全日病ニュース

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今回の推計は目標値ではない。目標病床数は調整会議で決めるもの

【寄稿地域医療構想策定ガイドラインと「専門調査会第1次報告」について】

今回の推計は目標値ではない。目標病床数は調整会議で決めるもの

各構想区域の病床数合計は152~115万床の間が妥当。実際は135~115万床の間か

「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」会長代理 産業医科大学医学部公衆衛生学教室教授 松田晋哉

1. はじめに
 平成27(2015)年6月15日に内閣府の「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」が公表した第一次報告「医療機能別病床数の推計及び地域医療構想の策定に当たって」(以下、専門調査会報告)が公開された。ここに示された数字をめぐって様々な議論や憶測が行われている。
 図1は2025年の医療機能別必要病床数の推計結果を示したものである。ここでは機能分化をしないまま高齢化を織り込んだ場合の必要病床数が152万床程度になることが示されたうえで、下記のような仮定で推計した結果として必要病床数が115~119万床になり、介護施設や在宅医療で対応する患者数として29.7~33.7万人が提示されている。
 また、図2に示したように都道府県間で大きな違いがある。東京や千葉、神奈川、埼玉といった首都圏と大阪では病床数が現在より不足すると推計される一方で、西日本地区の多くで現在よりも少ない病床数が推計されている。
 新聞紙面では「削減目標」というような表現が用いられているが、この数字は一定の仮定をおいた推計値であり、病床数の「目標」はあくまで各地域の傷病構造と条件を踏まえたうえで、各地域医療構想調整会議(以下、調整会議)で決定されるべきものであろう。
 本稿では「地域医療構想策定ガイドライン」及び「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会第1次報告」の2つの委員会に携わった立場から、その内容について筆者の私見を述べてみたい。

図1 2025年の医療機能別必要病床数の推計結果(全国集計値)

図2 2025年の医療機能別必要病床数の推計結果(都道府県別・医療機関所在地別)

2.推計に用いた仮説
 今回の検討に際しては、地域医療構想策定ガイドライン検討委員会等から人口構成や傷病構造の地域差を踏まえたうえで推計を行うことを求められた。
 そこで、一般病床レセプトについては高度急性期、急性期、回復期、慢性期をDPCに展開して推計を行うこととした。その上で、上記4区分をどのように定義するかを筆者らの研究班内で検討した。
 図3に示したような分析を個々のDPCごとに行った結果、資源投入量が落ち着くまでを急性期、落ち着いてから退院準備ができるまでを回復期とした上で、急性期についてはICU、HCU、無菌室の利用頻度に着目して高度急性期を分離するという考え方を採用することとした。
 それぞれの区分点をC1、C2、C3とした上で、その推計値を幅を持ってガイドライン検討委員会に提示し、その議論を踏まえて区分点に相当する出来高換算コストを決定した(表1)。なお、出来高換算コストの算出にあたっては入院基本料と急性期以外のリハビリテーションについては計算範囲から除外している。
 専門調査会推計において採用された仮説は以下の通りである。
◎一般病床のレセプトについては高度急性期と急性期を区分する1日あたり出来高換算点数(以下点数)を3,000点、急性期と回復期とを区分する点数を600点、回復期と慢性期とを区分する点数を225点(175点)として、DPC別にそれぞれに対応する患者数を推計(各病床機能別の平均在院日数はDPCごとに実際の値を使用)。非DPCの一般病床レセプトについてはNDBデータを患者ごとにつないで1入院データとしてDPCでコーディング。
◎回復期リハビリテーションレセプトについては回復期病床として推計
◎療養病床入院患者については、医療区分1の70%は在宅で対応可能と仮定し残りを慢性期病床として推計
◎障害病床は慢性期として推計
◎一般病床の入院については1日あたり点数が175点未満の者は在宅で対応可能と仮定
◎療養病床の性年齢調整後の受療率の地域間格差を縮小(図4)
・パターンAは都道府県別療養病床受療率が最低の山形県(人口10万対81)を基準として、これより高い二次医療圏については2025年にすべて山形県と同じ受療率になるとして病床数を推計
・パターンBは2025年に都道府県別療養病床受療率が最高の高知県(334)を中央値の滋賀県(144)にする比率で、山形県よりも受療率の高い二次医療圏の受療率を縮小するとして病床数を推計
・パターンCはパターンBで達成年度を2030年にした場合の病床数を推計
◎病床利用率を高度急性期75%、急性期78%、回復期90%、慢性期92%と設定
 以上の仮定は厚生労働省医政局が設置した「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」で議論されて決定されたものであり、筆者らの研究班はそれを受けて病床数を推計するロジックを開発して厚生労働省に提供している(ロジックを用いた最終的な推計は厚生労働省内部で実施)。
 図5、図6、図7に病床推計の概要をまとめた。DPC別・病床機能別・性年齢階級別・患者住所地別・医療機関住所地別受療率(1日あたり、生保・労災・自賠責等についても補正)を案出した上で、社会保障人口問題研究所の将来人口推計を掛け合わせることで各年度の病床機能別病床数を推計するロジックを採用した。

図3 C1、C2、C3設定の基本となった医療資源投入量(中央値)の推移の分析結果(入院患者数上位255のDPCの推移を重ね合わせたもの)

表1 医療需要推計にあたっての境界点の考え方

図4 療養病床の都道府県格差の是正