全日病ニュース

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机上の構想となる可能性。医療費抑制なら高機能病床を削減

【地域医療構想】

机上の構想となる可能性。医療費抑制なら高機能病床を削減

□池上直己慶応義塾大学名誉教授の講演から

 地域医療構想については、病床機能区分によって果たして病床が再編できるかということが第一の課題となる。病床機能区分の名称と機能は必ずしも一致しておらず、患者が病棟の機能区分にもとづいて入院先を選ぶことはないと思う。
 これによって病床の区分変更(転換)と削減は実現するかというと、区分の変更については、各区分の境界点は目安にすぎないとされている上、1つの病棟に異なる区分の混在も認められるので、調整会議で区分変更を求める根拠は乏しい。
 一方、病床の削減については病院に既得権があるので、特に民間病院に対する知事の対応には限界がある。特に慢性期病床では休眠病床の可能性も低く、この点からも削減は難しい。
 各病院は境界点をクリアし、より高い機能の病棟になるために、より濃密な医療を提供する可能性がある。人口減で医療需要が減少しても、入院患者は減少しない可能性がある。
 次に慢性期病床であるが、療養病床の多い区域の病床を減らせば医療費が適正化されるとの結論だが、療養病床の1日当たり医療費は低いので、効果は限定的である。療養病床が減っても介護施設費・居宅費及びサ高住入居者の生活保護費は増加する。
 そもそも2005年にも、同じ理由つまり地域格差が大きいという理由で削減を目指し、診療報酬に慢性期包括評価を導入したが、療養病床は減少しなかった。
 次に基金の財源で再構築できるかという課題であるが、再構築に要する財源としては不十分であり、効果には限界がある。
 診療報酬との関係をみると、病床機能区分の機能と診療報酬の規定は一致していない。地域包括ケア病棟は急性期、回復期、慢性期のいずれも可能であり、DPCの医療機関係数は病院単位であり、病棟単位ではない。地域医療構想では地域の独自性が強調されているが、診療報酬は全国一律が大原則である。
 以上から、地域医療構想は国のGLとデータに従って機械的に策定され、現場の反対で頓挫して、机上の構想に終わるのではないかと予測する。
 特に問題は、病床が不足する東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、沖縄の6都府県に対する対応はどうするのかということである。
 増床のために基金を交付するのか、その際に、各構想区域に病床4区分ごとの必要量の充足を求めるのかということである。例えば、都心の医療圏に回復期病床の整備をするのか、これまでの医療計画との整合性はどうするのか、基準病床数が充足している場合に必要病床数ではどう対応するのか、ということがある。
 私の代替案は高機能病院・病床の削減である。医療費を抑制したいのであれば、入院単価の高い高機能病院の病床を削減したほうが効果的である。介護費や生活保護費への費用の移転もないので、社会保障費全体の抑制にもつながる。
 こうした高機能病院は公的助成を受けているので、知事は命令できる立場にある。もちろんこれは構想区域ではなく、県単位で対応する必要がある。

□地域医療構想策定の状況― 地域からの報告

●鹿児島支部(鉾之原大助市比野記念病院理事長)
 鹿児島県は、専門調査会による2025年の推計で3万600床から1万700床削減されるとされた。削減率は全国でもっとも高い。平成22年度の国勢調査では高齢者単身世帯の割合が全国1位、高齢者夫婦世帯の割合が全国3位であるなど、歴史的経緯も含め、病床が多い事情は色々ある。県知事の医療難民は出さないという考えのもとで、療養病床削減には慎重に対応してきた。
 県は地域医療構想検討委員会を今年7月に設置し、来年8月とりまとめの日程で策定を進めている。しかし、今年4月に県保健福祉部長が代わったことで情勢は大きく変わった。
 検討委員会への住民代表の参加は拒否され、昨年度、県医師会長が委員長に就任することについて合意していたにも関わらず、部長自ら委員長に就任するという提案が出された(最終的には、県医師会長が委員長に就任することが承認された)。また、二次医療圏ごとに開催する会議を「検討会」から「懇話会」と改称、郡市医師会長ではなく、地域振興局の部長を議長に据えた。
 同じ県知事の下で状況はここまで変化した。県の対応の変化の背景には国保の都道府県への移管が影響しているのだろうか。今、我々は県議会の理解を得ようと努力している。
●北海道支部(中村博彦中村記念病院理事長・院長)
 地域医療構想は全道の病院を代表して北海道病院協会が道との調整にあたっている。組織率70%を超える病院協会は、全日病北海道支部が理事長ほか主要な役員についている。
 病院協会は医療政策委員会が中心となって道との話し合いを行なうとともに、会員に対する情報の発信、基金の調整、各地の調整会議に病院協会役員を参加させる働きかけなどを展開している。
 北海道の地域医療構想策定にあたっては、構想区域間の医療提供体制の役割分担、広域性による地域格差、医師の偏在と不足、中小自治体病院の存在などの課題がある。
 国と道はデータをもって将来の方向性を示しているが、我々医療提供側も根拠となるデータを示して、ともに道の課題を克服する方向で議論をしていきたい。(編集部注/地域医療構想策定に関する北海道の状況は8面の北海道支部報告を参照)
●猪口雄二座長(全日病副会長)
 鹿児島と北海道で、医療提供体制も構想策定の状況も対照的である。もはや1つのルールで全国を律することはできない。それぞれの地域で関係者が知恵を絞って地域事情に対応した提供体制を構築していかなければならないということではないか。
 最後に1点、佐々木室長にうかがいたい。地域医療構想として今回2次医療圏ごとの必要病床数が示されたが、医療計画には2次医療圏ごとに基準病床数がある。両者はいつごろ一体化されるのか。それとも一体化されないのか。
●佐々木室長
 両者は法律の条文上の根拠が異なるので、一体化するには法改正が必要になる。整合性を図るためには、17年度からの第7次医療計画策定の前の16年度に策定する医療計画作成指針で法改正に向けた方針を示すということになるだろう。