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「院内感染防止対策(新型インフルエンザを含む)」

Ⅰ.院内感染とは

 院内感染とは、病院内で体内に接種された微生物によって引き起こされる感染症で、退院してから発症しても病院内での微生物接種に起因する感染症であれば院内感染とされます。一方、病院外で接種された微生物によって入院後に発症した感染症は市中感染と呼ばれ、院内感染とは区別されます。また、医療従事者が病院内で接種された微生物によって感染症を発症した場合も院内感染とされます。一般的には、入院後 48 時間以降に発生した感染症で、入院時にはその病原体の存在が無かったものとされています。

Ⅱ.院内感染防止対策とは

 院内感染の発生を未然に防ぎ、発生した感染症を制圧する事が院内感染防止対策の目的となります。近年、院内感染が発生すると、感染防止対策の不備や不徹底がマスコミにも取り沙汰され、病院自体への風評被害や経営的な損失がその代償となっている現状が散見されます。しかし、院内感染による最も大きな損失は、病院を信頼し、治療を求めて来院している患者に二次的に院内感染が発生することで、医療者との信頼関係が崩れてしまう可能性がある事とも思われます。医療者、患者、いずれの立場であっても行き場のない思いを抱えてしまうのが院内感染の特殊性の一つです。しかしながら、規模の大きな病院などでは院内感染をゼロにすることは困難な現状があり、可能な限り頻度を少なくすることが重要です。そのためには、医療者ひとりひとりが正しい院内感染対策の知識を持ち、実践する必要があります。

Ⅲ.院内感染対策の具体的方法

 院内感染の発生を未然に防ぐには、下記の 3 つの防止策が柱となります。
1.患者個人における感染症の発生防止
2.患者から患者への病原体の伝播防止
3.職業感染防止

 上記に共通して基盤となる考え方としては、「 感染症には感染経路がある 」という事があります。病原体は人に付着します。病原体の種類によって、直接鼻やのどに入って感染するもの、気道に入って感染するもの、人の手を介して感染するもの、に感染経路は分かれます。これらの感染経路を遮断すれば、理論的には感染は防げるはずです。以下に、病原体の感染経路について概説します。

感染経路と防御策

 病原微生物の感染経路は、飛沫感染、空気感染、接触感染の 3 つに分けられます。感染者の咳やくしゃみで生じた飛沫粒子は通常 5μm以上で、これに暴露されることにより感染するものを飛沫感染といいます。1m以内で患者に接する際には、マスク着用(場合によってはゴーグルも)し、診療します。空気中で飛沫粒子の水分が蒸発して 5μm以下の軽い微粒子(飛沫核)となってもなお病原性を保つ微生物は長時間空気中を浮遊し、1m 以上の長距離を移動します。これを呼吸により吸い込むことにより感染が成立するものを、空気感染といいます。空気感染を防ぐためには、特殊なフィルター機能を持つマスク(N95 マスク、N95 レスピレーター;空気中に浮遊する非油性微粒子のうち平均径 0.3μm の微粒子を95%以上捕集し、さらに立体的形状によって顔面にフィットさせることによりマスク周囲からの空気の漏れを 10%以下に抑える性能を有す微粒子用マスク)の着用が必要です。N95マスク着用の際には、正しく着用できたかどうかその都度自己チェックを行うことが重要です(フィットチェック)。

フィットチェックの方法(N95マスク着用時)
1. 強く吸気してから息を吐く動作を数回行います。マスクは吸気時にわずかにしぼみ、と呼気時にわずかに膨らむ程度が良い装着状態です。これによりフィット状態を確認します。
2. 顔とマスクの間に隙間がないか、息を吐きながら手を当てて確認します。
3. 吸・呼気いずれによっても、マスクがしぼんだままにならないかを最後に確認します。
4. 以上が適正になるまで、装着方法を再確認しながらチェックを繰り返します

一方、感染者・医療従事者の手指や病原微生物に汚染された物品を介して感染する場合を接触感染といいます。これを防止するには、手袋、ガウンの装着が必要です。空気感染、飛沫感染、接触感染をおこす主要な病原微生物を次に示します。

