全日病ニュース

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セミナー企画の動機 「未曽有の改革にいかに会員病院を支援すべきか」

【正副会長座談会激動の医療改革に果すべき全日病の役割―「2025年に生き残るための経営セミナー」中間総括】

セミナー企画の動機 「未曽有の改革にいかに会員病院を支援すべきか」

第7弾計10回開催。参加者は1,234人。92%が「役に立った」と回答

西澤 全日病は、昨年の5月から「2025年に生き残るための経営セミナー」を開始しました。1月の分を含めると第7弾計10回開催し、参加者は合計1,234人に達しています(開催記録を別掲)。
 このセミナーをどうして開催しようと思ったかをお話しする前に、まず、我々が今置かれている状況と、そうした状況に全日病としてどのように立ち向かってきたかを再確認したいと思います。
 現在、2025年に向けていろいろな改革が進められています。それは、病床機能報告、地域医療構想、医療事故調査制度、看護師の特定行為研修制度、さらには医療法人制度改革など、かつてない広がりと規模をもつダイナミックな改革と言えます。
 これに対して、我々は、基本的には、積極的かつ主体的に対応していくべきであると考えています。では、全日病は病院団体としてどういう手を打ってきたのか、そして、今後どういう支援策を会員に提供していくのか。
 今までの活動を振り返ってみると、国民に質の高い医療を提供していくことが大切という考えに立って、そのためには各医療機関が質向上と医療安全を確保し続けていくための組織づくりを「病院のあり方に関する報告書」などで呼びかけるとともに、組織医療を支える、看護師長、事務長を初めとする従事者に対する講習会や病院経営のトップマネジメントなど、幾多にわたる研修活動を毎年やってきました。
 「病院のあり方に関する報告書」では、また、将来の日本の医療のあり方とそこにおける病院のあり方を提言してきました。こうした、我々の取り組みは内外に評価されてきたと思っています。その反面、直近の問題にどう対応するかということには、十分触れることがなかったとも思います。
 2025年に向けた改革は各病院が単独で立ち向かうのは余りにも難しいテーマです。そこで、会員病院が改革の諸課題をどう受け止め、どう対応すべきかを、厚生労働省担当官の解説と会員病院の事例を踏まえつつ、集団討議できる場を提供すべきではないかということで、この「経営セミナー」を企画した次第です。
 そういうことで、「経営セミナー」は、最初から、医療制度だけでなく、診療報酬さらには介護報酬など、病院経営に大きな影響を与える各分野の課題を次々に取り上げる、いわばシリーズとして企画、セミナーごとに3人の副会長に担当していただくようにしました。

「地域包括ケア病棟」と「データ提出加算」は追加を開催

神野 2025年で医療の枠組みが大きく変わろうとしていますが、その動きは、特に今年以降、極めて大きな改革となって表れようとしています。そうした目先の変革を会員病院にどう伝えるかということで、私達は色々な企画を考えました。
 全日病には今19の委員会がありますが、各委員会は継続性をもつ事業を歳月かけて推進していくという使命がある中、「経営セミナー」には迅速かつ機動的な動きが期待されます。
 「地域包括ケア病棟への移行」(第3弾)は、元々、猪口先生の医療保険・診療報酬委員会で重要な課題となっていましたが、私が企画した「これからどうなるDPC対象病院」(第4弾)は、産業医科大学の松田教授との意見交換から浮上してきたテーマです。その流れで、「データ提出加算のためのデータ作成(コーディング研修)」(第5弾)もやるべきだろうということになりました。
 この「地域包括ケア病棟」と「データ提出加算」は参加希望が大変多かったので追加開催、中でも、地域包括ケア病棟(病床)は2回も追加することになりました。我々としても、今までにない手ごたえを感じたセミナーであったかと思っています。
 これからは、急性期だけしかやらないという病院が少なくなってくるという予測のもと、もう少し幅広い視野から、いろいろな医療機能の選択につながる考え方や事例というものを、これからも提供していきたいと思っています。

解釈異なる地方厚生局に医療課から通知という副産物

猪口 私は第1弾で「平成26年度診療報酬改定の全体像を考える」を担当し、続いて、今お話のあった地域包括ケア病棟(病床)を担当しました。地域包括ケア病棟(病床)を選ぶ病院は多々あるだろうということで企画したのですが、参加希望が定員100名に300名を超えてしまったため、結局3回になってしまいました。
 医療課の担当官からも説明をいただけたため、質疑もかなり活発に展開されました。担当官を前にした質疑なので、疑義解釈にもまだ出ていない部分がはっきりした点もあり、参加者は大変参考になったのではないでしょうか。
 参加者からは地方厚生局によって対応や解釈が異なっている事例が少なからず出ました。それに関しては、委員会から医療課に正式に質問し、その結果、医療課から各地方厚生局に通知が出されるということもあるなど、開催意義は大変大きかったと思います。
 参加者からとったアンケートによると、非常に多くの病院が地域包括ケア病棟(病床)への移行を考えていることが分かりました。これに関しては、その後全会員病院を対象に調査を実施しました。間もなく集計が出ると思います。
 ただ、平均在院日数が縮んでいく中で、空いた急性期の病棟や病床を地域包括ケアにもっていく病院が相当数出ると、自院の中で急性期から地域包括に回してリハをやって退院させる病院完結型が増え、地域完結型として地域包括ケアを中心にしようと思っている病院にとっては、急性期から受け入れる患者の数が見込みを下回ることにならないかということが危惧されます。
 そこら辺は、病床機能報告制度を経て地域医療構想が策定されていく中ではっきりしていくのでしょうが、それぞれの病院が地域の中で、地域の在宅とか施設等との連携を本当に密にしていく。すなわち、かねてから提言してきた地域一般病棟みたいなものを真剣に実現していかないと、中小病院はますます厳しくなるという感じがします。そういうような視点からも、こうしたセミナーを今後も続けていきたいと思っています。

