全日病ニュース

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最大の課題は大学病院、公的病院、高度医療民間病院が集中する札幌圏

報告地域医療構想と支部の取り組み(3) 北海道支部

【□北海道における「地域医療構想」策定作業の進捗状況】

最大の課題は大学病院、公的病院、高度医療民間病院が集中する札幌圏

道・医師会・病院協会が緊密に協議。既に21のうちの16圏域で調整会議を開催

1. 北海道における医療提供体制再構築に関する取り組み

 北海道では、10年ほど前から、広域医療・医師看護師などパラメディカルを含めた医療従事者の著明な偏在・大幅な集約化連携の遅れなど、山積する医療提供体制の課題に関して徐々に議論が深まってきていた。
 このような中、平成21年度地域医療再生基金配分の際に、電子レセプト情報等データベース整備事業(国保レセプト情報の分析による診療実態分析)がおこなわれ、「データに基づいた提供体制の議論」が始まり、平成25年12月より北海道保健福祉部と北海道医師会、北海道病院協会(組織率71%。全日病会員はほぼ加入)、研究者等による「地域医療に関する勉強会」(期間:地域医療ビジョン策定まで)が、平成26年4月には保健福祉部に組織横断的な「地域医療推進局」が設置され、この課題に関する行政の強い意思が示された。
 さらに、道は政策大学院大学に保健福祉部職員を継続的に派遣し、医療介護福祉政策ならびにデータにもとづく情報分析を学ばせることをここ4年にわたって進めており、合同勉強会に提出する資料は客観的なデータで埋められるものに変化して来ていた。
 議論をする医療提供者側もデータを見ながらの意見陳述なので、それまでの抽象的な議論はなくなって具体的提案がなされるようになり、会議の質も向上した。

2.「地域医療構想」策定作業の進捗状況

 平成27年1月、北海道総合保健医療協議会(総医協)地域医療専門委員会(医育機関・医師会・北海道病院協会・歯科医師会・薬剤師会・看護協会等)において、道ははじめて以下の項目に関する策定議論の方向性を提示した。
(1)地域医療構想の策定単位について
(2)「全道での議論」と「地域での議論」の順番・流れについて
(3)策定時における地域での議論について4月には平成27年度第1回総医協地域医療専門委員会が開催され、その場に、道から具体的な「地域医療構想」策定の方針が示された。
 そして、7月の第2回委員会で、あらためて「地域医療構想策定について-地域医療構想策定方針、構成、調整事項、スケジュール、国からの提供データ、専門調査会報告、厚労省通知、必要病床数推計」の提示があり、本格的議論が開始された。
 議論の結果、①各圏域での調整会議開催前に全道レベルでの議論を専門委員会で行うこと、②厚労省から開示される検討に資する基礎データを確認後に再協議すべしとの結論となり、提案スケジュールを1ヶ月ほど先送りすることとなった。
 各調整会議を再開する前に全道レベルでの議論を行なうというのは、北海道には2次医療圏21あるものの、その1つにすぎない札幌圏に人口の約1/2が集中し、その他に10~30万人の中核都市を持つ圏域が9つある一方、全体でも人口3~5万人で高度急性期・急性期医療が成立していない圏域もあることから、あらかじめ隣接圏域合同の会議をもつべき地域もあり、事前調整が必要となるためである。
 これまで、専門委員会では、当然のことながら、医育機関、医師会、病院協会代表のみによって議論されてきた。
 加えて、北海道では、各構想圏の状況は人口や医療提供体制などの面で大きな差異がある。こうしたことから、8月末に、道と医療提供者側代表のみによる「地域医療構想に関する懇談会」が開催された。
 懇談会では、地域医療推進局地域医療課が作成したデータ集(道が保有するデータとして市町村毎推計必要病床数や疾病別データ。厚労省から提供された、地域医療構想策定支援ツールと医療計画作成支援ツール、病床機能報告制度の平成26年度集計結果、2次医療圏別医療機能別病床数推計)を参考に、各構想医療圏における調整会議の立ち上げと、その際専門委員会から全道共通事項・特定地域における事項に関する留意点や議論すべき点などについて活発な議論が展開された。
 その結果、今後、各構想圏調整会議における議論内容を確認しつつ、専門委員会での議論を適時開催するということになった。
 現時点での策定スケジュールは表の通りで進行している。