主要な病原微生物
空気感染 ・結核菌
・水痘ウイルス
・麻疹ウイルス
飛沫感染 ・インフルエンザ
・アデノウイルス
・ムンプスウイルス
・マイコプラズマ
・風疹ウイルス
・百日咳
 など
接触感染 ・MRSA
・ノロ、ロタウイルス
・多剤耐性緑膿菌(MDRP)
・腸管出血性大腸菌O-157
・バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)
・RSウイルス
 など

 正しく感染予防策を実践するには、病原微生物がそれぞれどのような感染経路をとるか知っておくことが重要です。

Ⅳ.標準予防策とは

 感染症があることが判明している患者には感染予防策を適用することができますが、実際の臨床の場では、感染症があるかどうかわからない場合がしばしばあります。そのような場合にとる予防策を「標準予防策」と呼び、『患者の血液・体液や患者から分泌・排泄されるすべての湿性物質(尿・痰・便・膿)は感染症のおそれがある』とみなして対応することを意味し、感染症の有無にかかわらず、病院でケアを受けるすべての患者に適用する予防策です。具体的には、下記のような対応を行います。

感染予防策

 マスクや手袋、ガウン、ゴーグルが取り出しやすい位置に配置されているよう工夫することが、標準予防策を習慣的に行うには重要です。

Ⅴ.新型インフルエンザと感染対策

 新型インフルエンザとは、新たに人から人に伝染する能力を有することとなったインフルエンザであって、一般に国民が免疫を獲得していないことから、全国的かつ急速なまん延により国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとされています。これまでに流行した主な新型インフルエンザには、1918 年から 39 年間流行したスペインインフルエンザ、1957 年から 11 年流行したアジアインフルエンザ、現在も流行している1968 年に出現した香港型インフルエンザと 1977 年に出現したソ連型インフルエンザがあります。新型インフルエンザパンデミックによる全世界の死亡者数は、スペインインフルエンザでは約 2000 万人(本邦では約 39 万人)、アジアインフルエンザでは約 100 万人(本邦では約1万人)、香港型インフルエンザでは約 5 万 6 千人(本邦では 1231 人)とされていますが、死亡者数は診断技術の進歩や抗菌薬、抗ウイルス薬、ワクチンの開発に伴って減少してきていることがわかります。

感染予防策

 これまでの新型インフルエンザの流行をみてみると、新しい亜型が出現すると、それまでのインフルエンザに取って代わるような流行パターンを示していますが、1977 年のソ連型が出現した際には香港型は消失せず、主として 2 種類のインフルエンザA亜型が流行してきていました。今回の新型インフルエンザが、今後香港・ソ連型に取って代わるようになるのかどうかは分かりませんが、現時点では世界中で大多数の国が従来型から今回の新型インフルエンザ H1N1 亜型に取って代わっているようです。

感染予防策

(8月16日までの状況、青:新型インフルエンザの占める率、赤紫:従来のインフルエンザの占める率、WHOより)

 新型インフルエンザといっても、病原体が飛沫感染により感染するインフルエンザウイルスであることに変わりがありません。医療者、患者、そして一般市民のひとりひとりがマスクを必要時着用し、手洗いを励行して予防策をとることで、感染の拡大は防げるものと思います。なお、一般市民の予防的なマスクの着用は、患者と接するときはもちろんですが、それ以外の場合では、流行期に人ごみなどで人と 2m 以内の接触が長時間続く場合には着用を考慮します。一方、新型インフルエンザを発症した患者は、発症 1 日前から発症後 7 日目まで感染性を有するとされています。また、環境表面上には、ウイルスは2-8時間生存する事が知られており、咳などによる飛沫で汚染された環境からの接触感染にも注意が必要です。

Ⅵ.おわりに

 感染が成立するには感染経路があることを知り、適切な感染経路別感染予防策をとること、そして、その基盤として常に標準予防策を徹底する事が、患者・医療者を院内感染から守るために重要です。防御具の配置状況や、予防策の遵守状況を院内ラウンドなどにより、定期的にチェックする事が感染対策の水準を維持するためには必須です。

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