全日病ニュース

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「転換の妨げとならない診療報酬の設定が必要」

【第57回全日本病院学会】

「転換の妨げとならない診療報酬の設定が必要」

特別講演「今後の医療提供体制」から 二川一男厚生労働省医政局長(当時)

 厚生労働省としても、医療費を際限なく伸ばせるわけではないが、一方で、必要な医療は提供していかなければならないという立場。そのためには、医療者自らが効率よく医療を提供する体制を構築しなければならない。その体制を整えるのが地域医療構想である。
 医療は各医療機関の中で完結できるものではない。隣の医療機関と協調しつつ、お互いの役割分担をよく話し合って、医療サービスを効率よく提供していく必要がある。必要な医療は提供するが、無駄な医療はしない、そういう体制が各地域で必要ではないかと考える。
 こうした計画は、普通は、県が策定したことを受けて、各医療機関が「さてどうしようか」と考え始めるという流れかもしれないが、地域医療構想に関しては、県の策定を待つのではなく、早目早目に協議を始めてもらってはどうかと思っている。
 そうした協議を通じた機能選択の方向性を前提に、各医療機関には、医師、看護師、その他医療職種の配置等を考えていただくことになる。このように、競争するのではなく、協議をして、協調していってほしいというのが、地域医療構想の趣旨である。
 今年6月に2025年の医療需要と病床必要量の推計値が公表された。このうち慢性期の病床については、必要量から導くというよりは、地域差の縮小を踏まえて推計している。
 しかし、これで国民の医療ニーズを満たせるわけではなく、「在宅医療等」で追加的に対応する患者が30万人前後あると推計されている。「在宅医療」ではなく「在宅医療等」ということだが、この部分をどのようにやっていくかというのが課題だと思っている。
 この点については、現在、検討会で議論をしていただいており、年内ぐらいには選択肢を出してもらい、その後、制度化へ向けて、どれを具体化する必要があるのか議論をしてもらう予定。
 昨年の病床機能報告をみると、回復期の病院・病棟がもう少し必要ということが分かる。それに向けては、ハード面の整備も新たに必要になるが、この点は補助金を用意している。
 また、転換に当たっては、その妨げとならない診療報酬の設定が必要になる。医政局としては、保険局・中医協にそうした面の支援をお願いしていかなければならない。
 また、病床のタイプが切りかわっていくと、必要な医師数・看護師数が違ってくる。したがって、医療従事者の需給見通しも見直していかなければならない。
 医師については偏在の解消に努めなければならないが、全体の養成数をどうしていくかという問題もある。現在の医学部定員は18歳人口に対して130人に1人、もう少しで90人に1人になるので、そこまで必要かどうかという議論になることだろう。同様に、看護師についての検討も始めていこうと考えている。(編集部注/本講演は9月12日に行なわれたもので、二川医政局長は10月1日付で厚生労働事務次官に就任している)

医業経営・税制委員会企画「地域医療構想について」から

「この10月の病床機能報告では回復期の定義に留意してほしい」

□佐々木昌弘厚労省医師確保等地域医療対策室長の講演(「地域医療構想について」)から

 地域医療構想に対する関心は大変に高いのは喜ばしいことで、自らどう動いていくべきなのかという点で関心が高いようだ。こうした中で、国は次の一手を考えている。具体的には、7月に病床機能報告の検討を再開するとともに療養病床のあり方等に関する検討会を設置した。また、医療人材についても今後検討会を設置する。
 地域医療構想は一面でデータの塊といえる。このデータは、自分の病院をどうイノベーション、またはリノベーションしていくのかを考える道具である。
 地域医療構想を考える上で高齢化の地域差が重要な鍵を握る。高齢者の動線、動ける距離を考えると、その地域の実情に応じた医療提供体制を、自分の病院と地域でイノベーション、リノベーションしていく必要がある。
 ここには、各都道府県や構想区域のベースとなる2次医療圏に共通の方法はあり得ない。47とおりの、344とおりの取り組みが生まれてしかるべきである。ただし、目指していく姿を共有していくためには共通の指標が必要になるため、必要病床数に関する計算式とバックデータを用意した。
 大切なことは必要病床数を定めたとして、そこからどうしていくのかである。
 地域の中でのポジショニングを考え、それを地域の中で議論していき、地域の実情に応じた形での医療提供体制を、自分の病院そして地域でイノベーション・リノベーションしていく。
 そこにこそ意味があるので、数字合わせには何の意味もないと考える。
 いわゆる団塊の世代が後期高齢者になってから患者数も増えていく時代に備え10年かけて取り組んでいくのが地域医療構想である。
 こうした中、各都道府県による策定が完了するのは来年度半ばまでが目安かと思っている。
 療養病床については介護療養型の法律上の期限は平成29年度までだが、医療法における療養病床25対1の特例も29年度までである。したがって、スケジュールを逆算的すると、平成29年の1月から始まる国会の中で、制度改正をする場合は、審議していただくことになる。
 ところで、今年の病床機能報告についてお願いしたいことがある。それは回復期のことである。
 回復期は急性期を経過した患者さんへの在宅期、退院に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能であり、その事例として回復期リハをあげているが、リハビリを行なっていなくても、急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療は回復期に当てはまるということを明記させていただいた。このことを各病院で共有していただきたい。