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ホーム全日病ニュース第810回/2013年10月1日号制度骨格は現行維持。募集定員は改正。到達目標は見直しの場を設置

制度骨格は現行維持。募集定員は改正。到達目標は見直しの場を設置

制度骨格は現行維持。募集定員は改正。到達目標は見直しの場を設置

【医師臨床研修部会】
多くの課題は次回見直しに先送り。研修病院の主張通るも、大学の改革論も盛り込む

 

 2015年4月からの制度見直しについて検討を進めている医道審議会の医師臨床研修部会に、事務局(厚労省医政局医事課医師臨床研修推進室)は報告書案の「たたき台」を提示。部会は、年内とりまとめに向けた最終的な議論に入った。
 「たたき台」(骨子を別掲)には、論点ごとに今回の見直しの考え方が整理され、部会はこの日、おおむねこの方向でまとめることを確認した。
 その「たたき台」は、医師臨床研修の基本理念は現行の考え方を堅持するとしている。ただし、到達目標は「卒前教育や新たな専門医の仕組み等の動向を踏まえつつ」見直す必要があるとして、臨床研修の評価手法ともども、「次回の見直しに向け、別途、臨床研修部会の下に検討の場を設けて見直す」とされた。
 到達目標の今次見直しを見送ったことに伴い、研修プログラムの診療科、必修科目、各研修期間、基幹型臨床研修病院における症例の考え方など、医師臨床研修制度の主たる部分の改正も5年後(20年度)の見直し課題とすることで、部会の意見はほぼまとまった。
 したがって、今回の改正は、主たる論点については、研修医の募集定員設定方法の見直しのみということで決着がつく見通しだ。
 募集定員に関しては、前回(10年度)の改正で、研修医の都市部集中を回避する手段として、都道府県別の定員に上限を設けた上で研修病院定員の設定方法を定めたが、その際、①都道府県の定員の上限値は前年度実績の90%を下回らない、②臨床研修病院の定員は前年度研修の内定者(マッチ者)の実績を下回らない、という経過措置を設けた。
 この激変緩和措置を今年度末で廃止することで部会は一致している。しかし、一部の委員には、定員の大幅な減少が避けられない病院には地域への医師派遣が難かしくなるなどの影響が避けられない事態になることへの懸念もあった。
 この問題について、「たたき台」は、前回(8月8日)の議論を踏まえ、まずは、研修希望者と定員総数の比を「現在の約1.237倍から、当初は1.2倍程度とし、将来的に1.1倍程へと漸次減らしていくことが適当」と書き込んだ。
 受け入れ数と定員の乖離が研修医の偏在を促しているとの認識から、15年度開始研修医の募集から乖離を1.2倍程度に縮め、19年度研修医の募集時には1.1倍程に収斂させていくと、“目標指数”を明記したことになる。
 他方で、「都市部の定員をさらに削減することは慎重な対応が必要である」として、都道府県定員の上限は「高齢者人口や人口当たり医師数等を総合的に勘案して設定する必要がある」と提起。各研修病院の定員に関しても「都道府県上限の範囲内で都道府県が一定の柔軟性をもって定員を調整できるような仕組み」、さらに、大学病院には「医師派遣の実績をより考慮した定員の設定が求められる」と明記し、募集定員総数と乖離しない中で調整の余地を都道府県に残すことを提案した。
 15年度の研修医から現在形となった医師臨床研修であるが、プログラムの弾力化等にもかかわらず、大学病院に入局する研修医の数は制度開始前と比べると大きく減っている。
 そのため、今回の見直し議論で、大学病院の委員は、医学部教育の改革が進んでいることや新たな専門医制度が始まるなどを根拠に、現行制度を再構築する必要を声高に語った。
 制度の再編は、到達目標の見直し、研修結果評価手法の確立、研修期間の短縮化、研修プログラムの自由化など、多岐の分野について主張された。
 そうした多くのテーマが宿題とされ、次回見直しまで先送りされたわけだが、臨床研修制度のあり方は「卒前教育、国家試験、専門研修、生涯教育との連続性の観点から、総合的に検討を続けていくべきである。特に、卒前教育の充実に伴う臨床研修の見直しについては、今後も卒前教育の動向等を注視し、十分な検討が望まれる」と末尾に記すなど、「たたき台」は、もっぱら、制度の理念と骨格の維持を訴える研修病院の主張を織り込みながらも、制度の抜本的見直しを求める大学病院にも十分配慮するものとなった。

