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ホーム全日病ニュース第800回/2013年5月1日号救急医療提供体制の現状と課題...

救急医療提供体制の現状と課題:高齢者の増加に対応。救急を面で受ける体制整備が必要

救急医療提供体制の現状と課題
高齢者の増加に対応。救急を面で受ける体制整備が必要

1次、2次、3次の役割分担が不可欠。主役は民間の2次救急病院

常任理事 救急・防災委員会委員長代行 加納繁照 

 

「2・3・4、8・7・6の法則」

 世界一と讃えられる日本の医療を支えているのは民間医療機関である。私は、この事実を分かりやすく「2・3・4、8・7・6の法則」と表わしている。この法則を唱えてかなり久しいが、まだまだ理解されていないのが現実である。
 あらためて説明させていただくと、日本の約8,600病院のうち、民間病院は8割を占めており、公的病院は残りの2割に過ぎない。ベッド総数(約158万床)では、民間が7割、公的が3割である。
 そして、今回のテーマである救急医療でみると、全国の年間救急搬送受け入れ数(約517万件)のうち、民間は6割を受け入れており、公的は4割にとどまっている。
 すべてにわたって民間病院が頑張っているわけだが、8割を占める病院総数、7割を占めるベッド総数の中には、精神科の病院や慢性期病院の数とベッド数も含まれている。
 以上より、公的が2割、3割、4割であるのに対して、民間は8割、7割、6割と圧倒的なシェアを占めており、これに9割以上の診療所が民間であることを加えれば、まさしく、日本の医療は民間医療機関で成り立っているとすら言える。

 

高齢者救急の増加にどう対応するか

 こうした実態を踏まえ、今後の日本の医療を考えるにあたって、もう1つ大きな現実を考慮しなければならない。それは人口動態の変化である。
 今や、日本は、団塊の世代を中心とする母集団が社会的就労期を終えて引退しつつある。そして、高齢化が進み、最後は病気となり、看取りが必要となってくる。
 日本の総人口に占めるこの母集団の割合が圧倒的に大きくなってくるわけであるが、この年代の医療のメインテーマは、やはり、有病率が高くなる癌の治療及びそのターミナルの問題と、脳卒中、骨折、肺炎など高齢者の急病変化に対する高齢者救急の問題だ、と考える。
 特に独居の高齢者増加と、医療関係者ではない、営利を求めて運営を行う株式会社等が経営するサ高住を中心に増加する老人施設は、おのずと同施設の入居者に対する急病等急変時の対応はできないため、救急搬送依頼を増加させていくと思われる。
 現に5年前には5割そこそこだった全救急搬送者に対する高齢者の割合は、今や6割に達しようとしており、その増加割合は急峻な傾向が続いている。
 一方で、日本の人口は1990年を境に65歳以下の人口は急激に減少しており、この層への救急搬送必要量も絶対的に減少している。したがって、従来通りの65歳以下を対象とする高度救命救急センター、3次救急等の救急医療機関の必要度もおのずと減少してきている。
 今後は、いかにして、65歳以下とは逆に増加してゆく高齢者救急の対応を考えるかが現実的に求められてくるポイントだと考えられる。

 

高齢者救急を担う2次救急病院の減少

 では、高齢者救急をどこが診るのかということになるが、高齢者が陥りやすい救急搬送事例の多くは脳卒中、骨折、肺炎などで、本来は2次救急病院で診ることができる疾患である。全て3次救急でこれを診るのかというと、現実にも、多くは2次救急病院で対応しているのが実態である。
 ただし、2次救急病院は厚生労働省が集計するデータとは違い、救急搬送を担当する消防庁を管轄する総務省が発表する通り、現実には、この十数年来減少傾向にある。その結果、2次救急からあふれた高齢者救急搬送患者が3次救急に流れ込むという現象が起こっている。
 3次救急は、本来、人口100万人に1ヵ所という予定を超え、現在、その倍の施設が全国に建設されている。一方で、それを支える救急専門医の養成数が追い付かず、3次救急同士でスタッフの取り合い状態となっており、大学の救急部でもスタッフ不足から、教授が月に数回の当直をこなさなくてはならない状況を生んでいる。
 せっかく救急医療が研修医の必須科目になっていても、疲弊した救急医療現場と、実体的には搬送されてくる高齢者の看取りの場になっている状況を見て、新たに救急専門医として頑張ろうという研修医は減っているのが現実だ。まさしく悪循環である。
 これを直すのには、高齢者救急は原則的に2次救急に担ってもらうよう誘導をしっかり行い、3次救急には2次救急では対応できない高次の救急に限定すべきと考える。
 3次救急医療機関を整理し、スタッフを集約化した上で、2次救急医療機関には診療報酬などの医療経済的な支援が必要である。

 

診療報酬における2次救急評価の問題点

 現在の2次救急について算定される診療報酬は、1週間を限度とする1日800点(8,000円)の救急医療管理加算だけである。
 それに対して、3次救急では、救命病棟に算定される3日以内1日9,450点(9万4,500円)、4日~7日以内1日8,390点(8万3,900円)、8日~14日以内1日7,140点(7万1,400円)等の高額な点数がついており、高齢者を預かっても対応できる充分な報酬となっている(表を参照)。
 2週間の入院で考えると、2次救急が3次救急の20分の1の報酬では同じ対応は難しいと思われる。
 さらに、日本の救急問題には地域差があり、人口密度の少ない地域では医療資源の集約化が必要なため、ER、1次・2次・3次を全てで行なうなどする為に、場合によっては地域で1ヵ所に集約し、いわば点で受ける地域もある。
 しかし、これから最も高齢者が急増する大都市では、その救急に対応すべく、面で受ける体制、すなわち数をこなすために1次・2次・3次と役割分担を行い、多くの医療機関で救急を受け入れしていかなくてはならないと思う。
 もちろん、この1次には在宅医療も関わってくると考えられるが、やはり、主役は2次救急病院であり、それを担っている多くの民間病院が応需していかなければならない。
 国には、ぜひとも、早急な経済的支援を含む政策面の対応をお願いしたいものである。

2次救急病院と3次救急病院に入院した場合の加算額の差