全日病ニュース

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「支出目標」、薬価の毎年改定、介護報酬適正化を求める

「支出目標」、薬価の毎年改定、介護報酬適正化を求める

【財政審「財政健全化に向けた基本的考え方」】
支出目標 来春の法改正を要求。「地域医療構想と現行医療費適正化計画に導入すべし」

 5月27日に開かれた財政制度等審議会財政制度分科会(審議会会長兼分科会長・吉川洋東大大学院教授)は、財政の健全化を推し進める視点から2015年度予算編成の方向を提言した「財政健全化に向けた基本的考え方」をまとめ、5月30日に公表した。
 その中で、①国・地域・保険者各レベルで医療費の「支出目標」を設定する制度の導入、②毎年の薬価調査と市場実勢価格下落の診療報酬への反映(薬価の毎年改定)、③特養等の内部留保も踏まえた介護報酬適正化の3点を「まずもって重要であり、避けて通ることは許されない改革の道である」と指摘。「当審議会として断固実現を求める」と強い表現で、安倍内閣に対応を求めた。
 麻生財務大臣は、同日開かれた経済財政諮問会議で、「基本的考え方」の内容を「骨太の方針」(「経済財政運営と改革の基本方針2014」)に盛り込むよう、同会議に要請した。  

給付費の持続的抑制を強調。麻生大臣「骨太方針に盛り込む」

 「基本的考え方」は、前出以外にも、④受診時定額負担制、⑤公費拡大を招かない保険外併用療養制度の設計、⑥特許切れ先発品の参照価格制度、⑦費用対効果が低い診療報酬項目を保険外併用療養とする「逆評価療養」制、⑧終末期医療のあり方の検討、⑨保険料負担の「負担能力別」への切り替え、⑩高齢者等の保険料軽減措置の見直し、⑪介護保険被保険者対象年齢の引下げ、⑫混合介護の普及・促進など、数多くの制度改正を提言した。

さらなる改革なければ長期的に財政破綻と危機感

 例年以上に強い論調で社会保障費の削減を訴える背景に政府の財政健全化目標がある。それは、財政健全化の指標として用いている国と地方を合わせたプライマリーバランス(PB=基礎的財政収支)を均衡化させるという方針である。
 わが国財政の借金依存は、債務残高の対GDP比でみると、14年度に230%に達するという異常な水準になっている。
 しかし、(1)PB赤字の対GDP比を15年度までに10年度の半分に減らし、(2)20年度までにPBの黒字化を達成することによって、この水準を安定させて債務危機を回避するというのがPB均衡化の目標で、これは国際公約となっている。
 「基本的考え方」は15年度の赤字半減の前提は消費税率の10%への引き上げであるとした上で、赤字半減を達成した後も、20年度の黒字化達成にはさらに15兆円程度のPBの収支改善が必要となり、さらなる財政健全化の取り組みが欠かせないと説明する。
 しかし、内閣府が1月20日に示した「中長期試算」は20年度までの国と地方のPBの対GDP比は比-1.9%程で黒字化目標は達成できないとしたまま、24年度以降の経済財政の見通しは示されていない。
 そこで、財政審が独自に財政の長期推計を行なったところ、現在予定されている社会保障等の施策以外に何ら改革を実施しなければ、高齢化の進展に伴う特に医療・介護の給付費(対GDP比)は増加し続ける一方となり、その結果、「国・地方及び社会保障基金のP B 対GDP比は14年度の-6.3%から60年度の-9.7%にまで悪化、債務残高対GDP比は14年度の230%から60年度には600%を超え」、我が国の財政は持続不可能になるという結果となった。
 かくて、「基本的考え方」は、一体改革が示す医療・介護費用の節減と追加の予測に関しても「精査と見直しが必要」と慎重な姿勢をみせるとともに、様々な追加的な給付費節減策を提案するものとなった。

