全日病ニュース

全日病ニュース

新専門医制度で地域医療へのさらなる配慮求める

新専門医制度で地域医療へのさらなる配慮求める

【厚労省・医師養成検討会】
整備指針の見直し求める声相次ぐ

 厚生労働省の「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」(遠藤久夫座長)が4月24日に初会合を開いた。開始を1年延期した専門医の新たな仕組みに対し、医師偏在の拡大を懸念する声が依然としてあることを踏まえたもの。初会合では、日本専門医機構の吉村博邦理事長に対し、地域医療に配慮する方向で、専門医制度新整備指針の変更を求める意見が相次いだ。
地域医療への懸念が再び高まる
 新たな専門医制度は、今年度の開始を予定していたが、医師偏在の拡大などの懸念に対応するため、昨年7月に日本専門医機構の執行部と組織を刷新。
 全日病の神野正博副会長も理事として参加し、新たな体制とした上で、実施を1年延期し、来年度からの開始に向けて準備を進めている。昨年12月には新整備指針、3月には運用細則を決定した。しかしこの段階で、再び地域医療への影響が懸念される状況となり、塩崎恭久厚労相の意向により、同検討会の設置に至った。
 塩崎厚労相は冒頭の挨拶で、「地域医療への影響を心配する過疎地などの声をずいぶんと聞いた。医療関係者、特に地域医療に責任を持つ行政関係者が心配している」と述べた。その上で、地域医療に配慮した専門医制度のあり方について、「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」の報告書を踏まえた検討を求めた。
 同検討会の検討課題は、◇地域医療に求められる専門医制度◇卒前・卒後の一貫した医師養成◇医師養成の制度における地域医療への配慮。地域医療への配慮とともに、文部科学省の担当者が参加し、医学教育のあり方もあわせて検討する会議となっている。
すべての医師が専門医を取得する必要はない
 初会合で厚労省は検討に当たって次の3つの論点を示した。
(1)専門医は自発的な自己研鑽として位置付けられるもので、すべての医師が専門医を取得することが、実質上義務付けられるものでないことを明確にする
(2)女性医師等に専門医資格の取得を促す観点から、地域医療従事者等に配慮したカリキュラム制の設置を明確にする
(3)様々な患者を診ることができる市中病院も重要な研修拠点とし、研修の中心は大学病院のみでなく、症例の豊富な地域の中核病院等であることを明確にする
 これらは専門医機構が整備指針を検討する過程で、配慮してきた点であるが、改めてその明確化を求めた形だ。
 吉村理事長は同日、関係者に配慮しつつ、新整備指針や運用細則を検討したことを説明したが、委員からは厳しい指摘が相次いだ。
市長会が緊急提言を提出
 相馬市長の立谷秀清委員は、「地域医療の最終的な責任者は市町村長であり、我々の意見をきくべきというのが基本的な立場」として、これまでの経緯に不満を表明。その上で、「一番危惧しているのは、(年次を定めた研修である)プログラム制による3年以上の研修が大学病院、基幹病院、連携病院で行われることであり、相馬市のような地域では地域医療に貢献している若い医師がいなくなってしまう」と述べた。
 全国市長会は4月12日、「国民不在の新専門医制度を危惧する」と題して、塩崎厚労相に緊急提言を行っている。
 その中で、◇中小病院が危機に陥る懸念◇地方創生に逆行する危険と医師偏在の助長◇医師の診療活動開始年齢の遅延と医療コスト増大◇初期臨床研修制度導入に立ち返りPDCA で考えるべき◇若手医師たちに義務的に医局生活を強いる理不尽─を指摘している。
 吉村理事長はこれらの懸念に対し、同日の会議に文書を提出。「そのような懸念が現実化しないよう努める」と述べた上で、これらの懸念に配慮して、基幹施設の基準や5都府県の都市部に設けた専攻医募集定員の上限設定、カリキュラム制導入など対応を講じていることを説明した。
 日本医療法人協会会長の加納繁照委員は、「専門医を取得していない医師を『フリーター医師』と呼ぶべきではない。病院団体としては病院総合医の育成に取り組んでいる。そのような認定制度もある。すべての医師が機構認定の専門医になる必要はないことを明確にすべき」と訴えた。また、2017年度の暫定プログラムの実施で、大学病院で研修を受けている専攻医の全体に対する割合を診療科ごとに示すことを要請した。
 3つの論点をめぐっては、他の委員からも様々な意見があった。具体的には、「総合診療医の能力は初期臨床研修を終えた段階で備わっていることが望ましい」、「基本診療領域の研修は症例の豊富な地域の中核病院、サブスペシャリティの研修は大学病院が中心になるという考え方があるのではないか」、「カリキュラム制で5~ 10年かけて専門医を取得できる柔軟な仕組みが必要」などの意見が出た。
 そのほか、「専門医にならなくてもよいという選択肢を機構はどう研修医に伝えるのか」、「機構は各学会にカリキュラム制を導入させる権限を持っているのか」などの質問も出た。吉村理事長は今後、機構の理事会などで議論したいと答えた。

 

全日病ニュース2017年5月15日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 新専門医制度に関する厚労省の委員会が初会合|第869回/2016年4 ...

    http://www.ajha.or.jp/news/pickup/20160415/news02.html

    2016年4月15日 ...専門医制度に関する厚労省の委員会が初会合|第869回/2016年4月15日号
    HTML版。21世紀の医療を考える「 ... 地域の医師偏在がさらに拡大しかねないとの
    意見を受け、医療部会は新たな委員会を設置し、実施の延期を含めて検討 ...

  • [2] 新専門医制度は2018年度から一斉にスタート|第876回/2016年8月1 ...

    http://www.ajha.or.jp/news/pickup/20160801/news01.html

    2016年8月1日 ...専門医制度は2018年度から一斉にスタート|第876回/2016年8月1日号 HTML版
    。21世紀の医療を考える「全日 ... 専門委員会で十分な議論がないまま第2回会合で、
    地域医療への影響を避けるため「専攻医」の募集枠に制限を設ける ...

  • [3] 新専門医制度に関する厚労省の委員会が初会合

    http://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2016/160415.pdf

    2016年4月15日 ... 療計画に盛り込まれる地域医療構想を. すべての都 .... 研修が始まる新専門医制度
    準備作業. が不十分との意見が相次いだ。地域の. 医師偏在がさらに拡大しかねないと
    の. 意見を受け、 ... 厚労省は、専門委員会の初会合で、. 「医師の ...

本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。