全日病ニュース

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武田審議官「急性期の概念には、高度、通常、軽度急性期がある」

【第56回全日本病院学会in福岡】
シンポジウム「病床機能報告制度から病院の明日を探る」

武田審議官
「急性期の概念には、高度、通常、軽度急性期がある」

高齢者救急・在宅医療支援を行なう病院、一定の急性期を担う病院は地域に必要

厚生労働省大臣官房審議官 (医療保険担当) 武田俊彦

一体改革と病院の機能分化(要旨)

 本論に入る前に、先ほど拝見した非営利ホールディングカンパニーのセッション(医療制度・税制委員会企画)について、一言感想を申し上げる。非営利ホールディングというのは、それぞれの病院のために今どういうスキームが用意できるか、こうしたほうが地域医療のためになるのではないかという観点から議論されてきたもので、「この制度をどう活用するか」という観点で考えていただければありがたい。
 わが国の人口は、2010年から40年までは総人口は減るが、老年人口も増え、40年から60年には老年人口が減り始め、60年以降は本格的に減少する、という3つの段階に分かれる。3つの段階で医療ニーズが異なるので、それに沿った戦略を立てなければいけない。
 第1、第2、第3の段階は地域ごとに時差がありながら起こっていくものであり、全国一律の対策ではなく、地域ごとに考えていかなければならない。
 地域包括ケアの進展度を図る1つに在宅看取り率がある。これをみると、隣同士の町が正反対というところがたくさんあり、市町村ごとで状況が異なっていることが分かる。このように、地域ごとに医療政策を立てる必要がある。
 地域医療計画は病床規制という規制色が強い制度であるが、地域ごとに医療政策をつくっていくという必要性にかんがみ、今般の改革は、基本的に、地域ごとに必要な資料を明示し、その中で医療提供団体や関係者に自主的に考えていただくというスキームになっている。これが報告制度であり、地域医療ビジョンということになる。
 一体改革では、高度急性期、一般急性期、亜急性期、長期療養、介護施設という区分でニーズを算出して医療費を推計した。そのため、報告制度の議論の過程で、高度急性期、一般急性期、亜急性期、長期療養という区分ごとに報告をさせるのが当然ではないかという形で、少し議論が錯綜した。
 しかし、そこには「地域に密着した病床」があり、急性期から亜急性期までの複数の機能を持った病院があると書かれている。そして、亜急性期の議論の中で、急性期が過ぎたポストアキュートの患者と長期療養つまり慢性期にあるが急性増悪したサブアキュートの患者が両方ここに入っているということで、そこは回復期と急性期に分けたらどうだろうかと、こんな議論で推移をしてきている。
 そういう中、日医と四病協の提言(2013年8月)が示された。これは非常に大きな意味を持っていると私は思っている。そこでかかりつけ医の機能が初めて定義されたが、同時に、病床の類型だけでなく病院の類型でみなければならないということが提起された。
 その後、四病協の追加提言(13年11月)は、亜急性の概念には前述2つの機能があると論じ、病院としての機能を考えるとこういう機能があるのではないかと提起した。
 この急性期の議論を救急の面からみると、また、医療提供体制が違って見える。救急の現場で、一番の問題は引き受け手がない高齢者の救急である。
 では、高齢者の救急は、この病床区分のどこに該当するか。恐らく、急性期といわれるのに2つあるのではないか。つまり、専門スタッフのそろった病院と地域の急性期病院のそれぞれが急性期を持っていると。
 したがって、急性期という概念の中には、実は高度なもの、それから通常の急性期、そして、地域で受けとめるべき軽度の急性期とがあるのではないかということになる。これ(軽度急性期)が今進んでいない。したがって、これを、きちんと患者が流れるようにしていこうということではないかと思う。
 地域で考えていくと、全体として医療のあり方が変わっていく。そして、関係者が競争ではなく協調へという観点から議論するということが求められている。
 新しい制度が動き始めている。そういうときに、病院にどういうことを考えていただきたいか、一言だけ申し上げたい。
 報告について、病床の機能区分は各病院の判断で構わない。それから、各病院のデータを集めて地域の実態を正確に把握をし、最終的には、地域で必要な機能、必要な病床を皆さんで考えていただくことになる。
 そのときに、地域にどういう病院が必要であるか、一定程度の急性期医療をもつ病院が(地域に)残るような形で、ぜひ、考えていただきたい。
 大きな病院が急性期病床を減らしていく必要は出てくると思うが、といって、特に今後激増する高齢者救急・在宅医療のバックアップを行なう病院が減っていいということでは決してない。そういう、最適配置を考えていただきたい。
 地域における協議だけでは進まないケースもあるかと思う。その場合は、今議論されている非営利ホールディングというものも、ぜひ活用していただいたらどうかと思っている。

