全日病ニュース

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<報告●多職種協働によるチーム医療の推進事業「職種横断的質向上チームの構築と推進人材の育成」について>
多職種協働を支える組織横断的連携を促す研修企画を実践

<報告●多職種協働によるチーム医療の推進事業「職種横断的質向上チームの構築と推進人材の育成」について>多職種協働を支える組織横断的連携を促す研修企画を実践

▲「医療のTQM七つ道具」研修会の様子

<報告●多職種協働によるチーム医療の推進事業「職種横断的質向上チームの構築と推進人材の育成」について>
多職種協働を支える組織横断的連携を促す研修企画を実践

TQMの思想を活用。業務改善に繋がる成果。平成26年度厚労科研も受託

医療の質向上委員会委員長 飯田修平 

 

 医療の質向上委員会が平成25年度に実施した事業の1つに、厚生労働省より受託した多職種協働によるチーム医療の推進事業「職種横断的質向上チームの構築と推進人材の育成」がある。平成26年度を迎え、その実践結果の概要を報告する。

●事業の背景
 良質の医療を提供するには多職種協働チーム医療の展開が必要である。しかし、病院では、制度の制約、専門性や職務分掌を理由に、縦割り・横割りの組織の壁がある。専門分化がこの傾向を増強し、全体最適を図ることが困難である。
 個人や一部の部署が努力しても、関係部署との連携がなければ齟齬が生じる。組織構造や意識の壁を超えた組織横断的連携が必要であるが、これを促進する教育研修プログラムは未だ開発されていない。
●事業の概要
 医療の質向上を目的に、多職種協働チーム医療の研修プログラムを開発し、実施した。
(1)「TQM(総合的質経営)の医療への適用-医療と社会と法-」研修会(愛媛県松山市)平成25年9月14日~9月16日。参加20病院26名。
 TQM(Total Quality Management 総合的質経営)の導入には経営者の実践の意思が必須である。病院経営者および幹部職員を対象に、考え方の基本と、リーガルマインド(法の精神)の理解と医療への適用を目的とした。
 医療・TQM(飯田修平)、社会(長谷川友紀東邦大学教授)、法(宮澤潤弁護士)の講義の後、グループ討議を主体にした。懸案課題に関する本質的な議論ができた。
(2)職種横断的質向上チームの構築と推進人材育成研修
 Ⅰ. 第1回業務フロー図作成研修会平成25年11月23日、24日。参加35病院137名。
 Ⅱ. 第2回業務フロー図作成研修会平成26年3月8日、9日。参加31病院121名。
 “チーム医療”のかけ声だけではなく、多職種で具体的に業務を検討する必要がある。業務とその問題の“見える化”には業務フロー図作成が最適である。
 事前に自院の薬剤業務(Ⅰ注射・Ⅱ内服)のフロー図を作成し、研修当日は、事業概要説明、多職種チーム医療、業務フロー図作成講習会の目的、TQM、チーム医療、業務工程図、業務フロー図作成のコツ、ダブルチェック等の講義の後、薬剤業務工程図を作成するとともに、その見直しと修正を図り、各自発表した。
 Ⅲ.「医療のTQM七つ道具」研修会平成26年2月11日。参加59病院181名。
 質向上・改善を実施するには、具体的問題に最適の手法を活用しなければならない。
 本研修会では、『医療のTQM七つ道具』を教材に、多職種協働チーム医療、「医療のTQM七つ道具」開発の経緯、①業務工程(フロー)図、②QFD(品質機能展開)、③FMEA(故障モード影響解析)、④5W1Hメリット・デメリット表、⑤RCA(根本原因分析)、⑥対策発想チェックリスト、⑦まぁいいか(不遵守)防止ツールを執筆者が講義。「まぁ、いいか防止ツール」が世界共通の大きな課題であることを強調した。
 Ⅳ. 職種横断的質向上チームによる改善事例報告会平成26年3月21日。参加24病院58名。
 Ⅰ・Ⅱの研修会参加病院の中から、改善に結びつけた4病院の報告と質疑があった。
(3)チーム医療実践医療施設見学
 Ⅰ.練馬総合病院(平成25年12月14日)
 Ⅱ.ひたちなか総合病院(平成26年1月25日)
 希望者が上記2病院における発表大会に参加した。
●本事業実施による成果等
 職種横断的質向上チームによる改善事例報告会では、業務フロー図作成研修会後3ヶ月にも関わらず、4病院の発表があった。
 アンケートの自由記載欄や発表者から、職種横断チームで本講習会に参加して業務フロー図を作成した経験を基に、部分(部署内)最適ではなく全体最適の視点を持って、改善した業務フロー図を現場で作成できた、との意見があった。
 病院管理者である参加者からは、TQMの考え方を学ぶことが中堅職員の管理職研修にもなり、グループワークでコミュニケーション力も向上し、今後の組織的な業務改善に繋げるきっかけになったという意見があった。
 インシデント報告が最も多いのが薬剤関連業務である。2回の業務フロー図作成研修会では入院患者の注射薬指示から投与と内服薬指示から投与に絞った。
 これらの業務には定形業務と非定型業務があるが、定形業務作成後に非定型業務、例えば持参薬投与、夜間薬剤投与等の業務フロー図を作成させることで、病院内の各職種の業務の見える化、役割分担とともに、業務フロー図、業務手順の不備が自覚できた。
 今後、業務フロー図の再作成と業務手順の見直しが参加病院毎に行われることが期待される。
●今後の課題
 多職種協働チーム医療実践の事例集積と研修教材の精緻化が今後の課題である。
●まとめ
 医療の質向上委員会を設置した平成12年から、TQMを医療界に展開してきたが、厚生労働事業を受託して活動した意義は大きい。
 また、これらの成果を基に、本委員会が企画した「業務フロー図に基づく医療の質向上と安全確保を目指した多職種協働チームの構築と研修教材・プログラム開発に関する研究」が、平成26年度の厚生労働科研費に採択された。
 引き続き、関係各位のご支援とご協力をお願いしたい。