「介護療養病床の熱い思いが行政に伝わったのではないか」

安藤 今まで、我々はややもすると急性期や回復期を中心に議論してきましたが、全日病会員の半数近くが慢性期のベッドを持っているということ、そして、実際に会員の皆さんからもぜひ慢性期あるいは介護のセミナーもやってほしいという要望が多かったこともあり、私は「超高齢社会での介護療養病床の重要性」(第6弾)と銘打ったセミナーを企画しました。
 介護療養病床は法律上は廃止となっていますが、厚労省の老健局も必要な機能は残していこうとしており、やや複雑な情勢になっています。名称はともかく、実質上は存続されると思います。
 そこで、セミナーでは、老人保健課の迫井課長に来ていただき、その辺りのお話をうかがいました。その後、実際に介護療養型医療施設として頑張っている会員病院から事例発表ということで、一つは看取り、もう一つは認知症の身体合併症について、どういう取り組みをしているのか発表していただきました。それを受けて、参加者が8班に分かれてグループディスカッションをしました。
 グループディスカッションでは、介護療養型医療施設でどんな医療を行なっているのかということ、今後チャレンジをしたいこと、さらには、それを含めて行政に提言をしたいことを論じていただきましたが、非常に活発な意見が出ました。恐らく、介護療養型医療施設の熱い思いが行政に伝わったのではないかなと思っています。
 それで、第7弾ということで、1月22日に「これからの医療療養病床の役割を考える」と題したセミナーを開催しました。
 実は,医療療養病床の問題はまだ十分議論されているとは言えません。特に今後、医療法上の経過措置が廃止されると見込まれる25対1をどうするのか、それから、在宅復帰を促していこうということでできた在宅復帰機能強化加算がどう活用されているのかということを含めて、医療課の考えをうかがうとともに、会員病院から医療療養病床の活用事例を示してもらい、それをもとにグループディスカッションを行なっています。
西澤 私の方の関係では、厚労省医政局指導課医師確保等地域医療対策室の佐々木室長をお招きして、「医療法等改正案の全体像~新たな財政支援制度への対応、病床機能報告制度とは」(第2弾)を催行しました。
 佐々木室長から、医療介護総合確保基金や病床機能報告制度を含む医療介護総合確保推進法の概要を分かりやすくお話していただいたわけですが、検討会で一連の議論に参加してきた私自身も、基金と報告制度に関して会員病院にぜひ留意してほしい点を解説させていただき、参加者からの具体的な疑問にも的確に答えることができたと思っています。

6回に厚労省が講師参加。「勉強になった」との声も

西澤 すべてのセミナーで参加者にアンケートをお願いしました。それをみると、実に92%の方から、セミナーは「役に立った」との評価をいただきました(グラフ参照)。
 また、10回のうちの6回に厚労省担当官の参加をいただくことができ、先ほどの猪口先生のお話のように、ある程度、厚労省と意見交換ができるというサブ効果もあったかと思っています。そういう意味からもセミナーは効果的であったと思います。
神野 私の関係では医療課の田村課長補佐と中下主査で、つごう5回も来られました。ご感想をうかがったところ、「現場の意見が聞けて勉強になった」という実直なお答えでした。そういった意味では、これからも遠慮せずに若い厚労官僚をお呼びしてもいいかなと思いました。
 それと、そのセミナーで使ったQ&A集が参加者から好評だったので、後日不明な点を補筆してホームページで公開したのですが、『月刊/保険診療』から希望があって、転載を認めたという副産物も生まれています。
安藤 慢性期としては、やはり今回の介護報酬改定で非常に大きな影響が避けられませんが。とくに、介護療養病床には新しく5つの機能からなる強化型が創られますから、それにどうきちんと対応していくのかというのが大きな問題になります。
 また、地域包括ケアということでは、病院を中心に、老健、特養、通所、訪問と多様な事業を展開している医療法人が多い中、どういうように連携して地域のためになっていくかということをテーマにセミナーをやってみてはどうかと思っています。
猪口 基金については昨年の経験を踏まえて、2015年度にどういう対応をすべきかという点があります。とくに、15年度は介護も基金の対象となることもあるし、地域による温度差もだいぶありますから、一回はやるべきではないでしょうか。それと地域医療ビジョンのこともありますね。もしかしたら、ホールディングカンパニーの問題もあるかもしれませんね。
西澤 基金については、とくに病院団体からの要望への対応に顕著ですが、都道府県によっていろいろと差がありますから、重要なテーマと言えますね。とくに、地域医療構想を推進する上で基金は非常に重要なツールとなりますから、我々としてもいろいろと情報を集めながら効果的なセミナーを打っていく必要があると思います。
 地域医療構想の中で「協議の場」が設けられますが、ここに病院としてどう関与していくか、都道府県の病院団体の役割が非常に重要になってきます。そういうものもセミナーの重要なテーマになると思います。
ということで、基金、病床機能報告制度、地域医療構想、あるいは「協議の場」など、やるべきテーマは本当にたくさんありますので、ますます、副会長の先生方と一緒に具体化していかなければならないと思っています。