全日病ニュース

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神野委員 A項目に「せん妄管理」の追加を提案

神野委員 A項目に「せん妄管理」の追加を提案

【入院医療等の調査・評価分科会】
「重症度、医療・看護必要度」再度の見直へ。重症患者評価の別軸も検討

 7月16日に開かれた診療報酬調査専門組織の入院医療等の調査・評価分科会は、2014年度入院医療等調査の結果にもとづいて、(1)急性期入院医療、(2)退院支援に係る取り組み、(3)入院中の他医療機関の受診をテーマに取り上げ、16年度改定の課題を探る議論を展開した。
 このうち、急性期入院医療に関しては、前改定でA項目を手直しした「重症度、医療・看護必要度」の有効性、妥当性が議論の俎上にあげられた。
 現在、この評価は、「A項目2点以上・B項目3点以上」を満たす患者が、例えば7対1病棟では15%以上、10対1病棟では10%以上入院していることを基準に設定、各入院基本料の算定要件としている。
 この「重症度、医療・看護必要度」について、事務局(厚労省保険局医療課)は、現行基準の有効性を疑わせるデータを示した。
 その1つがDPCから引用したデータで、基準を満たさない患者にも、「医師の指示の見直しが1日1回以上必要」な患者が35%程、「看護師による処置等が1日3回以上必要」な患者が40%程いる、というもの。
 基準を満たす患者における割合は前者が50%強、後者が70%程であるから、基準を満たさない患者にも“重症な”患者が少なくないことをうかがわせるデータといえる。
 この推定を補強するものが14年度入院調査結果にあると事務局が示したのが、7対1における特定機能病院と一般病棟における基準該当患者割合の比較である。
 それによると、①特定機能病院よりも一般病棟の方が該当患者の割合が高いが、その内訳をみると、②特定機能病院ではA項目全体の該当率が高く、それに比べるとB項目全体の該当率は低い傾向にあるが、A項目のうち「専門的な治療処置」の該当割合が特段に高い、これに対して、③一般病棟ではA項目と比べるとB項目の該当割合が高い傾向にある、というもの。
 これを、手術前後の基準該当患者割合の推移でみていくと、手術当日と術後1日目でも40%前後(手術当日で45%程)にとどまり、術後3日目には術前とおおむね同水準になっている。開胸手術をみても、該当患者の割合は手術直後で50%程で、術後3日には25%を下回っている。
 次に、全身麻酔手術の実施件数の多寡別に医療機関の該当患者割合別の分布がどうなっているかをみると、全麻の件数が多い医療機関で該当患者の割合が低いという傾向が認められた。
 さらに、救急搬送された患者の入院後の経過を追いかけると、基準を満たす患者は、入院当日で20%強、最大でも30%強にとどまっていた。
 こうしたデータから、A項目とB項目を組み合わた点数基準の妥当性やA項目あるいはB項目の各項目の適切性が疑われるとして、事務局は、明らかに急性期医療を必要としている患者の状態を反映する方向でA項目を見直すこと、また、A項目が一定点数であれば当該基準とは別にカウントする方法を示唆しつつ、専門的治療を受けている患者や術後の患者等“重症”患者を評価する方法の検討、を提起した。
 B項目については、構成しているインジケーター間に高い相関性があるとして、とくに、「寝返り」「起き上がり」「座位保持」の整理を提起。その上で、認知症患者の手間のかかり具合を反映させるために、HCUでB項目に採用されている「診療・療養上の指示が通じる」「危険行動」を一般病棟にも採用することを提案。
 さらに、一般病棟、ICU、HCUで分かれているB項目の内容を統一化する方向で大きく見直す方向で検討することを求めた。
 「重症度、医療・看護必要度」について、細部はともかく、分科会委員の大勢として論点の方向性を指示した。
 その中で、神野正博委員(社会医療法人財団董仙会理事長・全日病副会長)は「現場はせん妄の管理に非常に手間がかかるといっている」と述べ、A項目に追加するよう提起した。
 神野委員は全日病が会員病院を対象に実施した「重症度、医療・看護必要度に関するアンケート調査」で現行のA項目以外に「手のかかる状態と考えられた項目」をたずねたところ、病棟種別全体を通してせん妄が最多となったことを明らかにした。
 そして、「手術等による一過性のせん妄と認知症は明らかに異なる」として、重症度のインジケーターにするよう求めた。