神野副会長 プライマリケア記述の削除求める意見に反論

 現行制度の基本理念については、「省令施行通知」で、「プライマリ・ケアの基本的な診療能力を身に付けることのできるものでなければならない」という解釈が示されている。
 この「プライマリ・ケア」をめぐって、この日の部会では「この言葉は(報告書から)削除した方がよい」という意見が出た。「プライマリ・ケア」という理念を支持する委員からも、「その解釈を明らかにした方がいい」といった声が相次ぎ、しばし、議論となった。
 基本的診療能力の獲得を目標にかかげる新医師臨床研修で、プライマリケアとスーパーローテート方式は制度理念を大きく支えるものだ。ただし、プライマリケアの定義や解釈は、医療提供体制の推移や医療者の置かれた立場などによって異なり、必ずしも一様ではない。
 医局制度の存続に危機感を強める大学病院の委員は、卒前教育で実習を実施し、卒後は早期に専門コースに進むという制度への再設計を求め、たびたび、「プライマリ・ケア」という概念に疑問を投げかけた。理念からの「プライマリ・ケア」排除が、あたかも医師臨床研修再構築の“一丁目一番地”とみなしているかのようである。
 こうした背景をもつプライマリケアの議論で、神野委員(社会医療法人財団董仙会理事長・全日病副会長)は、「プライマリ・ケアという言葉は、医療者だけでなく、国民にも浸透している。
 時代とともに用語の定義も変化していくが、現在、プライマリ・ケアが何であるか分からないようでは、医療人としての見識が疑われる。あえてこの言葉を外したり、注釈をつける必要はない。むしろ、報告書にも記述を残し、我々はプライマリ・ケアのできる医師を養成するのだという姿勢を明らかにした方がよい」と主張した。
 桐野座長(国立病院機構理事長)は、「プライマリ・ケアとは何かを細かく書くと必修科目との兼ね合いも出てくる」ことから、「注釈を付ける程度にとどめてはどうか」と議論を引き取った。

□医師臨床研修部会報告書案(たたき台)の骨子

●現在の基本理念は堅持することが適当。「プライマリ・ケア」の具体的な内容について補足を加えることも考えられる。
●到達目標や臨床研修の評価手法は、今次ではなく、次回見直しに向け、別途、臨床研修部会の下に検討の場を設ける。
●全体の研修期間は現行の2年以上で差し支えないと考えられるが、将来的には、見直すことも考えられる。
●研修プログラムにおける望ましい診療科や各科の研修期間は、到達目標と一体的に見直すことが考えられる。
●「年間入院患者3,000人以上」の要件は当面維持し、基準に満たない病院は訪問調査により評価する等の対応が考えられる。必要症例のあり方は、到達目標と一体的に見直すことが考えられる。
●少なくとも必修(病院独自の必修とを含む)科目の診療科には指導医が必要である。
●研修希望者に対する全体の募集定員数は、現在の約1.237倍から、当初は1.2倍程度とし、将来的に1.1倍程度に向け、漸次減らしていくことが適当。
●募集定員にかかわる激変緩和措置は、都道府県上限と各病院のいずれも平成26年3月をもって廃止する。ただし、都市部定員のさらなる削減には慎重な対応が必要。そのため、都道府県の定員上限は高齢者人口や人口当たり医師数等を勘案して設定する必要がある。各研修病院の定員について、都道府県上限の範囲内で都道府県が一定の柔軟性をもって調整できる仕組みも必要。大学病院は医師派遣実績をより考慮した定員設定が求められる。
●原則、地域枠の学生もマッチングに参加して病院を選択することが望ましい。
●臨床研修病院群については、例えば、「同一の2次医療圏内又は同一の都道府県内」(施行通知)を越える場合は正当な理由が必要である等、一定の基準を設けることが望ましい。
●将来的には研修病院に第3者評価を義務づける方向が考えられる。
●基幹型臨床研修病院の指定申請は講習会を指導医受講済みが前提となるべきである。
●臨床研修制度のあり方は、卒前教育、国家試験、専門研修、生涯教育との連続性の観点から、総合的に検討を続けていくべきである。特に、卒前教育の充実に伴う臨床研修の見直しについては十分な検討が望まれる。