改革推進本部 レセプトデータの分析・活用枠組みの標準化に着手

 「基本的考え方」があげた改革項目のうち、規制改革会議が掲げる「選択療養の創設」に関しては、対象となる保険外併用療養費制度を「公費の拡大を招かない制度設計」とすべきと論じるにとどめ、新たに、「費用対効果が低いものは保険適用から外し保険外併用療養の対象とすること(「逆評価療養」)を検討する必要がある」と、保険収載と評価療養との間を双方向にする考え方を提起した。本格的な混合診療制度を見込んだ発想と思われる。
 注目されるのは「薬価の毎年改定」である。財務省は、今改定で薬価引き下げ分を診療報酬本体の財源から引きはがすことに成功したが、それを一歩進め、毎年の薬価調査で明らかになる市場実勢価格にもとづいて薬価を毎年見直すよう正式に求めたことになる。
 一方、成立が見込まれる医療・介護総合確保推進法案については、「改革は緒に就いたばかりであり、改革が成果を伴うか否かは今後の制度設計次第である。当審議会としても、改革の進捗を厳しく注視していく」と記すにとどめた。
 ただし、「基本的考え方」は、昨年「その効果額について何らの検証・評価も行われていない」と批判した医療費適正化計画をあらためて形骸化していると決めつけ、「医療費の水準自体を目標としない手法は、我が国財政や医療制度が置かれている厳しい状況にそぐわない」と断じるなど、厳しい論調で医療費適正化計画を非難している。
 その上で、「国・地域・保険者それぞれのレベルで医療費のあるべき水準が『支出目標』として整合的な形で設定され、各レベルで医療費の効率化に向けた規律付けが働く制度設計を模索するべきである」と、「支出目標」の導入を提言。
 しかも、それを17年度までの第2期医療費適正化計画期間内に導入すべきとして、来年の通常国会に提出される医療保険制度改革関連法に盛り込むこと、そのために「年内に制度改正の方向性と作業工程を固めるべき」と求めている。
 さらに、この作業を15年度からの地域医療構想策定に間に合わせるために、「一連の作業は遅くとも今後1年以内の完了を目途とするものでなければならない」としている。
 同時に、レセプトデータの活用にも触れ、「今後、社会保障制度改革推進本部においてレセプトデータの分析・活用の枠組みの標準化が進められる」ことを明らかにした。

「財政健全化に向けた基本的考え方」(要旨) 5月30日財政制度等審議会 

Ⅰ. 5. 我が国の財政健全化に向けた取組みについて

(2)今後の予算編成における取組み
 国と地方のPB赤字(対GDP比)の半減目標の達成年度である来年度の予算編成において、前年度同様に「中期財政計画」を上回る規模で収支改善を図るべきであり、それ以降の各年度の予算編成でもできる限りの改善を進めるべきである。

