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ホーム全日病ニュース第814回/2014年12月1日号「地域に密着した病院での総合診療医の養成」

第55回全日本病院学会in 埼玉/日本プライマリ・ケア連合学会との連携シンポジウム「地域に密着した病院での総合診療医の養成」(11月2日)から:地域密着の病院は総合診療部門と総合診療医養成機能を確保すべき

第55回全日本病院学会in 埼玉/日本プライマリ・ケア連合学会との連携シンポジウム「地域に密着した病院での総合診療医の養成」(11月2日)から
地域密着の病院は総合診療部門と総合診療医養成機能を確保すべき

総合診療医の活動には臓器別・領域別専門医の連携と病院全体の支援が不可欠

 

 日本プライマリ・ケア連合学会との連携シンポジウムは同学会の丸山泉理事長(全日病常任理事)が委員長を務める全日病のプライマリ・ケア検討委員会が取り組む在宅医療の推進と認知症対策の活動の一環として実現。テーマに「地域に密着した病院での総合診療医の養成」と取り上げた。
 丸山委員長とともに座長を務めた西澤会長は、プライマリ・ケア検討委員会がまとめ、全日病として機関決定した「プライマリ・ケア宣言2013」について解説、全国の地域医療を支える会員病院に、在宅医療、介護との連携、認知症への取り組みを強めるよう訴え、かつ支援していくという全日病の方針を明らかにした。
 そうした活動において、全日病は、今後も日本プライマリ・ケア連合学会と連携していく方針であると、西澤会長は言明した。
 一方、座長の丸山委員長は、総合診療医登場の背景と課題に、人口構成の変化と人口の偏在、医療資源の偏在と格差、高齢化にともなう多疾患と認知症の増大、看取りの場の確保、医療の高度化とニーズの増大、患者(国民)の所得格差と世代間格差など多様な要因があると指摘。シンポジストの話を聞く上での視点として提起した。
 最初に登壇した厚労省の國光文乃医師臨床研修専門官は、新たな専門医制度において誕生した総合診療医を「大きなエポックメークだ」と述べた上で、「初期研修医だけでなく既存領域の専門医も総合診療医になれる」と喚起した。
 國光氏は、同時に、「新たな専門医の養成数は、患者数や研修体制等を踏まえ、地域の実績を総合的に勘案して設定される」ことも「1つのエポックである」と強調した。
 北海道家庭医療学センターの草場鉄周理事長は、日本プライマリ・ケア連合学会の立場から、同学会がいち早く取り組んできた家庭医療専門医認定の仕組みを紹介した。
 その養成プログラムは3年間で組まれている。ベースとなるのは診療所、小病院、病院総合診療部門での研修で、各6ヵ月以上合わせて18ヵ月以上を設定。さらに、内科(6ヵ月)、小児科(3ヵ月)、救急科(3ヵ月)の研修を各領域専門医の下で連携のあり方を含めて学び、残りの6ヵ月はそれ以外の診療領域等を自由に選択できるというもの。
 研修施設には、プライマリ・ケア機能を十分果たしていることを要件とし、common disease に関する外来・訪問・入院の各体験とともに「地域を診る」視点を養うことを求めているという。
 草場氏は、日本プライマリ・ケア連合学会は家庭医療専門医養成プログラムのver.2を2014年度から運用することを明らかにし、「総合診療医制度を視野に入れつつ、我々の専門医の質を高めていきたい。プライマリ・ケア・システムの構築による日本の医療全体の質の向上を果たす。これが我々の目的である」と結んだ。

