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四病協「医療法人会計基準に関する検討報告書」について/
医療法人会計基準 強制適用ではないが、医療法人の社会的信頼を高める上で必要

四病協「医療法人会計基準に関する検討報告書」について/
医療法人会計基準 強制適用ではないが、
医療法人の社会的信頼を高める上で必要

法人全体の計算書類に係る部分のみが対象。企業会計の手法は限定的に採用

四病院団体協議会会計基準策定小委員会委員長 
全日本病院協会監事・公認会計士 五十嵐邦彦 

 

1. はじめに

 四病院団体協議会の会計基準策定小委員会が作成した「医療法人会計基準に関する検討報告書」が平成26年2月26日の四病院団体協議会総合部会で了承され、公表されました。
 その後、「医政発0319第8号平成26年3月19日厚生労働省医政局長通知」において、「当該報告書に基づく医療法人会計基準は、医療法(昭和23年法律第205号)第50条の2に規定する一般に公正妥当と認められる会計慣行の一つとして認められる」とされました。
 会計情報は実態を鏡に映して見せるようなもので、絶対的な姿ではないが、一面の真実を表現するものです。時として、この鏡(会計の基準)がどのようなものなのかが注目されることがあります。
 医療法人は今までどのような鏡を使っていると世間から見られてきたかを踏まえると、今後どのように見られるようになるのかは、当事者がこの新しい鏡を大切にするかどうかに懸かっています。
 この医療法人会計基準は強制適用ではありませんが、多くの法人が趣旨を理解して適用することが、医療法人の社会的信頼性を高めることになります。

 

2. 検討報告書が目的としている、解決すべき医療法人会計をめぐる現状と課題

 医療法人の会計については、医療法上第50条の2に「医療法人の会計は、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとする。」とされていますが、同趣旨の法規定のある企業には「企業会計基準」や「中小企業の会計に関する指針」、公益法人には、「公益法人会計基準」といった会計処理の基準がありませんでした。
 あるのは、どのような掲載レベルで財務諸表の届出をするかということが決められている「医療法人における事業報告書等の様式について」(医政指発第0330003号厚生労働省医政局指導課長通知)と「社会医療法人債を発行する社会医療法人の財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(平成19年厚生労働省令第38号)だけです。
 このような明確な会計基準がない状態での実務は、法人税課税上普通法人であることと上記様式通知にも企業会計を前提としたものが取り入れられていることから、税法への適合のみの会計数値を医療経済実態調査に提出することで現実の経営実態より良い損益状況と受け取られる、信頼性を付与したいがために監査証明を求めると企業会計の基準での適正性判断となってしまう、財務や会計の実情について制度論から注目されると会計基準もない中でやっているということから財務管理そのものについてまで信頼性が薄いと誤解される、といった弊害が生じています。
 今回の四病協検討報告書は、現行の会計情報の開示を変更することなく、このような弊害を除去することを目的として作成されています。

 

3. 医療法人会計基準の内容と留意すべき点

 「検討報告書」の医療法人会計基準の具体的内容の特徴は、株式会社等の企業とは異なる民間非営利法人である医療法人であることを明確に意識し、近年、投資情報重視型に改定されている企業会計の手法は、他の民間非営利法人の会計基準でも取り入れられている範囲に限定しているということです。
 将来推定の予想値を使ってわけのわからない数学的処理をするような処理は、原則不要となっています。
 たとえば、退職金の負担は、退職一時金制度の場合、すでに勤務をした結果生じている負担すべき金額を規定にしたがって計算して負債に計上し、1年間で増加した分が費用に計上される処理で、ほとんどの法人は足ります。
 さらに、現在まったく負債に計上していない場合も配慮して、過去の分は、適用後15年間で分割計上することもできるようになっています。
 また、時価評価する資産も、原則明確な市場価格がある保有有価証券のみですし、法人税等の負担を損益計算書上の損益に対応させる会計処理も、重要な影響があると判断する場合のみ行えばよいことになっています。
 その他は、現行で行っていると想定される法人税上の適正な処理で事足ります。
 会計基準という建付けの関係上、例外的な事象が起きた場合でも対処できるように規定せざるを得ないこととなっていますが、現実の適用においては、大きな実務的な変更が必要になることはないように想定されていますので、基準の文言にナーバスにならずに解釈して適用を考えてください。
 また、今回の医療法人会計基準は、社会福祉法人会計基準のように、必要なすべての会計制度について網羅的に規定したものではなく、医療法人全体の計算書類に係る部分のみを対象としたものです。
 このため、これだけで現実の会計の仕組みを構築できるわけではありません。
 たとえば、具体的な勘定科目は、病院の部分については病院会計準則を適用すべきですし、その他の施設についても、これに準じて適用されるものを設定する必要があります。
 もっとも、従来からこのように会計を行っていたはずですので、この点についても特段の変革を行うことを想定していません。

 

4. 想定している適用法人の類型

 今回の医療法人会計基準は、検討報告書に明記してありとおり、生業的規模の一人医師医療法人についてまで適用することを想定しているものではありません。病院又は介護老人保健施設を開設する医療法人に違和感なく馴染むものとなっています。
 複数の診療所や介護事業を展開している医療法人の場合は、様式通知の貸借対照表と損益計算書が簡易様式になっている関係上、本来、両計算書類の内訳とすべきものが別の注記表項目にすることで現行制度に整合しつつ適用できるように工夫されています。