「地域には軽度急性期や高齢者救急・在宅医療支援を担う病院が必要」

■シンポジウムから(敬称略)
神野座長(全日病副会長)」 病床機能報告制度は誰がジャッジするのか。
武田審議官 各地域で現状と将来のあるべき量を試算し、そこにギャップがあればどのようにすべきか地域で考えてもらう。なお、内閣官房で医療費支出目標の議論が始まったが、今後の医療ニーズの推計値を計算する方法に反映する可能性がある。
星北斗(星総合病院) 医療費適正化計画と関連づけて考えると今おっしゃった。この制度が医療費適正化計画のために機能することは避けなければならない。
池上直己(慶應義塾大学)  ジャッジの基となる4区分の定義が実質的にないので、ジャッジのしようがないのではないか。
武田 国が基準を押し付けて強圧的にやることはない。何らかの推計でお示しするが、その結果何もしない方がいいということになれば、医療費も保険料負担も高止まりし、それぞれの病院が衰退していくのではないかとの懸念を持たざるを得ない。
 しかし、そもそも、ビジョンがなくても人口減は避けられず、放っておくと共倒れになる。そうなる前にビジョンを立てて地域で話し合ったらどうかという話だ。しかし、病院同士話し合っても結論は出ないということもあるだろう。そのために意思決定の仕組みとしてホールディングのような法人制度が創設されれば、希望する人は活用してもいいのではないか。
 基金については、慶応の権丈先生が「色々な団体が集まったところに基金で支援をしてくべきだ」と書いている。
 公の方にばかり資金が行っているという指摘があるが、一つ一つの民間に補助するのは行政としてやりにくい。しかし、このように(民間として)まとまったということになると補助もしやすくなる。
神野 軽度急性、サブアキュートとはいったい何か。それは今度の区分では急性期ということでよいのか。
武田 急性期の定義は結局何に落ち着いたのか。日医・四病協の提言には急性期の定義が詳しく書いてある。それに対して(機能区分に)厚生労働省は1行しか書いてない。だが、回復期のところには「急性期の後で」と記してある。
 亜急性期の議論があり、その後に日医と四病協の提言が出て、その報告書が検討会に出されて、あの4区分に落ち着いた。経緯からいくと、日医と四病協の提言を踏まえて今回の4区分ができている。しかし、公的には急性期の定義は1行しか書いてない。私は、基本的には軽度急性を含めて急性期と考えるのが素直な考え方だと思う。
 その上で、高齢者救急のことだが、高齢者施設からの救急搬送がすべて高度急性期の病院にいっていたら、日本の医療はもたない。在宅療養と入院がうまくつながる仕組みができれば、結果的に救急搬送の崩壊を防ぐことにもなり、地域の急性期病院の役割を明確化することにもなるのではないか。
猪口雄二(全日病副会長) となると、地域包括ケア病棟入院料の加算150点は不十分ではないか。せっかくできた制度を生かすためには、その病棟で急性期をある程度診れて、地域に密着して在宅医療を支援していくかたちをつくっていかないとならないと思う。
神野 (地域に密着した)病院がなくなるような制度は制度として成り立たない。我々がやるべきことをきちんとやって、地域のニーズのために何ができるのかということをきちんとやっていくことが基本であり、それを堂々とアピールしていくことも必要かと思う。

「第57回全日本病院学会in 北海道」のご案内

 「第57回全日本病院学会in北海道」(学会長・徳田禎久北海道支部長)は、「イノベーション―医の原点を見つめつつ」というテーマで、2015年9月12日、13日に、札幌市内で開催されます。