全日病ニュース

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枠組を変える地域医療構想。地域ごとの特性を踏まえた議論が必要

【石井孝宜氏の特別講演】

枠組を変える地域医療構想。地域ごとの特性を踏まえた議論が必要

【第57回全日本病院学会in 北海道】
量的抑制機能を発揮した14年度改定。高コストの急性期病院を直撃。次は療養病床と外来

 「診療報酬のリバウンドと医療政策のパラダイムシフト~財務の視点からふたつの変化を考える~」と題した特別講演で、石井孝宜氏(石井公認会計士事務所所長=写真)は、冒頭で、病床規模が大きな公的病院等の決算の推移を紹介。2010年度、12年度、14年度の診療報酬改定を経る中、単価と収入は増加をたどりながらも、14年度の損益は10年度に比べて大きく落ち込んでいる事実を明らかにした。
 同氏によると、病院経営にもっとも大きな影響を与えたのは「急性期病床の位置づけを明確にして医療資源の集中投入による機能強化」を図った14年度改定であった。
 とくに、7対1の病院は、その新たな施設基準を満たすために入院患者構成の変更を行なう一方で平均在院日数の維持・短縮化に努めた結果、病床利用率の低下が避けられなかったと説明。
 その上で、「患者の回転が悪化するのにコストが変化しなければ病院経営の赤字化は必至」と指摘。そのコストが大幅に増えていると注意を喚起した。
 そして、「2008年を大底とした医療費の大抑制時代を、予算を使わないように我慢を重ね、様々なコストを抑えて耐えてきたが、10年と12年の改定で利益が出てきたということで、人、モノ、情報にそれなりの予算をつけるようになった」と背景を概括。
 「病院経営は固定費が大きい。規模が大きい病院ほどコストを下げることはきわめて難しい」と説明した。
 この14年度改定について、石井氏は「改定をとおして診療報酬が極めて強く量的抑制機能を果たし始めた」との認識を披露し、「14年の4月以降、とてつもないどんでん返しが起きている」と、とくに急性期系の病院は「診療報酬のリバウンド」に留意する必要がある、と警告した。
 その一方、「特定領域に特化した計画入院型の外科病院や病床区分を機能実態に適合させた病院、そして、前回改定の中心テーマである急性期病床の位置づけの明確化から外れた100床未満の一般病院や、主に急性期以外の領域を担っている病院群と精神科は余り影響を受けていない」と総括した。
 他方、講演の後段は、内閣府専門調査会による2025年の医療機能別必要病床推定値が意味するところを示し、急性期病院に限らずすべての病院に影響が免れない「医療政策のパラダイムシフト」(枠組みの変化)が始まっていると述べ、警鐘を鳴らした。
 まず、推定値から、三重県、鹿児島県、北海道、東京都をとりあげて分析を加えた。
 そのうち、人口も増えず高齢化はほぼ終わってきている鹿児島県は、既存病床数に対して全体で-31.9%、急性期病床は-58%になるとされたが、「高度急性期は減らなくて済む」こと、今後も人口が増え高齢化が進む東京都は高度急性期は半減するが、回復期を中心に病床全体は大幅に増加すること、人口が減る一方で高齢化が進む北海道は、全体の増減率は全国平均とほぼ一緒で、高度急性期はほとんど変わらないものの、急性期病床の大幅な減少が推定されていることなどを解説。
 「県によって随分と状況が違うし、同じ県でも2次医療圏によって全然違う」とし、「それぞれの地域が、それぞれの地域の意識としてきちんと認識をしながら、対応していかざるを得ない」との所見を明らかにした。
 では、推計値の基となったデータからなにを導くのか。石井氏は、現在の全体充足状況(入院、入所、その他定員の全体数の全国対比)、今後の高齢化、病床機能のバランスの変化、病院の構成と分布の4点を視点にデータの整理・分析をしていく必要があるとし、以下のような認識を披露した。
 (1)現時点で全体充足状況が多い地域は2025年に病床は減っていく可能性がある。
 (2)現時点で高齢化がある程度進んでいる地域も、今後病床数が減っていくと思われる。
 (3)現在の機能別病床数の構成と今後の高齢化に伴う病床機能の変化もみていく必要がある。
 (4)地域における病院の構成と分布状況。例えば大病院が多くて寡占状態なのか、中小病院の群雄割拠分布なのかということによっても予測が違ってくる。
 その際、「構想区域の特性によって議論すべき問題の所在がまったく変わってくる。そのことを当事者がしっかり認識した上で、議論を始めなければならない」と注意を喚起した。
 石井氏は、また、「急性期にかかわる議論はおおむね終わったというのが政府の認識だ。次の課題は療養病床であり、その進め方は入院受療率を前面に押し出した地域差の是正である。それだけでなく、そろそろ外来医療費にも手をつける」との認識を表わし、「病院の世界に大変動が起こりつつある」と警鐘を鳴らした。