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来年法改正に向け医療保険の見直し議論が本格化

▲高齢者医療に対する支援をめぐってさまざまな意見がとびかった(5月19日の医療保険部会)

来年法改正に向け医療保険の見直し議論が本格化

【医療保険部会】
高齢者医療の支援めぐり堂々巡りの議論。給付抑制では一致か

 社会保障審議会の医療保険部会は、プログラム法(持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律)にもとづく医療保険制度改革の議論を始めた。4月21日の部会は検討課題(別掲)と議論日程について確認した。
 プログラム法に明記されたうち、例えば、70~74歳までの2割負担の実施は2014年度の予算措置と政令改正によって実施されるなど、14年度の実施が決まっているものもあるが、それら以外は、15年の通常国会に提出する健保法等改正法案に盛り込まれる。
 これらの課題は今年12月までに改正案をとりまとめることになるが、まずは7月をめどに議論を一巡させ、8月以降に個別議論を深めるというのがおおまかな日程だ。
 議論を開始した5月19日は、国保運営主体の都道府県への移管、国保に対する財政支援、後期高齢者支援金の総報酬割、低所得者保険料の減免措置、高齢者医療に対する現役世代の負担、国保における一般会計繰入など、様々な論点が行きかった。
 その中で、支援金等の追加負担を求められる被用者保険の委員からは「高齢者医療制度のあり方の全体をきちんと議論すべきだ」との不満が投げかけられた。
 市町村国保の運営主体を都道府県に移す方針について、地方公共団体の委員は「都道府県と市町村の役割分担の問題があるが、国と地方との協議が進まない」と不満を表わした。
 中村国民健康保険課長は「国保財政の構造的な問題の解決が、移行と分担を議論する前提となる。なにをどう分担するかはこれからの議論だ」と述べ、国保財政への支援策を実現する法改正議論が先行するとの認識を示した。
 国保について、被用者保険の委員は、「一般会計からの法定外繰り入れが都市部で多い。しかし、都市部は所得捕捉率も保険料率も低い。全国平均まで引き上げれば繰り入れはいらなくなる。この抜け道を見直し、給付の拡大も保険料の範囲にとどめるべきではないか」(白川委員=健保連専務理事)など、赤字の原因の一端は国保の体質にあると論じた。
 市町村国保の収支は、全体の収支差-3,055億円のところに一般会計繰入金を3,534億円計上して収支差引額479億円と見かけ上の黒字を確保している(12年度単年度)。
 このように、市町村国保の単年度収支は恒常的に赤字で、大都市圏を中心に決算補填のための一般会計繰入が恒常化している。
 これに対して、被用者保険の委員は保険料の引き上げと給付額の抑制を求め、いたずらに現役世代による支援の増額に頼るべきではないとしたが、都道府県の委員は「保険料率の引き上げは中間所得被保険者の負担を強め、収納率を下げることになる」と反論した。
 こうした矛盾はあるものの、市町村国保は、退職後の被保険者が後期高齢者になるまで加入して医療給付を受け続けることができる“ラストリゾート”であるのも事実だ。    

都道府県 「国保財政の改善が移管の前提」

 わが国の高齢者医療は、現在、65歳~74歳は、被用者保険、退職者医療制度(2019年までの経過措置)、市町村国保に加入して給付を受けているが、多くが国保に加入しているため、被用者保険が国保に前期高齢者納付金を納めて不均衡を補なっている。
 一方、75歳上の後期高齢者は、都道府県ごとに市町村が加入する「後期高齢者医療広域連合」を介して給付を受けており、患者負担を除く医療費は、後期高齢者の保険料(1割)、国保と被用者保険からの後期高齢者支援金(約4割)および公費(約5割)でまかなわれている。
 前期高齢者納付金や後期高齢者支援金あるいは退職者給付拠出金(経過措置)等の負担は被用者保険の財政を大きく圧迫、義務的経費に占める割合(介護を除く)は健保組合で47.7%、協会けんぽで41.9%(14年度)に達している。
 これら負担の保険者ごとの額は加入者の割合にもとづいて算定されてきた。
 しかし、10年の健保法改正の際に、後期高齢者支援金については、国保と被保険者間の按分は加入者割とするが、被用者保険者間の按分は「2/3は加入者割とし、1/3は総報酬割とする」特例が3年間限りで導入された。
 この特例は、標準報酬額が相対的に少ない協会けんぽに対する財政支援として、12年の健保法改正で14年度までの2年間延長された。
 その後、一体改革で後期高齢者支援金に対する総報酬割の全面導入が提起され、プログラム法に書き込まれたため、標準報酬額が高いために負担額が引き上げられる健保連は苦境に立たされている。
 総報酬割の拡大は協会けんぽの支援金額を減らすため、この問題で被用者保険は利害が分かれる。
 そこで、総報酬割拡大に抗しきれないとみた健保連は、総報酬割拡大で浮いた協会けんぽに対する国庫補助を国保に投入するという政府方針に強く反対する戦術に出た。
 この戦術に、協会けんぽも「浮いた公費は被用者保険の強化充実に使うべきである」と同調。協会けんぽに対する国庫補助率の引き上げを要求している。
 他方、都道府県は、浮いた公費の投入等国保に対する国庫補助の増加が都道府県による運営の前提であるとし、財政面の改善と都道府県移行をバーターとするよう求めている。
 5月28日の部会で、全国知事会の委員は「国保の財政基盤強化が果たされれば移管を受け入れる」と発言、学者などの委員から「今頃、そういうことを本気で言っているのか」と揶揄されたが、医療提供体制の縮減や診療報酬の単価操作を除くと、今のところ、繰り入れで赤字を埋める以外に有効な手立てがないことも事実だ。
 そうした都道府県に対して、被用者保険の側は国保の財政体質を強く批判し、現役世代(被用者保険)の支援に依存した構造の抜本改善を求めている。
 こうした堂々巡りの議論から医療保険制度を救済するために消費税率は引き上げられたはずであるが、当面の税率では補えないほど保険財政は悪化をたどっている。
 政府は、社会保障制度改革推進会議の設置や医療費の支出目標設定など、新たな態勢で給付費とりわけ公費負担の抑制に努めようとしており、医療保険制度改革をめぐる議論は、ますます、限られた財源を奪い合い、負担のつけ回しを画策する、出口のみえないものになろうとしている。

□2015年通常国会に提出する法案に盛り込む課題

●プログラム法の関係
・国民健康保険に対する財政支援の拡充
・国保運営の移管にともなう都道府県と市町村の役割分担に必要な方策
・協会けんぽに対する国家補助にかかわる所要の措置
・後期高齢者支援金の額の全てを標準報酬総額に応じた負担とすること
・被保険者の所得水準の高い国民健康保険組合に対する国庫補助の見直し
・国保保険料の賦課限度額及び被用者保険の標準報酬月額等の上限額の引上げ
・外来及び入院に関する給付の見直し
●プログラム法関係以外(今後の議論による)