全日病ニュース

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規制改革会議等から経営規模拡大や透明化等の要請

規制改革会議等から経営規模拡大や透明化等の要請

【社会福祉法人の在り方等に関する検討会】
財務公表、取引公正化、外部監査義務化等の見直しが決定。特養への(株)参入は否定

 社会福祉法人のあり方をめぐる議論が大詰めを迎えていいる。厚労省の「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」は、この5月をめどに報告書をまとめるが、検討テーマの1つである財務諸表公表の義務化に関しては一定の結論を出した。  しかし、全国に19,407ある社会福祉法人のあり方について、政府の各種諮問会議は、財務諸表の公表以外にも様々な見直しを求めている。  社会福祉法人の見直しはこれまでも多々検討されてきたが、社会福祉事業をめぐる特有な歴史もあって、大きな改革は見送られてきた。政府の要求にどこまで応えるのか、同検討会の議論の行方が注目されている。

 

 財務諸表に関して、事務局(社会・援護局福祉基盤課)は、すでに昨年11月の検討会に、①財務諸表の電子化とインターネットでの公表を義務化する、②所轄庁に提出する財務諸表を含む現況報告書の電子化を義務づける、③( 3割強の法人がHP未設置のため)財務諸表公表が完全実施できるまでの間は、未設置の法人は財務諸表を所轄庁のHPで公表するという方針を示し、合意を得ている。
 これを踏まえ、厚労省の古都賢一大臣官房審議官は、2月4日の規制改革会議に、「すべての社会福祉法人に、2013年度以降の財務諸表のネットでの公表を義務づける。公表方法は今後検討していくが、今年度中に必要な通知改正を行なう」と報告した。

 

政府から「合併や権利の移転」含む様々な改革の要求

 社会福祉法人に対しては、現在、規制改革実施計画(13年6月閣議決定)で①財務諸表公表の義務化(14年度当初から措置)が、日本再興戦略(同)では、財務諸表の公表に加えて、②法人規模拡大の推進等経営の高度化が、社会保障制度改革国民会議報告書(13年8月)では、③非課税扱いにふさわしい国家や地域への貢献、④経営の合理化・近代化と大規模化や複数法人の連携、⑤(ホールディングカンパニーの枠組みのような)合併や権利の移転等を速やかに行なえるような制度改正、の検討・措置が求められている。
 政府のこうした措置要請の背景には、多様な開設主体による社会福祉サービスの競い合いと、それによる、サービスと経営主体の質的量的拡充を図るという発想がある。
 こうした要請を受けて厚労省は昨年9月に検討会を設置し、前出の④⑤以外は大筋、総理の諮問会議が求める方向で議論が進められてきた。
 一方、規制改革会議は昨年12月20日に、「介護・保育事業等における経営管理の強化とイコールフッティング確立に関する論点整理」を行ない、(1)補助金や非課税などの優遇措置を受けている社会福祉事業者のガバナンス確立と経営基盤強化を行なう必要がある、(2)多様な事業者がサービスの質や多様性を競い、豊富なサービスが提供されるよう、経営主体間のイコールフッティングを確立すべきであるとした上で、具体的課題をこう提起した。
 ①財務諸表の情報開示②補助金等の情報開示③内部留保の明確化④法人役員の親族や特別利害者との取引内容の開示等、調達の公正性・妥当性の担保⑤理事会や評議員会、役員等の役割や権限、責任の範囲等の法的明確化⑥第3者評価受審率の数値目標策定⑦一定事業規模の法人に対する外部機関による会計監査の義務化⑧所轄庁の指導・監督を強化するための監査ガイドラインの策定等⑨行き詰った法人に対する、措置命令等行政処分に先駆けた助言や勧告制度の創設厚労省は、検討会の議論を踏まえ、2月4日の規制改革会議に「論点整理」に対する回答を行なうとともに、2月20日の検討会にその内容を提示した。
 (1)社会福祉法人の財務諸表はインターネットによる公表の義務化を決定した。
 (2)補助金等の情報開示については、財務諸表公表の際に国民に分かりやすく示すためにもちいる標準様式の中で、法人単位の補助金の収入状況等も明確となるよう検討する。
 (3)内部留保の明確化についても、①において、目的別の積立も明確となるよう検討する。
 (4)調達の公正性・妥当性の確保に関しては、2015年度よりすべての社会福祉法人が適用対象となる新会計基準で、社会福祉法人と関連当事者の一定の取引は財務諸表に注記しなければならないとしている。財務諸表公表の標準様式の中で明確となるよう検討する。
 (5)経営管理体制に関して、現行の社会福祉法では法人の内部組織について一部規定がなされていないものも見受けられるため、法令での明確化等について検討する。
 (6)第3者評価については受審率を向上させる方策を検討する。
 (7)現在、通知で、一定規模以上の法人は特に積極的な外部監査の活用を求めているが、外部監査の義務化などを含めた適正な会計処理を行うための方策をあらためて検討する。
 (8)所轄庁には、法人監査に係る基準として、「社会福祉法人指導監査要綱」を示しているが、必要な見直しを検討する。
 (9)経営の悪化している法人には経営状態を把握できる経営判断指標の構築を検討している。現在も、所轄庁等は、①業務または会計の報告・検査要請、②措置命令、③業務停止または役員の解職勧告、④解散命令を行なうことができるが、勧告手続の明確化等を検討する。

