全日病ニュース

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医療等番号の制度設計へ議論を再開。年末までに結論

医療等番号の制度設計へ議論を再開。年末までに結論

【医療等番号制度】
厚労省 既存NWのIDと併存する番号を支払基金と国保中央会が発行する案を提示

 厚生労働省内に設置された「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」は9月30日に9ヵ月ぶりの会合をもち、医療等番号制度に関する議論を再開した。
 また、同研究会を主催する政策統括官付情報政策担当参事官室は10月2日の「社保審医療保険部会」(写真)に、医療等番号制度に関する議論の現状と今後の検討の方向性を報告した。
 マイナンバー制度(個人番号制度)は、この10月から国民に対する12桁からなる個人番号の通知が始まり、2016年1月からは行政事務等における個人番号の利用がスタートするとともに、申請した国民に対する個人番号カードの交付が開始される。
 マイナンバー制度は、行政機関等が保有する情報を情報連携の対象とし、社会保障・税・災害対策の分野で利用するというもので、番号法で、医療・介護等に関しては「保険料徴収等の医療保険者の手続」等に利用するとされている。
 マイナンバー制度の工程では、17年7月をめどに地方公共団体と医療保険者等による情報連携が開始されるため、マイナンバーを使った医療機関における被保険者資格のオンライン確認も可能になる。
 こうしたことを踏まえ、政府部内には、患者情報の蓄積・研究等の視点からマイナンバー制度のインフラを活用した医療番号制の導入を求める意見が強く、安倍首相にいたっては健康保険証を含む公共サービスのカードを1枚に統合する旨を求める発言をしている。
 これは、マイナンバー制度の個人番号カードに保険証の機能を合体させることになり、個人番号が患者の診療・健診等情報と紐づけられる可能性が生まれる。
 個人番号制度の検討の初期段階では、医療情報は機微性が高いということから、医療分野はマイナンバーとは別の番号とする整理とされていた。
 こうした経緯も踏まえ、医療等番号の導入について検討してきた「医療等分野における番号制度の活用に関する研究会」は、中間報告(14年12月)で以下の考え方をまとめた。
①医療等の連携や健康・医療の研究等には医療等分野の番号を用いた情報連携が必要。
②行政機関と保険者は資格情報等をマイナンバーで管理するが、医療等で用いる番号はマイナンバーとは別に生成し、利用を希望する者が使う仕組みとする必要がある。
③その際、漏えいを防ぐために、電磁的な符号(見えない番号)を用いることが望ましい。
④医療保険のオンライン資格確認は資格情報とマイナンバーを紐づける個人番号制度のインフラを活用する方向で協議するが、個人番号カードを使う場合はマイナンバーが視認されない仕組みを検討する。
⑤医療等分野の情報連携に用いる番号のあり方は、オンライン資格確認で実現されるインフラの活用を含め、個人情報保護を含めた安全性と効率性・利便性の両面が確保された仕組みを検討する。
 つまり、医療等の連携と研究のためには、各情報システムを超えて使える何らかの番号が必要であるが、マイナンバーとは別の電磁的符号を検討してはどうか。個人番号カードを用いて資格確認を行なう場合には、ICチップをカードリーダーで読み取るとともにカード面に12桁の個人番号が印字されないような工夫を加えてはどうか、というわけだ。
 番号の“見えない化”は書面への書き取りや人を介在した漏えいを防止するためであるが、研究会には、「災害時に役に立つか」と疑問視する声もある。
 日本医師会がこの7月に公表した「医療分野等ID導入に関する検討委員会中間とりまとめ」もマイナンバーの医療等分野での活用を否定。その上で、「医療等IDは利用目的別に個人に複数付与する」と踏み込んだ考えを打ち出し、「全国で利用可能な安全・安心な医療分野等専用の番号(符号)と制度の確立が急務」と提起した。

個人番号 医療番号研究会と医療保険部会に普及への悲観論

 「日本再興戦略改訂2015」は「マイナンバー制度のインフラを活用して医療等分野に番号制度を導入する」とし、「18年から段階的運用開始、20年までに本格運用」する方針を打ち出し、厚労省に「医療等分野における番号の具体的制度設計や固有の番号が付された個人情報の取扱いルールを検討、本年末までに一定の結論を得る」ことを課した。
 一方、9月3日の国会で番号法・個人情報保護法改正法案成立、9月9日に公布され、特定健診・保健指導の事務と予防接種事務における接種履歴の連携等がマイナンバーの活用範囲に含まれた。
 「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」は、こうした情勢を踏まえて、制度設計に向けた第2ラウンドの議論をスタートさせた。
 この日、事務局(政策統括官付情報政策担当参事官室)は「切れ目ない医療等サービスを提供するために、医療等番号を使う場合に既存の医療ネットワークで用いられている様々な番号・符号を引き続き利用できる仕組みとしてはどうか」と提起した。
 全国に約200ある医療情報のネットワークはそれぞれの番号(ID)をもっている。それらのネットワーク間で患者情報を共有する場合に、データを突合させるツールとして共通のIDが必要になる。
 事務局は、住民票と1対1で対応しているため、被保険者が保険者を移動しても重複することなく識別できる機関別符号(個人番号カードの電子証明書と1対1で対応)を審査支払機関がもっていることから、それと医療等番号を1対1で対応させるために支払基金と国保中央会が番号の発行・管理機関となるとともに、その医療等番号を各ネットワークの管理用識別子と1対1で対応させることを提案。
 これによって各ネットワークのIDはそのままにして、共通の番号がつくれると説明。同様に、この医療等番号を各医療機関の機関別符号と1対1で対応させれば、各施設等で用いられている患者IDも引き続き利用することが可能とした。
 この方法は公的個人認証の仕組みを活用して行なうオンライン資格確認の方法(医療機関等は個人番号カードから電子証明書を読み取り、資格確認サービス機関に資格情報の照会・確認を行なう)の応用・変形である。
 したがって、医療機関等が個人番号カードでオンライン資格確認をした際に、支払基金・国保中央会が当該医療機関等に本人を識別できる識別子を提供する仕組みとなる。
 このオンライン資格確認にあたって個人番号の“見えない化”を検討するというのが厚労省のシナリオである。このシナリオのために、今国会で成立した国保法等一部改正法案で各保険者による事務の支払基金・国保連への共同委託を法的に可能としている。
 10月2日の医療保険部会でオンライン資格確認と医療等番号に関する検討状況を報告した担当官は、18年にかけてオンライン資格確認のネットワークを構築、以後、その段階的な導入を目指すとし、18年から20年までの間に医療連携や研究分野における番号の活用を実施していくスケジュールを展望した。
 この報告の中で「保険者が個人番号カードを被保険者証として認証する仕組みとした場合、被保険者証の提示は要しない仕組みにできる」と指摘、マイナンバーをベースに医療等番号の制度設計を考えていることを示唆した。
 ただし、9月30日の研究会では多くのメンバーが、希望制であるマイナンバーのカード(個人番号カード)がいつまでにどのくらい普及するかがまったく読めない状況で、個人番号カードと表裏一体に医療等番号の展開を考えることに疑問を表わす意見が相次いだ。
 10月2日の医療保険部会でも、保険者の委員から「保険者としてマイナンバーの活用にメリットを感じていない。個人番号カードにしても、本人が申請の上役所に出向くというのでは(普及が)難しいのではないか」と、先行きを不安視する声があがった。