退院支援の評価体系を総合的に見直して再構築

 退院支援に係る取り組みについて、事務局は、退院支援にかかわる診療報酬上の評価は多くあるが、一部項目を除くと算定回数は多くないことを指摘。
 また、調査結果から、(1)7対1病棟と療養病棟では退院支援の職員を配置している病棟の方が平均在院日数が短い、(2)7対1、10対1、地域包括ケア、回復期リハの各病棟で病棟に退院支援の職員を配置した場合の効果が高いとする回答が多い、(3)病床規模を問わず多くの医療機関で入院時に多職種カンファレンスを実施している、(4)地域包括ケア病棟を除くと連携施設数の多い医療機関ほど平均在院日数が短いなど、多くの医療機関で退院支援の取り組みが行なわれ、その効果が出ていることを明らかにした。
 その上で、論点に具体的な見直し点をかかげることなく、入院前から退院後にいたる流れで取り組まれる退院支援の評価を、現行項目の整理を含め、総合的に検討する必要を提起した。
 また、在宅復帰率が要件となっている病棟への退棟と自宅への退棟が同列に扱われている在宅復帰率の算出方法について、調査結果から、「在宅復帰率の算出値と実際に自宅へ退棟している割合に乖離が生じている」と指摘。「自宅への退棟を在宅復帰率が要件となっている病棟への退棟よりも高く評価する」など、その算出方法を見直す必要を提起した。
 入院患者の他医療機関受診に関しては、現在、出来高病棟からの他科受診には入院基本料から30%、特定入院料等の病棟からには、包括範囲の診療行為であれば70%、包括外には30%を入院料から減額するという厳しい仕組みになっている。
 この実態について、調査結果は、概ね以下のような傾向・結果を明らかにした。
(1)他科受診の割合は障害者病棟、有床診、回復期リハ病棟の入院患者で比較的高い
(2)他科受診による減算の頻度は有床診や精神病棟で高く、有床診ではやや増加傾向にある
(3)他科受診の患者割合は小規模で届出入院料が2つ以下の医療機関で特に多い
(4)他科受診の理由は、「専門外の急性疾患・慢性疾患の治療のため」のほか、「症状の原因精査のため」という理由も一定数みられる
(5)他科受診の対象は多様な診療科にわたっているが、内科病棟の入院患者は内科、整形外科、歯科が、外科病棟の患者は内科、整形外科、歯科、精神科が比較的多く、整形外科は内科、整形外科、歯科、小児科が、脳神経外科は歯科、精神科、内科、眼科、整形外科が上位を占めている
(6)受診費用の請求方法は一般7対1以外では「入院料を減算して先方で請求する」割合が高いこの他科受診について、委員からは改善を求める声が相継いだが、事務局は特段の論点を示さなかった。

□「重症度、医療・看護必要度」に関する論点

●A項目に関する論点
・「重症度、医療・看護必要度」のA項目には、様々な処置等が列挙されているが、手術直後の患者や救急搬送後の患者等、明らかに急性期の医療を必要とすると考えられる状態の患者が、必ずしも評価されていない現状についてどう考えるか。
・A項目の点数が高いなど、特に専門的な治療が実施されている患者や、手術直後の患者等に関して、「重症度、医療・看護必要度」の基準を満たすための条件について、どう考えるか。
●B項目に関する論点
・一般病棟用のB項目について、「寝返り」との相関が強く、基準の該当性への影響の少ない「起き上がり」「座位保持」の、評価の必要性についてどう考えるか。
・認知症患者の急性期病床への受け入れについては、医療現場での負担が大きいことから、現在ハイケアユニットで評価項目となっている「診療・療養上の指示が通じる」「危険行動」の項目を、一般病棟においても評価の対象とすることについてどう考えるか。
・一般病棟用、特定集中治療室、ハイケアユニット用のB項目については、類似の状態を評価する項目が多いが、項目数に差があることから、病棟種別間で統一し、単純化を図ることについて、どう考えるか。

□退院支援と在宅復帰率に関する論点

・退院支援については、退院支援に係る人員の配置や院内の取組、院外との連携等が行われているが、退院支援を推進していくための評価のあり方についてどう考えるか。また、内容の類似した項目や算定回数が少ない項目の取扱いについてどう考えるか。
・在宅復帰率について、例えば、自宅への退棟を在宅復帰率が要件となっている病棟への退棟よりも高く評価するなど、より実態に即した算出方法についてどう考えるか。