営利法人との間にイコールフッティングは可能か?

 規制改革会議の「論点整理」は、前述の社会福祉法人の経営強化に続いて「経営主体間のイコールフッティング」を取り上げ、「介護・保育分野は営利法人と非営利法人が共存し、同種のサービスを提供する特殊な市場である。多様な経営主体がサービスの質を競い、利用者の利便が高まるよう、経営主体間のイコールフッティングを確立すべきではないか」と論じ、以下の課題を提起した。
 ①特養など施設の経営主体は社会福祉法人等に限定されている。参入規制を緩和すべきである。
 ②社会福祉法人には補助金や非課税措置などの優遇措置がとられている。株式会社やNPO法人が参入することを踏まえ、経営主体間で異なる財政上の措置を見直すべきである。
 これに対して、厚労省の回答は、要旨以下のとおり見直しの必要を否定した。
 (1)特養は重度で低所得の高齢者が数多く入所しており、低所得者の負担軽減措置を実施しているなど、公益性と経営の安定性を担保する必要があり、その設置主体は地方公共団体や社会福祉法人等に限定されている。また、今後、さらに重度の要介護者を支える施設として、新規入所を要介護3以上に限定する制度改正を検討している。
 (2)社会福祉法人は、非営利法人として、低所得者や生活困窮者の対応など一定規制の下での事業実施や、地域の福祉ニーズへの対応が求められるため、補助金や税制優遇等を受けている。
 営利法人にはそうした規制がなく、事業の効率性を追求して利益を上げることが可能であり、社会福祉法人と営利法人等ではそれぞれ異なる役割を有している。
 社会福祉法人で組織された全国社会福祉協議会(全社協)も、12月5日の規制改革会議で、「現状において社会福祉法人と株式会社等は、法人の目的、形態や規制等が異なっており、イコールフッティングは成り立たない」と厚労省と同じ考えを述べ、「イコールフッティングを実現するならば、株式会社が社会福祉法人を設立して社会福祉事業を担うべきである」と主張した。
 社会福祉関係者が多数を占める「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」(2月20日)は、厚労省が示した規制改革会議に対する回答をみて、「社会的役割の異なる営利法人と社会福祉法人の間にイコールフッティングは成り立たない」など、主にイコールフッティングの面から規制改革会議の主張を否定する意見が相次いだ。
 そうした中、座長の田中滋慶大大学院教授は「株式会社とだけでなく、医療法人や学校法人など、非営利性の高い団体とのイコールフッティングも検討すべきではないか」と指摘、視点を変えた議論の必要を認めた。
 規制改革会議が主張する特養の開設主体を多様化する対象には医療法人も入る。
 社会福祉法人制度改革の先には、医療法人も視野に入れた“ホールドカンパニー”の枠組み創設、したがって医療法人と社会福祉法人の連携等の議論もあり得る。医療法人にとっても、社会福祉法人制度改革議論の行方が注視されるところだ。