全日病ニュース

全日病ニュース

ホーム全日病ニュース第810回/2013年10月1日号厚労省 医療機能ごとの病床数のあり方で2案を提案

厚労省 医療機能ごとの病床数のあり方で2案を提案

厚労省 医療機能ごとの病床数のあり方で2案を提案

厚労省 医療機能ごとの病床数のあり方で2案を提案

【社保審医療部会】
議論プロセスを無視した唐突な提案。委員多数の反対に第3の案を模索か

 厚生労働省は10月11日の社保審医療部会に、一般・療養の病床数を病床機能報告制度の医療機能ごとに定める仕組みを医療法に導入する提案を行なった。
 その中で、病床数を機能ごとに定める方法として、(1)一般・療養の病床区分とは別に高度急性期、急性期、回復期、慢性期という区分を設けた上で、現行基準病床数とは別に基準病床数を4区分ごとに定める(案1)、(2)新たな病床区分や基準病床数は設けないが、機能ごとに定量的基準を定め、診療報酬と基金によって医療機能ごとに必要な病床数へ誘導していく(案2)、という2案を提起した。
 ほとんどの委員が「案2」の方向での検討を求めたが、全国知事会の荒井委員(奈良県知事)は「案1」を支持、議論はまとまらなかった。
 このため、田中滋部会長代理(慶應大学経営大学院教授)は「機能別の区分を定めるが基準病床数は定めないという考え方もある」と指摘、第3の案を模索することを提案した。これを受け、事務局(厚労省医政局総務課)は、次回部会に、前出2案と異なる案を示すことを検討している。(10月15日号既報。4面に厚労省提案を掲載)

 

『法制上の措置』に「必要な病床の適切な区分の設定」

 病床区分の設定は、社会保障制度改革国民会議の提起を受け、閣議決定された「法制上の措置の骨子」に「地域医療ビジョンの策定及びこれを実現するために必要な措置(必要な病床の適切な区分の設定、都道府県の役割の強化等)」と書き込まれた(傍点は編集部)。
 これによると、「必要な病床の適切な区分の設定」と「都道府県の役割の強化」は、地域医療ビジョンを実現する上で両輪に位置づけられている。
 第6次医療法改正として病床機能の分化・連携が提起された最初の議論は「急性期病床群」であった。この問題を検討した作業グループは、「国は、各地域の病床機能の現状を把握、分析し、地域の実態も踏まえ、医療法における医療機能の登録制など位置づけのあり方や病床区分の見直しについて今後検討を行う」(2012年6月15日)ことで合意した。
 したがって、医療法における病床区分の見直しが課題にあげられることは止むを得ないことだが、しかし、この合意は「各地域の病床機能の現状を把握、分析し、地域の実態も踏まえ」た上で新たな病床区分を検討するという内容であった。
 病床機能の報告制度については、9月4日の「病床機能情報の報告・提供の具体的なあり方に関する検討会」で、一般・療養の病床を、病期という定性的基準にもとづいて前出の4区分とすることで合意したところで終わっており、その後開かれていない。したがって、報告事項を定める議論に着手していない。
 つまり、定量的基準策定の基となる全国から報告される機能内容の項目すら明らかではなく、なお議論の端緒にあるというのにもかかわらず、厚労省は、いきなり、そのだいぶ先の議論を求めたのである。この日の医療側委員の反発は、まずは、議論プロセスを無視し、先走った課題を提起してきた厚労省に向けられた。

案1/病床区分ごとに基準病床数を設定、許可制度とする

 「案1」は、現在の一般病床・療養病床とは別に、報告制度で用いる病期による区分(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)を病床区分として法定し、その上で、現行の基準病床数と別に4区分ごとに基準病床数を設ける、というもの。病床過剰地域における増床と新設は許可制度が適用されることになる。
 これはかなり飛躍した話であり、田中部会長代理も「基準病床数というがちがちの方法はいかがなものか」と批判した。
 現行の基準病床数と別に設定した場合に、4区分は手術件数などの定量的基準で分けられ、一方、現行の一般・療養病床は人員配置・設備構造で分けられる。つまり、ダブルスタンダードが出現することになる。

