全日病ニュース

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厚労省「医療機能の分化・連携と地域包括ケアシステムの推進」を重点課題に

厚労省「医療機能の分化・連携と地域包括ケアシステムの推進」を重点課題に

【医療部会・医療保険部会16年度改定基本方針の議論】
主治医とかかりつけ医、早期退院めぐり、保険者と医療系で認識の乖離

 2016年度診療報酬改定基本方針の検討を進める社会保障審議会は、医療部会、医療保険部会とも、厚労省が提示した草稿(要旨を別掲)にもとづいて実質2回目の議論を終えた。厚労省は11月半ばに3回目の議論を行ない、とりまとめたいとしている。
 草稿で、厚労省は、基本認識として「超高齢社会における医療政策の基本方向」「地域包括ケアシステムと効率的で質の高い医療提供体制の構築」「経済・財政との調和」を提示。
 さらに、基本的視点に「医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進」「安心・安全で納得できる効率的で質が高い医療の実現」「重点的対応が求められる医療分野の充実化」「効率化・適正化」の4点をあげ、それぞれに「具体的方向性の例」を列挙した。
 その上で、「医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進」を重点課題に位置づけることを提案した。

医療保険部会(10月21日)の議論

 「経済・財政との調和」が基本的視点に位置づけられたことを保険者や経済団体の委員は高く評価。「社会保障費を2018年まで計1.5兆円の増に抑えるという方針はきわめて大切。この文言を基本方針に盛り込んでほしい」(藤井委員=日本商工会議所)という注文も出た。
 基本認識に「費用対効果」が書き込まれたことを踏まえ、「16年度改定での試行的導入を明確に記すべき」との声も上がった。
 一方、地域医療介護総合確保基金への言及が「医療従事者の確保・養成等」のみとなっていることに、保険者からは「基金の活用は機能分化がもっとも重要であり、その旨を明記してほしい」という意見が示された。
 さらに、「具体的方向性に地域包括ケアの推進方策を可能な限り列挙すべきではないか」という注文も出た。
 そうした中で、白川委員(健保連副会長)は「かかりつけ医」を取り上げ、「その概念も含めてよく議論・整理した方がいい。また、“かかりつけ医の評価”と書かれると点数付けととられかねない。書き直すべきである」と主張した。
 医療側の委員からは、「“かかりつけ医の評価”は“かかりつけ医機能の評価”とされるべきだ。また、第3者評価のインセンティブを検討する旨を加えてほしい。不正が発覚した調剤報酬に関する検証も必要」(松原日医副会長)などの意見が示された他、「回復期リハへのアウトカム評価の導入、医療区分への認知症の追加、療養病床の障害者病棟への参入」など、中医協並みの各論を展開する向きもあった。

医療部会(10月22日)の議論

 「かかりつけ医」をめぐる解釈は、医療保険部会に続いて医療部会でも取り上げられ、保険者の委員は「かかりつけ医と主治医の概念がよく分からない」と疑問を呈した。
 これに、中川委員(日医副会長)は、「主治医は1人に限定すべきとの考えもあるようだが、かかりつけ医は診療科ごとにいてもよく、病院の勤務医がなってもよい。主治医という言葉をかかりつけ医に上書きしてほしい」と説明、かかりつけ医をベースに地域包括ケアシステムを支える地域の医療体制を整備すべきとの認識を表わした。
 さらに、西澤委員(全日病会長)は、「日医と四病協の合同提言(13年8月8日)にかかりつけ医の定義が示されている。医療部会にも報告しており、皆さんの理解が得られていると思う」と発言。かかりつけ医(機能)に関する認識の共有を求めた。
 保険者の委員は「早期の在宅復帰が重要。診療報酬の面からも平均在院日数の短縮など早い退院を促すべき」とも述べ、改定基本方針で重要課題に位置づけるよう求めた。
 この発言に、医療系の委員からは、平均在院日数に偏した効率化の考え方に疑問と反論が相次いだ。その中で、西澤委員は「医療スタッフが多ければ平均在院日数は短縮できる。平均在院日数はひとの問題も含めて議論されなければならない」と指摘、安直な平均在院日数短縮論を戒めた。
 早期退院に関しては、患者団体を代表する委員からは、「病院が退院を強く促すことに患者からは不安感が出ている」と、機械的な早期退院への取り組みに対する疑問が示された。
 他方で、医療側からは、「退院後に在宅で医療が受けられる仕組みができない。地域包括ケアを支える中核となるべきとして地域包括ケア病棟が創設されたが、果たして機能しているか」と疑問を投げかける声もあがった。
 加納委員(医法協会長)は高齢者救急体制の整備が急務と指摘し、具体的方向性にその旨を書き込むよう求めた。
 このほか、医療側からは、災害医療や病棟クラークの精神科病院への配置、調剤報酬見直しなどを具体的方向性に明記すべきなどの意見が示された。
 一方、日看協の委員は、看護師の負担軽減から「看護師人材確保法に基づく国の基本指針に明記された措置(月8回以内の夜勤体制に向けた努力)」を基本方針に盛り込むことを求めた。さらに、具体的方向性に特養に対する訪問看護の拡大を書き込むよう訴えた。
 負担軽減に関しては、医療側からも勤務医の疲弊困憊を憂慮する意見が示され、「当直明け勤務から解放しようとした前改定の措置が現場に周知されていない。もっと工夫をもった手を打ってほしい」との注文がついた。

