全日病ニュース

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再発防止に繋げることが事故調査の目的

【医療事故調査制度の創設(2015年10月)に向け、我々はどうすべきか】

再発防止に繋げることが事故調査の目的

具体的運用の検討と周到な準備が重要。医療機関・従事者への情報提供・教育も喫緊の課題

常任理事公益財団法人東京都医療保健協会理事長・院長 飯田修平

はじめに

 第6次医療法改正で医療事故調査制度が成立し(2014年6月)、全医療機関に“医療に起因する予期しない死亡”事例の院内調査と第3者機関への報告が義務化された。2015年10月に実施される。しかし、医療機関及び医療従事者の対応は十分とは言えない。
 重大な医療事故の経験はまれであり、対応が標準化されていないので、事故発生後の対応が困難である。また、組織防衛(リスクマネジメント)としての、法令遵守、訴訟対策、刑事訴追回避のためヒヤリ・ハット報告収集、事故防止対策委員会設置、賠償責任対策等が主であり、医療安全確保(セイフティマネジメント)の視点は十分ではない。

『院内医療事故調査の指針』を出版

 筆者等は、医療事故発生時に行うべき院内調査の手法及び報告方法の指針を医療関係者に提示し、院内医療事故調査の標準化を図ることを目的に、厚生労働科学研究費研究事業「医療事故発生後の院内調査の在り方と方法に関する研究」(主任研究者・飯田)を実施。本研究を基に『院内医療事故調査の指針』(メディカ出版)を2013年に出版した。
 本指針は、重大な医療事故経験の少ない医療機関が事故直後から利用できるように、いつ、どこで、誰が、何をすべきかを時系列で明確に記載しているため、本指針を参考に、各医療機関は、医療事故調査組織を整備する際に、自院の特性を勘案して、時系列に沿って適切な対応を取ることが可能である。また、病院団体、学会、職能団体、第3者機関、行政などの関連団体においても、本指針を基に、それぞれの立場から、専門家派遣、教育研修実施などの支援策を検討することを期待する。

医療事故調査の目的

 医療事故調査とは、医療事故の原因究明を目的とする情報収集、原因分析のすべてをいう。すなわち、原因究明による再発防止が目的である。患者・家族の納得や補償も重要であるが、事故調査とは別の枠組みで検討すべきである。
 この大前提を堅持しない限り、原因究明・再発防止は困難である。しかし、ほとんどの事故調査検討会で両者の混同があり、議論が迷走する要因となっている。両者は、他分野の事故調査、諸外国における医療事故調査では明確に分離されている。

医療事故調査に関する検討の経緯

 日本法医学会の異状死ガイドラインと国立病院部政策医療課の「リスクマネージメントマニュアル作成指針」によって医師法21条が拡大解釈され、診療関連死を警察に届け出るべきという風潮が広まったため、医師法21条が医療事故調査に関する検討の中心課題となった。しかし、筆者は、医師法21条の立法の趣旨に立ち戻れば良いので、改正の議論は必要ないと、一貫して主張し続けてきた。
 その中で、厚労省は、原因究明・再発防止を目的に「医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会」を2011年8月に設置した。そして、筆者が一貫して主張してきたように、原因究明・再発防止と過失認定・補償は目的が異なるということで、別の枠組みで検討することになった。
 その分科会として「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」が設置され、2012年2月から2013年5月にかけて計13回の議論が行なわれた。検討部会は、事故調査と医師法21条は別の問題であるということで合意し、医師法21条と関連させることなく、事故調査のあり方を検討した。
 筆者は両検討会の構成員として議論に参加したが、これは一大転換点であった。
 合意事項は、『「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」について』として、1年半ぶりに再開された親検討会に報告され、承認された(2013年7月)。
 本検討会の意義は、医療事故調査に関する第三者機関設立に関して合意がなされ、厚労省が医師法21条に関する解釈を立法の趣旨に戻して明確にしたことにある。
 そして、医療事故調査制度の成立を受け、厚生労働科学研究費研究事業「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究」(主任研究者・西澤)において院内事故調査の指針の検討が2014年7月に始まり(2015年3月に報告書を提出予定)、並行して「医療事故調査制度の施行に係る検討会」が2014年11月に設置され、施行にかかわる省令・通知事項が検討されてきた。

医療事故調査の意義

 医療事故調査においては、事故の発生とその事実経過を把握し、背景にある要因・原因を抽出すること(根本原因分析RCA:Root cause analysis)が重要である。ついで、根本原因に対する対策を立案し、実施し、その経過や結果を評価する。
 すなわち、再発防止に繋げることが事故調査の目的である。対症療法(モグラ叩き)ではなく、病因を除去し(根治)、影響を緩和し(緩和措置)、事例から学んだことを明らかにし、継続的に学習し、改善できる組織を構築することが重要である。

おわりに

 医療事故調査制度に反対し、できない理由を並べる人がいる。また、目的と異なる、あるいは、根拠ない発言をする人がいる。
 法制化され、施行(2015年10月1日)まで時間がないので、目的達成のためには、具体的運用の詳細な検討と周到な準備が重要である。また、対応が遅れている医療機関と医療従事者に対する情報提供と教育が喫緊の課題である。