案2/「定量的基準に合致しない病床は報告できない」

 「案2」は、病床区分や区分ごとの基準病床数は設けないが、各区分に「定量的基準」を設け、ビジョンで設定される機能ごとの必要量に誘導していくという方法だ。
 これまでの議論で合意している地域医療ビジョン策定の工程は、具体的報告項目の検討→報告システムの整備→報告制度の開始(並行して地域医療ビジョンのGLの検討)→GLの策定→GLを踏まえて各都道府県が地域医療ビジョンを策定、というものだ。
 提案は、「当初は、各医療機能の内容は定性的基準とするが、報告された情報を分析し、今後、各医療機能の定量的な基準を定める」としている。つまり、当面は病期による4区分で報告を受けるが、定量的基準以降は、それにそって報告を受けるという考えである。
 これに関して、土生総務課長は、「定量的基準がつくられれば、それに合わない病床は報告できないことになるのは当然である」と説明した(別掲)。回復期の基準に合致する医療機能であるのに急性期という報告は困るという意味かと思われるが、誤解を招く言い方だ。
 「病床機能情報の報告・提供検討会」で合意されたのは、病期にもとづく区分で報告させるのは基本的には病床の機能であるということである。ここで、複数の機能をもつ病棟があることは前提として確認されており、「主に◎◎という機能であるが、別の機能に該当する患者も入院している」といった報告になることは了解事項である。
 それだけに、「案1」の病期の区分を病床区分として基準病床数化することは、まさに論外なのわけだが、「案2」も、定量的基準によって各病棟を1つの機能区分に収斂させるのであれば、実態から乖離することになる。
 次に、「案2」で「診療報酬と新たな財政支援の仕組みとを適切に組み合わせて、必要な医療機能の病床数へと誘導していく」としている考え方は、「一般病床の機能分化の推進についての整理」(「急性期医療に関する作業グループ」12年6月15日)で報告制度を「医療機関が担っている医療機能を自主的に選択し、報告する仕組み」と定義した方向と異なる。
 報告制度は、医療機能の現状を医療機関の判断で報告し、その機能分布を把握した上で、ビジョンで示される将来展望にそって各医療機関が自ら病棟政策を変えていくプロセスを整えるためのツールであるはずだ。
 それを、「診療報酬と新たな財政支援」で誘導するというのは、7対1導入の失敗を教訓にしていないと思われても仕方がないといえよう。

都道府県の役割強化と医療側の役割拡大

 今回の事務局提案にある「都道府県の役割強化」は、都道府県裁量枠の拡大と都道府県の政策決定・実施に占める医療団体の役割拡大の2面からなる。
 その例が、圏域連携会議の位置づけを通知から医療法に格上げすることであり、各県医療審議会や傘下の医療計画策定の検討会などに加え、医療団体の発言の場が広がる。
 医師派遣のコントロールタワーとなる地域医療支援センターも医療法に位置づけられ、しかも、大学病院等外部に運営委託されることになる。また、看護師確保に関しではナースセンター運営への関与機会も広がる方向だ。
 医療提供体制の実効性ある政策議論・決定と実施のためには医療団体との密なコミュニケーションが欠かせない。都道府県で医師会や病院団体が強固な連携を構築すれば、発言権や影響力の拡大は可能である。
 他方で、「一定期間稼働していない病床に対する都道府県知事による稼働・削減の要請」や「医療機関に対する都道府県知事による医療機能の転換等の要請・指示」という、知事に“指揮権発動”の機会を与える案も示されている。
 とくに、「地域医療ビジョンの達成のための都道府県知事による診療報酬に関する意見提出」というのは、例えば、「案2」の場合に、回復期機能をもつ病棟を増やすために診療報酬上の要件緩和や点数大幅引き上げを要請するというように、地域事情のみに目を奪われる知事によって乱用される可能性もあり、懸念されるところだ。
 いずれにしても検討されるべき課題は多々あり、医療法改正に間に合わせるための“駆け込み”提案とならないよう、時間をかけた慎重な議論が求められている。