を設け、その検討結果を尊重すること。その際いわゆるプロフェッショナルオートノミーは尊重されるべきである。
 ②検討の場において、現在各診療領域で定められているプログラム整備基準、特に指導医を含む医師及び研修医の偏在の深刻化が起こらないかどうか集中的な精査を早急に行い、その結果、地域医療の観点から懸念が残るとされた診療領域のプログラムは2017年度からの開始を延期し、現行の学会専門医の仕組みを維持すること。
 ③新たな専門医の仕組みにおけるプログラム作成や地域医療に配慮した病院群の設定等を行うに当たっては、それぞれの地域において都道府県、医師会、大学、病院団体等の関係者が協議、連携し、都道府県の協議会において了解を得ること。
 ④日本専門医機構のガバナンスシステム等、組織のあり方については、医療を受ける患者の視点に立って専門医の仕組みの再構築を目指すという原点に立ち返り、医師の地域的偏在の解消に向けて寄与するなど地域医療に十分配慮すべきであり、そのためにも、地域医療を担う医療関係者や医療を受ける患者の意見が十分に反映され、議論の透明性や説明責任が確保されるようなガバナンス構造とする等、日常的なあり方を含め、抜本的に見直すこと。
 ⑤すべての医師が専門医を取得するものではなく、女性医師をはじめとした医師の多様な働き方に十分配慮した仕組みとすること。また、すでに地域医療で活躍している医師が、専門医の取得、更新を行うにあたり、医師の診療体制や地域医療に悪影響が出るような過度な負担をかけないこと。
 ⑥総合診療専門医、サブスペシャルティの議論はそれぞれ時間をかけてしっかりと行うこと。

●西澤会長の発言

 新専門医制度は必要だが、会員病院、中小、地域の病院からこの制度が始まると、医師の引揚げが生じるとの声がかなり前から出ていた。これはやはり地域医療の崩壊につながるということで、そうなれば新専門医制度の趣旨とも相反する。もう一度、新専門医制度を見直し、地域医療を守る方向にするために今回の要望となった。
 来年度から新専門医制度を性急に始めないことが基本であり、制度全体として立ち止まる必要があるという趣旨だ。

 

全日病ニュース2016年6月15日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 「日本専門医機構(仮称)」の骨格を11月に決定。年度内に発足|第808 ...

    http://www.ajha.or.jp/news/pickup/20130901/news13.html

    2013年9月1日 ... 日本専門医機構(仮称)」の骨格を11月に決定。 年度内に発足. 【専門医制度を担う第3
    者機関】 四病協含む5団体で準備委。5委員会の設置と委員長を決定. 新たな専門医
    制度を担う第3者機関として関係者の間で協議されてきた組織の概要 ...

  • [2] 四病協のうごき:お知らせ - 全日本病院協会

    http://www.ajha.or.jp/topics/4byou/

    医療制度改革の急速な進展によって、医療の大きな比重を占める病院のデータと要望を
    政策に反映させる必要や、病院現場の声を届かせる力量を蓄える必要が迫られている
    こと ... 2016.06.08新たな専門医の仕組みへの懸念について(日本医師会・四病院団体
    協議会:H28.6.7) PDFリンク ... 2013.10.07日医・四病院団体協議会合同記者会見「
    特定除外に該当する入院患者実態調査結果について」(H25.9.18)( 共同声明 PDF
    リンク ...

  • [3] 医療部会で新専門医制度に批判相次ぐ|第866回/2016年3月1日号 ...

    http://www.ajha.or.jp/news/pickup/20160301/news04.html

    2016年3月1日 ... 2月18日の社会保障審議会の医療部会は、日本専門医機構が報告した新たな専門医
    制度の設計内容に委員からの批判が相次いだために、専門委員会を設置して、開始
    時期を含め、制度設計に関する検討を開始することを決めた。(1面記事 ...

本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。