Ⅱ. 各歳出分野における取組み

1. 社会保障
(2)給付面で必要な改革
②医療・介護
 以下のうち、「支出目標」の導入、薬価の毎年改定、介護報酬適正化の3点がまずもって重要であり、当審議会として断固実現を求める。
イ)公的給付範囲の見直し
 社会保障制度改革プログラム法に加え、更なる取組みが必要。具体的には、受診時定額負担の導入について検討を進めるべき。高額療養費制度の70歳以上外来受診の患者負担上限の特例を見直す必要がある。
 更に、後発医薬品に基づいて特許切れ医薬品に保険償還額を設定、それを上回る部分は患者負担とすべき。加えて、市販類似薬品の更なる保険適用除外を進める必要がある。
 評価療養と選定療養のみの保険外併用療養には公費拡大を招かない制度設計が求められる。また、一旦保険適用された医療技術等も費用対効果が低いものは保険適用から外して保険外併用療養とする「逆評価療養」を検討する必要がある。
 介護分野では混合介護を普及・促進させていく必要がある。
ロ)医療・介護サービスの提供体制改革
 医療・介護総合確保推進法案による改革は緒に就いたばかりであり、当審議会としても改革の進捗を厳しく注視していく。終末期医療のあり方を見直していくことも求められる。
 国民健康保険の財政運営責任を都道府県に移行させてこそ、都道府県が、地域医療の提供水準と標準的な保険料等の負担のあり方を総合的に検討することが可能となる。
 第2期医療費適正化計画は第1期の検証を踏まえて策定されたものではなく、そもそもPDCAサイクルが機能していない。当該計画における医療費も目標ではなく、これまでの医療費の伸びを前提に、都道府県の見通しを機械的に足している。平均在院日数の短縮も足元の医療提供体制改革の動きを踏まえたものになっていない。
 特定健診・保健指導の推進等による医療費適正化の効果はいまだ検証中で、妥当性が確かではない見積もりが行われている。
 このように医療費適正化への取組みが形骸化したまま、出来高払いの診療報酬体系の下で医療給付費に対して定率公費負担がなされている。
 こうした問題を解決するためには、合理的でない医療費の地域差や伸びについてレセプトデータを用いて可視化し、実現への道筋を具体的に明らかにしながら医療費のあるべき水準を地域ごとに「支出目標」として設定することが必要。国・地域・保険者それぞれのレベルで医療費のあるべき水準を「支出目標」として設定し、各レベルで医療費の効率化に向けた規律付けが働く制度設計を模索するべき。
 提案の実現に当たっては、第2期医療費適正化計画の計画期間(平成29年度まで)を徒過してはならず、法律事項は来年予定の医療保険制度改革関連法改正に盛り込めるよう、年内には制度改正の方向性と作業工程を固めるべきである。
 当該作業工程は27年度からの都道府県における地域医療構想の策定に間に合うよう、作業は遅くとも今後1年以内の完了を目途とするものでなければならない。その際、介護費用も含めた一体的な検討を進めるべきである。
ハ)診療報酬・介護報酬の抑制とあり方の抜本的見直し
 26年度改定における高コスト化是正の取組みを継続し、診療報酬の徹底した抑制に努める必要がある。
 昨年11月の当審議会の建議は毎年改定を提言した。各方面からも同様の提言があるにもかかわらず、2年に1度の頻度が慣例化されている現状は理解に苦しむ。当審議会は、政府が適切な検討を進め、昨年11月の建議の内容を実現させることを改めて強く求めたい。
 介護報酬についても27年度介護報酬改定において適正化を図ることが重要である。
 「支出目標」の導入とあわせ、現行の診療報酬・介護報酬体系の抜本的な見直しを図るべきである。具体的には、改定率の決定・点数改定が「支出目標」と整合的に客観的なデータに基づいて行われるとともに、過度な政策誘導を避け、より包括的で簡素・透明かつ安定的な仕組みとなるよう体系的な見直しを進めていかねばならない。
ニ)保険者機能の発揮・強化
 国民健康保険と後期高齢者医療には前出の「支出目標」の設定が重要である。後期高齢者支援金の加算・減算の仕組みも、医療費適正化計画の見直しと同様、今後は端的にアウトカムである医療費の効率化の度合い(保険者ごとに設定する「支出目標」の達成の程度)に応じたものとすべきである。
 前期高齢者納付金にも同様の仕組みを検討するとともに、被用者保険が高齢者医療の医療費効率化の取組みなどの運営に参画していく仕組みも検討すべきである。
 医療・介護情報のICT化も重要。社会保障制度改革推進本部でレセプトデータの分析・活用の枠組みの標準化が進められることを踏まえ、各保険者が医療・介護費用の効率化のためICT化の取組みを深化させていくことが求められる。
(3)負担面で必要な改革
①保険料による支え合いの維持・強化と公費負担のあり方
 これ以上公費負担への依存を高める余地はなく、保険料負担の公費負担への付替えになる公費負担割合の引上げは厳に慎み、保険料負担による支え合いを維持・強化する方向を目指すことが求められる。
 その一環として保険料負担を「負担能力別」に変えていく必要がある。高齢者の保険料負担も見直す必要がある。介護分野では被保険者の対象年齢引下げも検討の余地がある。