全日病ニュース

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保険医の配置・定数の設定や自由開業・自由標榜の見直しを提案

保険医の配置・定数の設定や自由開業・自由標榜の見直しを提案

【「保健医療2035」提言集】
有識者懇が提案。都道府県に医療費抑制の責任を負わせる仕組みも

 厚生労働省内に設けられた30歳~40歳台の有識者からなる「保健医療2035」策定懇談会は6月9日に提言をまとめ、塩崎厚生労働大臣に手渡した。
 提言は全体的に抽象的表現に終始しているものの、2035年までに予測される諸々のファクターを踏まえて国際的な展開を含む日本の保健医療のパラダイムを考察、ビジョンとした。
 その中で、介護を含む、生涯を通じた健康・疾病管理を可能とするシステムの構築を提起するなど、「パッチワーク的な制度改正を繰り返してきた」医療行政に対置する理念を各領域で展開している。
 各論では、医療制度面で、都道府県に医療費抑制の責任を負わせる仕組み、かかりつけ医の「ゲートオープナー」機能の確立、保険医の配置・定数の設定や自由開業・自由標榜の見直しなどを提案。かかりつけ医と他医師との受診で医療費に差をつける案も盛り込んだ。
 塩崎厚生労働大臣は、省内に推進体制を設置して具体的な検討を進め、「できるものから着実に進めていきたい」と述べるとともに、2025年以降の保健医療を見据えたわが国初となる提言を経済財政諮問会議等に報告する意向を表わした。
□「保健医療2035」提言集の骨子
●負担増と給付削減による現行制度維持を目的とするのではなく、新たな価値やビジョンを共有し、イノベーションを取り込み、システムとしての保健医療のあり方の転換をしなければならない。新たな「社会システム」としての保健医療の再構築が必要。
●現物給付による診療報酬制度は確保した上で、必要な改革は行っていくべき。中医協の分析機能強化のために、各委員を支援する仕組みを確立することが必要。ただし、将来的には、中長期的な視点に基づいた制度改正を可能とするプロセスも検討すべき。
●複数年度にわたるマクロ的な社会保障予算の枠組み等により、関連制度や投入資源の両面から、介護を含む保健医療システム全体の最適化を行うべき。
●診療報酬や保健医療のシステム設計における地方公共団体や保険者等関係者の自律的な努力を支援するなど、分権的な仕組みも今後検討する。基礎的なサービスについては国が責任を持ち、規制のあり方を含めた改革を検討していく。
●医療技術の費用対効果を測定する仕組みを制度化・施行する。医療技術や保健アウトカムなどの評価を継続的に主導できる部門を厚生労働省内に設置する。医療機関のサービスの費用対効果の改善や地域医療において果たす機能の見直しなど、医療提供者の自律的努力を積極的に支援する。
●地域医療構想や地域包括ケアシステムを踏まえ、地域主体の保健医療に再編する。地域の状況やニーズに応じた保健医療を計画するために、制度横断的な地域独自の意思決定の場を構築する。地域のデータとニーズに応じて保健・医療・介護サービスを確保する。地域差に関する総合的な要因分析をさらに進め、都道府県の責とすべき運営上の課題とそうでない課題を精査する。  都道府県の努力の違いに起因する要素については、都道府県がその責任(財政的な負担)を担う仕組みを導入する。
●診療報酬については、例えば、地域ごとのサービス目標量を設定し、不足している場合の加算、過剰な場合の減算を行うなど、サービス提供の量に応じて点数を変動させる仕組みの導入を検討する。将来的には、医療費適正化計画において推計した伸びを上回る形で医療費が伸びる都道府県においては、診療報酬の一部(例えば、加算の算定要件の強化など)を都道府県が主体的に決定することとする。
●将来的に、仮に医師の偏在等が続く場合においては、保険医の配置・定数の設定や、自由開業・自由標榜の見直しを含めて検討を行なう。地域のかかりつけ医の「ゲートオープナー」機能を確立する。今後10年間程度ですべての地域でこうした総合的な診療を行う医師を配置する体制を構築する。総合的な診療を行うかかりつけ医を受診した場合の費用負担については、他の医療機関を受診した場合と比較して差を設けることを検討する。
●2035年までの早期に喫煙者自体をゼロに近づけるため、たばこ税増税、たばこの広告・パッケージ規制、喫煙者に対する禁煙指導・治療、子ども防煙教育のさらなる促進などのあらゆる手段を講ずる。
●NCDレベルのデータベースを全疾患に構築することや、DPC、NDB、KDB等の公的統計の質と量の両面での充実を図る。米国のH I PAAなどを参考にした法的整備や標準化などの統計の基本的基盤を確立、介護を含め、生涯を通じた健康・疾病管理を可能とする。
●公費(税財源)の確保については、既存の税に加えて、社会環境における健康の決定因子に着眼し、たばこ、アルコール、砂糖など健康リスクに対する課税、また、環境税を社会保障財源とすることも含め、あらゆる財源確保策を検討していくべき。
●それぞれの地域において、医師の高齢化や地域偏在などに伴い、不足する診療科及び診療内容について精査する必要がある。医療計画の策定責任者である都道府県は、その精査する過程で、総合診療を含め、不足している診療科別の地域医師確保計画を策定し、対策を講じるべき。具体的には、過当競争の診療科から不足する診療科に転科を促すための支援策を策定する。