全日病ニュース

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「今後の医療経営を考える上で、わが町の人口構成の推移に注意」

「今後の医療経営を考える上で、わが町の人口構成の推移に注意」

自治体によって高齢者は増加・減少。前期・後期で高齢者人口の推移も異なる

シンポジウム「病院医療をプライマリ・ケア現場から考える―突きつけられた喫緊の課題から」(概要)

 プライマリ・ケアを取り上げた本シンポジウムは西澤会長と丸山泉常任理事(プライマリ・ケア検討委員会委員長)がともに座長を務めた。
 西澤座長は「本日は、喫緊の課題として、人口問題に絞って基調講演をしていただく」と述べ、本シンポジウムのテーマが、地域で異なる人口構成の将来推移とその医療への影響を論じるものであることを明らかにした。
 まず、樋口美雄慶應義塾大学教授が、今後続く人口減少から導かれる、地域によって異なる医療の課題を論じた。
 樋口氏は、民間有識者でつくる「日本創成会議」人口減少問題検討分科会のメンバー。同分科会は、この5月に、今後の人口減少によって全国の自治体の半分が消滅する可能性があるという衝撃的な推計を発表。その中心である樋口氏は、安倍政権がこのほど設置した「まち・ひと・しごと創生会議」の議員に就いている。
 樋口氏の論を要約すると、「人口問題は日本全体で論じられてきたが、地域の問題として考えなければ解決しない。それは、高齢者が増加する地域がある一方で、減少するが高齢化率は高まる地域があるなど、少子高齢化が地域によって違う動きをしているからだ。そこで医療はどう成り立つのか。医療の将来を考えるときは、地域単位で人口構成の変化などをみていかないとならない」というものだ。
 「少子高齢化は2010~40年まで、2040~60年まで、その先と3つに分けてみなければならない。若年層が減少していくのは全国的な傾向であるが、65歳以上は40年にかけて増え、40年以後はほぼ横ばいか微減をたどる。さらに、60年を過ぎるとこの年代は減少に転じると予測される。したがって、どの時期に焦点を合わせて医療の供給を考えていくのか」着眼点が問われる、と樋口氏は論点の枠組みを説明する。
 次に、高齢化率を取り上げ、「2010年以降2割の自治体で高齢者は減少しており、2040年にかけて半数の自治体で減っていく。ただし、それを上回って若年層も減るため高齢化率自体は高くなる」と述べた。
 さらに、高齢者も、65~74歳と医療ニーズがとくに大きい75歳以上では異なる推移をたどると指摘。高齢化率の変化には、若年人口の変化や前期と後期各高齢者の推移によって各地域で異なる意味を表わすと述べ、留意を求めた。
 では人口は何で決まるのか。それは、①出生率と死亡率の差(自然増減)、②人口の流出入(社会増減)で決まるが、「後者には結婚と出産の機会の変動、その背景には雇用機会の変動がある。それは、各地域とも時代に応じて変化する。その結果、社会増減は地域によって様々な変化をたどる」と説明した。
 雇用機会は大都市に偏在しているため、「現在に至るも大都市への流入は続いており、中都市、地方都市では流出が続いている」という。しかも、東京は圧倒的に入超が続いている。
 「この傾向はドイツも同じだが、東京の一極集中である日本に対して、ドイツは州都への流出、したがって多極化が生じている点で異なる。英国は、逆に大都市から流出し、小都市に流入している。これはアメリカも同様で、大都市から近郊の小都市や地方都市へと農業回帰がみられる。つまり、やり方ひとつで人口の分散は可能で、その鍵を握るのが雇用だ」と樋口氏は論じた。
 しかし、「人口問題はどんな有効な対策も効果が出るまで20~30年かかる」と指摘。「今後の医療経営を考える上で、人口構成の推移に注意していただきたい。人口の将来推計は政府の統計から調べられる。ぜひ、わが町の将来を読んで、医療経営に役立ててほしい」と結んだ。
 シンポジウムで、丸山座長は、今後の人口減少にしたがって医療ニーズの縮小に対して、経営のダウンサイズや「無駄な医療行為を減らしていく」あるいは「医療と介護の領域の固定を見直す」などの可能性をシンポジストに質し、「我々の方から、(医療の細分化を追求してきたことに)統合化していくという働きかけはあり得ないか」と発言するなど、医療の側から選択・集中・統合していくという選択肢もあるとする考え方を示唆した。

 「第56回全日本病院学会福岡」については、次号(10月15日)に、病院のあり方委員会の企画(地域包括ケアシステムと医療介護連携)と医業経営・税制委員会の企画(非営利ホールディングカンパニーについて)を報告します。