総合診療医の守備範囲地域拠点型病院にまでおよぶ

 続いて登壇した筑波大学地域医療教育学の前野哲博教授は、病院における総合診療医の役割を取り上げ、総合診療部門の整備と総合診療医養成機能を強化する必要性を提起した。
 前野氏は、総合診療医と臓器・領域別専門医の理想的な連携を示した上で、「両者の連携領域は、地域に基盤をおく病診連携の領域全体に及ぶ」と指摘した。
 すなわち、「総合診療医は、日常的な医療から入院管理が必要な患者まで、しかも、高度な処置・手術を必要とする患者を専門医に送るところまでをカバーしなければならない」、つまり、「総合診療医の守備範囲は診療所に限らず地域拠点型病院にまでおよぶ」と論じた。
 その上で、「総合診療医とは、病院も、診療所も、在宅も、ERもできるという幅の広さがアイデンティティである」とし、病院の総合診療医に期待される代表的業務として、初診外来、ER、専門医が不在の各科診療、総合診療部門、教育部門等をあげた。
 こうした総合診療医の養成は「社会のニーズであり」と述べる前野氏は、「総合診療医は地域の病院が自ら育てないと難しい」と結んだ。
 カイゼン活動で知られる飯塚病院は、1,000床を越える大型急性期病院でありながら、総合診療科をもち、早くから総合医の育成に努めてきた。
 同院総合診療科の井村洋部長は、総合医に対する周囲の認識がおぼつかない段階から、(1)初期研修の段階から育てる、(2)総合内科を経て専門科(サブスペシャリティ)に進むことを推奨するという方針で育成を行なってきたことを明らかにした上で、育成のシステム、プログラム、経験と教訓をつまびらかに述べた。その視点は内科総合医であった。
 医療過疎地の能登半島で、地域包括ケアに対応した医療、介護、福祉の事業グループを運営する神野正博恵寿総合病院理事長(全日病副会長)は、併設診療所を介して家庭医療を実践してきた経験を踏まえ、「情報を含む、地域におけるネットワークの中心となるのは総合診療医・家庭医であるという見解を示した。
 神野副会長は、今こそ、総合診療医の制度設計とアイデンティティ確立の大きなチャンスであるとした上で、「経済(効率性)と社会の問題として注目されているが、我々は、それを医療の問題として取り組まないとならない」と注意を喚起。
 そうした議論の中で見逃してはならない注目すべき議論として、(1)日医・四病協合同提案のかかりつけ医定義にある「休日や夜間の対応」という機能、(2)厚労省が中医協に提案している主治医の24時間対応等の機能、をあげた。
 総合診療医のビジョンとパラダイムシフトについて、神野副会長は、①プライマリ・ケアの専門医である、②地方では臓器・領域別専門医を補完する立場である、③病院におけるゲートキーパー(総合外来、2次救急、ER)、④医学教育の専門家、⑤コラボレーションのコーディネーター、⑥ヘルスケアの担い手、⑦アドボケイト(寄り添う医療)の担い手と多様な機能をあげ、「万能医ではないが、沢山の役割が期待されている」という認識を披露。
 その上で、①臓器・領域別専門医と病院全体のバックアップ、②領域別専門医との連携を支えるプロトコル、③きちんと評価する報酬体系の3点を、総合診療医が定着する条件にあげた。
 神野副会長は、来年度に、総合診療、家庭医療(診療所)、緩和ケア、産婦人、女性診療、救急(ER)の各科専門医が集まり、相互の業務をシェアするという新しい組織を立ち上げる話が進んでいることを紹介し、結語とした。

総合診療医と内科専門医の棲み分けが1つの課題

 シンポジストによるディスカッションに先立ち、丸山座長は、総合診療医として「内科」と「内科プラスアルファ」の2つのイメージを取り上げ、その差異をたずねた。
 飯塚病院の井村氏は、「大病院では総合内科的な能力を養う必要がある。場合によっては敗血症ショックにまで踏み込んで治療しなければならないし、ときには、循環器や透析の医師と対等に話ができなければならない。これが地域にゆけば、在宅医療とか、学校保健や敬老会を支援するといったスキルが求められるのではないか」と述べ、病院のポジションによって求められる役割が異なるという見解を示した。
 これに対して、筑波大学の前野氏は、「内科医が総合診療医の役割を果たせないとは思わない。ただ、問題は、それ(総合診療医としての活動)が医師個人のスキルにとどまるのか、それとも、総合診療能力の発揮が可能な体制にまでおよんでいるのかということが重要ではないか」という見解を表明。
 現在、総合診療医に求められているのは、多様な課題を抱える地域医療における役割の発揮であり、それを担保する仕組みづくりであるとの認識を披露した。
 丸山座長は、自ら発した質問を「ここには、今後、総合診療医と内科専門医をどう棲み分けていくかという重大なヒントがある」と説明、このシンポジウムを用意した問題意識の一端を明らかにした。