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ホーム全日病ニュース(2014年)第823回/2014年5月1日号有床診と中小病院の防災体制をめぐる...

<報告●有床診と中小病院の防災体制をめぐる議論>
スプリンクラー:一定面積の医療機関に義務化という方向で議論

<報告●有床診と中小病院の防災体制をめぐる議論>スプリンクラー:一定面積の医療機関に義務化という方向で議論

▲検討部会で安藤副会長(向う側左端)は有床診と中小病院をともに議論するよう求めた(3月27日)

<報告●有床診と中小病院の防災体制をめぐる議論>
スプリンクラー 一定面積の医療機関に義務化という方向で議論

有床診中心の議論に、義務化対象外小規模病院の検討を提起。次回議題に

「有床診療所・病院火災対策検討部会」委員・副会長 安藤高朗 

 

 昨年10月に福岡市の有床診療所で発生した火災を受けて、行政は医療機関の防火体制のチェック、設備の緊急点検の呼びかけといった対応を迫られた。昨年11月に発足した「有床診療所・病院火災対策検討部会」もその取り組みの一つである。筆者は、病院の立場からこの部会に参画している。
 10名の死者と5名の負傷者を出すに至った原因を検証し、今後の予防に活かそうと、部会は事務局である消防庁予防課の協力を得ながら、真剣な議論を重ねてきた。
 厚生労働省は、2013年度補正予算に「医療施設等施設整備補助金(スプリンクラー等施設整備事業)」を計上し、小規模医療機関を対象にスプリンクラー等の火災対策に補助を行った。こうした行政の対応を背景に、部会は、一定面積以上の医療機関にスプリンクラー設置を義務化するという方向で議論を進めている。
 この補正予算が各医療機関に不公平感なく配分され、来年度以降も長く続くことで、義務化の動きと連動していくことが出来るよう期待している。
 義務化を考える上で難しいのは、すべての診療科の有床診を対象とするべきかという、例外医療機関設定の問題である。この背景には有床診の経営の難しさがある。委員からは、スプリンクラー設置が義務化された場合、無床診療所へと転換するあるいは診療所を閉じてしまうケースが起こりかねないという懸念が示されている。
 地方都市では、都会であれば中小病院が担うような役割を有床診が引き受けているケースが多く、閉院が地域医療に与えるダメージは大きい。義務化による有床診の減少は避けねばならないというのが部会の共通認識であり、義務化免除の診療科の検討が行われている。
 しかし、こうした状況は有床診に限らず規模の小さい中小病院も同様である。経営が厳しい中、床面積が規定以下ということで、スプリンクラー設置義務の対象になっていない病院は数多く存在する。こうした医療機関は、本当にスプリンクラー設備の必要がないままで良いのかという疑問が浮かび上がる。
 そもそも、本部会の発足は、福岡市の火災を顧み、今まで行政の目の行き届いていなかった医療機関に目を向けていくというところに一つのポイントがある。そうした観点から、第3回対策部会で、筆者は中小病院もスプリンクラー検討対象に入れてもらいたい旨を提案し、第4回部会の資料では、対象設定の議論のために、事務局から有床診と小規模病院の比較資料を提出してもらった。
 さらに、次回5月21日の第5回部会では、200床未満の医療機関を対象にスプリンクラー設備について行ったアンケートの集計結果が示される予定である。小規模病院の実情を把握することで、議論がさらに発展していくと考えている。
 これまでの議論について、四病協は、①厚労省の補助金の措置の来年度以降にわたる継続と増額、②スプリンクラー設置基準を適用する際の十分な経過措置期間の確保、③スプリンクラー等消防設備の設置対象の特例免除に関する十分な議論という3点を要望としてまとめている。
 全日本病院協会としては、患者の安心安全を考えれば、小規模病院においても、すべてのエリアにスプリンクラー制度を適用するべきだと考えている。それは、本来すべて補助金で賄うという前提であるが、仮に自己負担が発生するのであれば、福祉医療機構から低利での融資を要請することを考えている。
 委員として部会に参加する以上、補助金事業が今後も継続的に続けられるよう図っていくことはもちろんであるが、対策部会が設置された目的を常に意識し、スプリンクラー一点に傾きすぎない議論を行うことが重要と考える。
 消火器や通報装置といった他のハード面の検討も引き続き行うと同時に、今後は防火訓練や職員の教育といったソフト面からのアプローチにも力を入れていくべきだろう。
 火災を防ぐのは人である。委員一人一人と細かな議論を行い、腰を据えてしっかりと対策を練っていきたい。