全日病ニュース

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重度者受け入れで現場の疲弊さらに増す可能性。人員配置の見直しが必要

【●強化型Bを算定-新規事業への活用や医療療養への転換等を検討】

重度者受け入れで現場の疲弊さらに増す可能性。人員配置の見直しが必要

療養機能強化型の3年後の制度的位置づけが曖昧

医療法人渓仁会札幌西円山病院経営管理部次長 高橋直樹

 当院は北海道札幌市中央区にある慢性期の病院で1979年6月に開院し、821床(介護療養型医療施設306床6単位、療養病棟入院基本料191床4単位、障害者施設等13対1入院基本料237床5単位、回復期リハビリ病棟87床2単位)で運営し、主に要看護・介護老年病患者を対象に、医療・看護・介護を中心とする入院サービスを提供している。

強化型Aへの変更も検討

 介護療養病床の概況は平均介護度が4.0であり、その内訳は、要介護度1が6.8%、要介護度2が5.1%、要介護度3が11.9%、要介護度4が37.1%、要介護度5が39.1%である。
 今回の改定で「療養機能強化型」が新設されたが、当院における現状の介護療養病床の入院患者の状態を調査したところ、1月~3月の実績値で、①重篤な身体疾患を有する者及び身体合併を有する認知症高齢者の割合(以下「重度者割合」)は56.2%、②喀痰吸引、経管栄養又はインスリン注射が実施された者の占める割合(以下「処置実施割合」)は34.6%、③医学的に回復の見込みがなくターミナルケア計画を作成し、患者又は家族の同意を得て実施された者の占める割合(以下「ターミナルケア割合」)は6.8%であった。
 そのため、4月1日からの算定開始で「療養機能強化型B」の届出を行った。
 4月28日付の介護報酬に関する要件のQ&Aが出たが、これにより処置実施割合の人数カウントの方法が変更されたために再計算したところ、「処置実施割合」は50%を超えることが判ったため、「ターミナルケア割合」10%以上の要件クリアの対応を協議しつつ、現在、療養機能強化型Aの届出を検討しているところである。
 療養機能強化型にかかわる患者状態の要件はとてもハードルが高く、当院の重度者割合においては「慢性心不全」「合併症を持つ認知症」の患者こそ90%近くを占めているが、その他の身体疾患の要件は医療病棟で診るような患者像とも考えられる。
 今回の改定では、新たな機能への転換であるとして療養機能強化型へ重度者の受け入れを進めているが、人員基準の見直しがされなかったことで現場の疲弊感がさらに強まると思われる。
 今回の改定で人員配置の見直しがされなかったことはとても残念であった。
 これまで介護療養病床が担ってきた機能が評価された一方で、各施設で処置の必要な患者の受け入れが進まなかったこと、さらに、多死社会が迫る中での看取り場所の確保が必要となったことから、療養機能強化型が新設されたものと考えている。

強化型Bでも年間2,300万円の減収

 今回の改定で報酬額と人員基準の面の評価が厳しかった背景に、3年後の廃止を見据えて敢えて厳しくし、要件をクリアできる優良病院を残したいという思いが見えてくる。
 療養機能強化型を取得した当院の収入ベースでの試算を紹介させていただく。
 当院の実績値を基に要介護度4.0の多床室、平均病床数300で試算すると、届出前は1日1,260単位で年間収入1,668,500千円であった。
 療養機能強化型Bを取得すると1日1,239単位、年間収入1,645,505千円となり、届出前からは22,995千円の減収となる。
 参考までに、療養機能強化型Aを取得した場合は1日1,259単位、年間収入1,667,405千円となり、届出前からは1,095千円の減収に、その他の場合になると、1日1,205単位の年間収入1,608,275千円で、届出前からは60,225千円もの減収となるなど、いずれも経営的に大きな影響が避けられない。
 さて、介護療養型医療施設は、病状が安定期にあり医学管理のもとで長期にわたって療養・介護が必要な要介護度1以上の方が入院できる施設として2000年に誕生したが、医学的には入院の必要がない方が多く入院している「社会的入院」が指摘され、2006年の医療制度改革の中で、社会的入院の解消と医療費削減を目的に2011年度末に廃止することが決定された。
 2008年5月に介護療養型老人保健施設(新型老健)を創設して転換を進めてきたが、国が思い描く移行とはならなかったことから、2017年度末までの期限延長となったのがこれまでの経緯である。
 今回の改定で療養機能強化型が新設されたことは介護療養型医療施設が担ってきた機能が評価されたことになるが、廃止の方針はそのままとなっている。今回改定で実質的な存続が決まったとの見方もできるが、療養機能強化型の3年後の制度上の位置付けが曖昧な形となっている。

20対1以上看護配置が医療療養への転換のネック

 今後留意が必要なことは、2018年3月末に医療法上の療養病床の経過措置が終了するため、2018年4月以降は療養病床の看護配置は30対1(医療法では6 : 1に相当)から20対1(医療法では4 : 1に相当)以上の配置が必要となることである。
 医療療養病床への転換を検討するにしても、療養病棟入院基本料2(看護配置25対1)の廃止を見込んだ、少なくとも20対1以上の対応が必要であり、病院運営の上で大変頭を悩ます事態となっている。
 また、今後は、地域医療ビジョンによって病棟機能毎に必要病床数が定められるが、北海道は病床過剰地域であり、特に札幌市は病床が多いため、病床数を増やしていく方向性はない。
 その対応として、制度や報酬改定の動向を見ながら、法人内新規事業への病床の有効活用や医療保険病床への転換等を検討していくことにしている。まずは、療養機能強化型を運営し、地域包括ケアシステムの中での位置付けがどうなっていくのかも含めて状況を見極め、今後の将来像を考えていきたい。