全日病ニュース

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日本医療の転換を支えるものはアウトカムの収集と評価

日本医療の転換を支えるものはアウトカムの収集と評価

【OECD「医療の質のレビュー」】
OECDが超高齢化に備える医療施策の方向性を提言

 OECDは日本医療に関する「医療の質のレビュー」報告をまとめ、11月5日にその概要を公表。超高齢化を踏まえた、プライマリケアと入院医療の課題を提示した上で、医療の質を測定・評価する情報基盤の整備とその活用を中心に、今後の医療施策の方向性に関する見解を明らかにした。
 「医療の質のレビュー」は、加盟国における医療政策と医療の質向上との関係を調査し、政策評価・提言として各国政府に提示するOECDの事業。
 日本には今年3月に使節団を派遣、厚労省、日医、長野県を初めとする行政機関と医療関係者から得た資料等から分析を進め、このほど、その報告(サマリー)を公表したもの。全体版は2015年上期に発刊される。

OECD医療の質レビュー「日本―スタンダードの引き上げ」の「評価と提言」(要旨)

 日本の医療制度の顕著な特徴は、サービスを何でも提供でき、医師はいずれの専門も標榜でき、患者は紹介なしで受診できる、緩やかな管理と高い柔軟性である。この制度には利点もあるが、超高齢化社会の医療ニーズに最も適うものではない可能性がある。
 日本は、相互の連携を確保した上で、明確に異なる医療機能(例えばプライマリーケア、急性治療、長期療養)を区分するとともに、ケアの質を監視・改善するためのインフラストラクチャを、すべてのレベル(組織、地域、国)に組み込む必要がある。
 日本の医療政策の優先事項は、何年もの間、緊密な財政管理である。これは、コストを抑制する上でうまく機能しており、緩和すべきではないが、今度は質の管理にも同等の注意を払うことが重要である。
 日本の急速な高齢化を考慮すると、予防的・包括的な高齢者ケアに向けた明確な方向性が必要である。生涯を通じて一貫した予防的ケアを提供する、首尾一貫したプライマリーケア部門が必要不可欠である。
 日本のプライマリーケアはこれまで有効であった。しかし、現在の在り方が最適な質と金額に見合った価値を提供しているかどうか、問題を提起する要因がいくつかある。特に高齢者の受診率が高く、一部病院のデータでは計画外の再入院率が増加している。地域社会のサービスが、適切なケアの提供に四苦八苦している可能性があることを示唆している。
 プライマリーケアで実施されている活動とアウトカムに関して、日本で得られる情報は、他の国と比較してはるかに少ない。
 新しいプライマリーケア専門医である「総合診療専門医」を地域社会の一般医と区別するためには、明確な許可・認定基準が必要である。プライマリーケアの主な機能が、メンタルヘルスケアのニーズを含む複数の複雑な医療ニーズを有する患者に対する包括的なケアの提供であることが重要である。
 プライマリーケアを支える情報インフラの開発が優先事項である。特に、新たなプライマリーケア専門分野のガイドラインで定義される業務の範囲に結びついた指標を開発すべきであり、これをアウトカム及び患者の治療経験と可能な限り関連させる必要がある。
 さらに、個人にかかりつけのプライマリーケア医を登録するよう求める改革が、より効果的なプライマリーケアの発展には必要条件であると考えられる。アウトカムによりインセンティブを与えられるよう、診療報酬の再構築を考慮すべきである。登録システム導入の進み方次第で何らかの頭割りの要素が適切である可能性がある。
 日本の病院はアウトカムのデータを系統的に収集しておらず、病院の医療の質を監視・評価する可能性が低下している。OECDの中で日本は急性病床の数が最も多く、入院期間が最も長いが、これらの病床の多くが、急性期以外の患者の利用など不適切に利用されているとみられる。
 病院部門におけるもう1つの課題は医療機能の専門化と分化である。2014年の医療制度改革で都道府県に病床区分を報告する仕組みが導入された。政府の計画は治療のアウトカム改善を生み出すための重要なステップである。
 現在の支払いシステムは、病院医療の過剰提供にインセンティブをもたらしている可能性がある。
 病床の不適切な利用を削減する努力を奨励し、ケアの安全性及び有効性の監視を支援するために、日本は質の指標の収集と報告をさらに発展させる必要がある。幅広いアウトカム指標を用いて情報システムを強化し、病院部門全体に拡大することが望ましい。データの収集と監視が各病院で系統的かつ一貫した方法で確実に行われるよう、政府又は都道府県はこの方向でさらに積極的な役割を果たすことができる。
 改革のアウトカムへの影響を評価するために、強力な情報インフラが必要となる。オーストラリアやイングランドなど他OECD加盟国の経験が日本の指針となりうる。
 同時に、日本はDPC(又は医療保険請求)などの既存データを活用して、病院のケースミックスのばらつきを比較し、病院の種類ごとに適切なケースミックスの範囲を特定できる可能性がある。これにより、病床機能分化のプロセスをさらに促進できる可能性がある。
 日本におけるもう1つ重要な優先事項は、急性期後又は非急性の患者を病院以外に移行させることである。最も重要なこととして、医療の質を評価するために支払い制度をより効果的なものとし、病院サービスの過剰提供へのインセンティブに対処する必要がある。
 医師不足に関連する病院と救急の供給不均衡に対応するために、日本は調和のとれた措置を取らなければならない。病院医師の数が地域のニーズと一致することを保証し、入院から外来への政策転換によって医師の業務量に追加負荷をかけないようにするためには、追加の仕組みが必要である。。特に救急施設では、看護師への業務の再配分やより幅広い臨床チームの活用の可能性がある。