3.「地域医療構想」策定における課題

 北海道では、厚労省から地域医療推進局に出向中の地域医療課長が大変積極的であった。
 平成26年からこれまでに、全道に14ある(総合)振興局(広域に対応するため北海道の行政区画単位に道庁の出先機関として設置)に出向き、各圏域ですでに計47回もの説明会を行うとともに、各圏域で独自の医療介護福祉連携や街づくりを行っている市町村でのヒアリングを先頭に立って行った。
 そして、これらも踏まえた具体的な提案をポイントとしてまとめ、「いよいよ始まる地域医療構想(ビジョン)策定作業」として、各種講演会で積極的に発信している。
 その内容は以下のとおりである。
ポイント①
○地域医療構想は、「地域における2025年の必要病床数」と「その実現に向けた施策」から成り立っており、当該地域における将来の医療提供体制の「形」「枠」を定めるもの。
 個別医療機関の具体的な役割は、構想策定後地域医療構想調整会議で議論
○地域医療構想は、策定して終わりではなく、構想が現実のものとなるよう、2025年、さらにはその先に向けて関係者が継続して取り組んでいくための中長期的な枠組み
ポイント②
○地域医療構想策定を急ぐ必要はないが、策定が遅くなった場合、新基金(地域医療介護総合確保基金)の道への分配に影響がでる恐れに留意
(参考)厚労省は、「地域医療構想の達成に向けた医療機関の施設又は設備の整備に関する事業」に重点化して配分していく方針を提示。
○現時点では、地域での議論の時間を十分とるため、平成27年度中から平成28年度の早い時期での策定を目指す
ポイント③
○慢性期の患者の一部について、「在宅等」で対応することが可能と想定しているが、いわゆる純粋な在宅だけではなく、早めの住み替えによるサ高住や、「等」に含まれている特養における受け止めも想定している。
 特に北海道においては、あらゆる地域で在宅医療を推進することは現実的ではないことから、このような病床と在宅との中間的な受け入れがポイントとなる。
ポイント④
○ガイドラインは参考であるが、将来の医療需要の推計方法や必要病床数の算定方法は厚生労働省の省令で決まっているため、必要病床数は、国が提供するデータに基づき、一定程度機械的に算定する必要がある。
○算定された必要病床数を踏まえつつ、二次医療圏を越える患者の流出入の推計の分析や疾患別の動向の分析等を詳細に行っていく必要がある。
ポイント⑤
○「なぜ、構想をつくるのか」「何を目的にするのか」の確認が必要。
・単に各地域において必要な病床数を決めることにとどまらず、将来にわたって地域における医療を確保し、医療・介護サービスを切れ目なく受けられる体制としていくための検討
・関係者間で目標を可視化・共有し、足りない医療機能の補充や共倒れの防止を協議
ポイント⑥
○分野横断的な検討の必要性
・高齢化に伴い慢性期疾患が増加し、医療のあり方が「生活を支える医療」に転換していくことが求められていることなど、医療を取り巻く環境の変化を踏まえ、介護や生活支援施策との一体的な検討のみならず、住宅や交通、さらには、まちづくりや地域活性化等の分野も含め、分野横断的で幅広い観点からの検討が必要
ポイント⑦
○構想を実効性のあるものにするにはどうしたらよいのか。
・「医療機関の自主的な取組」「医療機関間の話し合い」と、「地域医療介護総合確保基金による支援」が基本的な枠組み
・強化された知事の権限への誤解と限界の周知
・基本的には、「経営を左右する重要事項だからこそ、医療機関自身で判断していただく」行政は「話し合いの場を提供するとともに、客観的なデータを提供する」もちろん、「一緒に考える」
・医師、看護師等の医療従事者確保対策が構想実現に必須
取組が進まない場合にどうなるか…を考える
 現時点で、調整会議が開催されたのは16圏域であり、今後1~2ヶ月以内に全道で実施されるが、最大の懸念は、2医育大学病院や公的病院が集中する上、高度医療を行う民間専門病院も多い札幌圏である。