全日病ニュース

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事故の定義「起因する」と「予期しなかった」点で踏み込んだ解釈

事故の定義
「起因する」と「予期しなかった」点で踏み込んだ解釈

「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究」(研究代表者・西澤寛俊全日病会長)最終報告から(抜萃)

□「提供した医療に起因する(疑い含む)死亡又は死産」を判断する上での考え方

●「起因する」についての考え方

医療法の規定(要旨)
「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」を、医療事故として管理者が報告する。

【研究班で議論を行なった内容】
 医療を提供した結果、その医療提供中(例えば術中)の事故や、比較的直後の事故に起因して短期間で死亡に至った場合には、「提供した医療に起因する(疑い含む)」死亡又は死産に該当する、と判断することは困難ではないと考えられる。
 しかし、例えば、医療を提供した結果、高度の障害(例えば中枢神経障害等)を残し、障害の発生1年後に死亡した症例については、本制度における「提供した医療に起因する」死亡か否かについては、判断に迷う場合もあると考えられる。
 モデル事業に申請された診療行為に関連した死亡を分析すると、その約6割の死亡時期は医療を提供した後1週間以内であり、その約9割は医療を提供した後1ヶ月以内に死亡しているとのことであった(末尾資料1参照)。
 また、2011年より行なわれているNCDでも、手術関連死亡率は術後30日死亡率をもって論じられることが多い。日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業では、事故事例の重症度レベルは事故発生後2週間程度で判断されている。
 従って、本研究班においては、「提供した医療に起因する」死亡又は死産という判断の基準として、提供した医療から死亡又は死産に至る期間について

    30日以内を一応の目途としてはどうか
、と考えた。なお、多種多様な臨床現場で発生する死亡又は死産について、一律に「提供した医療から30日以内」と区切ることは困難であり、提供した医療、事故の発生、死亡に至る経緯を総合的な判断の目安として提示したものであり、最終的には管理者が判断を下すべきものであると考えられる。
 また、提供した医療に起因した高度障害を残した事例に関する調査も今後の重要な課題である。

●「予期しなかったもの」の考え方

【省令案】
○当該死亡又は死産が予期されていなかったものとして、以下の事項のいずれにも該当しないと管理者が認めたもの
一管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等により、当該患者等に対して、当該死亡又は死産が予期されていることを説明していたと認めたもの
二管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等により、当該死亡又は死産が予期されていることを診療録その他の文書等に記録していたと認めたもの
三管理者が、当該医療の提供に係る医療従事者等からの事情の聴取及び、医療の安全管理のための委員会(当該委員会を開催している場合に限る。)からの意見の聴取を行った上で、当該医療の提供前に、当該医療の提供に係る医療従事者等により、当該死亡又は死産が予期されていると認めたもの
【通知案】
●省令第一号及び第二号に該当するものは、一般的な死亡の可能性についての説明や記録ではなく、当該患者個人の臨床経過等を踏まえて、当該死亡又は死産が起こりうることについての説明及び記録であることに留意すること。
●患者等に対し当該死亡又は死産が予期されていることを説明する際は、医療法第一条の四第二項の規定に基づき、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めること。

 【研究班で議論を行なった内容】
①「当該医療の提供前に予期されていると認めた」場合の考え方
 省令案三号は一号、二号にある「予期されていることの患者等への説明や診療録その他の文書等に記録」がない場合を想定していると考えられるが、三号に該当する場合の具体的な状況として、以下が考えられた。
i )救急医療などの緊急の症例で、蘇生や治療を優先するために、説明や記録を行う時間の猶予がなく、かつ、比較的短時間で死亡した事例
ii )患者が繰り返し同じ検査や処置等を受けており、当該検査・処置等によって起こる危険性について過去に説明しているため医療者が説明と記録を割愛した事例
 上記のケースにおいては、当該医療の提供に係る医療従事者等への事情聴取と医療の安全管理のための委員会から意見聴取をした結果、管理者が、当該死亡又は死産が予期されていると認めた場合は三号に該当すると考えられる。なお、医療の安全管理のための委員会がない場合は、当該医療に係る医療従事者等の意見を聴取した上で、管理者が判断する。
 ただし、医療法第1条の4第2項には「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」と規定されていることから、死亡又は死産を予期していたと考えられる事例の多くは一号、二号に該当し、三号は補完的な状況と考えられた。上記ii )のような、繰り返しの検査・処置等であっても、患者に丁寧に説明することが、医療者に求められる。
 ※また、予期した死亡又は死産であるにも関わらず事前に患者、家族等へ十分な説明がなされていなかった二号、三号のような状況においては、死亡又は死産の発生後なるべく間を開けず適切な説明を行い、遺族の理解を得るよう努めなければならないと考えられる。
 予期していた事例であれば、予期した死亡又は死産に対する対応策が考慮もしくは実施されているべきである。予期される死亡又は死産を考慮して対応すべきことにおいては、三号も一号、二号と同等に扱われるべきと考えられる。
 ※患者等に説明することが困難な場合の具体的な状況として、以下が考えられた。
・当該患者が説明を受けることを拒否した事例
・当該患者に意識障害がありかつ家族が不在で、当該医療の提供に係る医療従事者が患者等に対し、説明することができない事例なお、説明することが困難な場合には、その旨を診療録等に記録することが望ましく、その場合は二号に該当すると考えられる。
□医療事故調査について
【研究班で議論を行なった内容】
②関係者へのヒアリング
 準備された上記の資料に加え、当該医療事故に関わった医療者からのヒアリングは必須と考えられる。
 ヒアリングの目的は当該事故に関する事実確認であり、責任追及ではないことを念頭に置いて行う。ただし、当該医療者の心理状態などに十分配慮しながら、ヒアリングを行う必要がある。
 また、その他の関係者や、必要であれば遺族からヒアリングを行い、発生した事実の経緯をできるだけ正確に、時系列で把握する。遺族から疑義や疑問がある場合は、これを整理する。
 なお、ヒアリングを受けた者の間で当該医療事故に関する時刻や発言内容が異なる場合があるが、不一致は修正せずそのまま記載する。
 ※ヒアリングの留意事項・話しやすい環境を作る。
 ・事実の把握が目的であり、責任追及ではないことを説明する。
 ・意見ではなく事実を述べ、不明な点は不明と言うように勧める。
 ・行為者とその業務の管理責任者のヒアリングは別々に行う。
 ・必要に応じて、患者・家族にもヒアリングを行う。
 ・勤務予定に合わせるか、または、勤務を調節する。
 ・予め主な質問事項を決めておく。
 ・事実確認の段階では、なぜなぜと質問しない。
 ・ヒアリングを受けた者に、その発言内容の記録について確認する。