「医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進」が重点課題

「次期診療報酬改定に向けた基本認識、視点、方向性等について」(要旨)

Ⅰ. 改定に当たっての基本認識
1. 超高齢社会における医療政策の基本方向
 2025年に向けて、あらゆる世代の国民が、状態に応じた安全・安心で質が高く効率的な医療を受けられるようにすることが重要。疾病構造が変化していく中で、「治す医療」から「治し、支える医療」への転換が求められる。医療や介護が必要な状態になっても、できる限り住み慣れた地域で安心して生活を継続し、尊厳をもって人生の最期を迎えることができるようにしていくことが必要。費用対効果等「患者にとっての価値」を考慮した報酬体系を目指していくことが必要。
2. 地域包括ケアシステムと効率的で質の高い医療提供体制の構築
 2025年を見据えた中長期政策の位置づけを踏まえた改定を進めていくことが必要。医療従事者の確保・定着に向けては基金による対応との役割分担を踏まえつつ、医療従事者の負担軽減など診療報酬上の措置を検討していくことが必要。
3. 経済・財政との調和
「骨太方針2015」「日本再興戦略2015」等も踏まえ、無駄の排除や医療資源の効率的配分、イノベーションの評価等を通じた経済成長への貢献にも留意することが必要。
Ⅱ. 改定の基本的視点について
1. 医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムを推進する視点【重点課題】
2. 患者にとって安心・安全で納得できる効率的で質が高い医療を実現する視点
3. 重点的な対応が求められる医療分野を充実する視点
4. 効率化・適正化を通じて制度の持続可能性を高める視点
Ⅲ. 具体的方向性に盛り込むべき事項(考えられる具体的方向性の例)
□視点1
◎医療機能に応じた入院医療の評価
◎チーム医療の推進、勤務環境の改善、業務効率化等を通じた医療従事者の負担軽減・人材確保
・多職種の活用(基金を活用した医療従事者の確保・養成等と並行した取組)
◎地域包括ケアシステム推進のための取組の強化
・診療所等の主治医機能(かかりつけ医機能)の確保
・退院支援、医療介護連携、医・歯・薬連携、栄養指導等の多職種連携による取組の強化
◎質の高い在宅医療・訪問看護の確保
◎医療保険制度改革法も踏まえた外来医療の機能分化
・大病院の専門的な外来機能の確保と勤務医の負担軽減
・診療所等の主治医機能(かかりつけ医機能)の確保(再掲)
□視点2
◎かかりつけ医の評価、かかりつけ歯科医の評価、かかりつけ薬剤師・薬局の評価
◎情報通信技術(ICT)を活用した医療連携や医療に関するデータの収集の推進
◎質の高いリハビリテーションの評価等、疾病からの早期回復の推進
・アウトカムに着目した評価
□視点3
◎緩和ケアを含む質の高いがん医療の評価
◎「認知症施策推進総合戦略」を踏まえた認知症患者への適切な医療の評価
◎地域移行・地域生活支援の充実を含めた質の高い精神医療の評価
◎難病法の施行を踏まえた難病患者への適切な医療の評価
◎救急医療、小児医療、周産期医療の充実
◎口腔疾患の重症化予防・口腔機能低下への対応、生活の質に配慮した歯科医療の推進
◎かかりつけ薬剤師・薬局による薬学管理や在宅医療等への貢献度による評価・適正化
◎医薬品、医療機器、検査等におけるイノベーションの適切な評価
□視点4
◎後発医薬品の使用促進・価格適正化、長期収載品の評価の仕組みの検討
◎退院支援等の取組による早期の在宅復帰の推進
◎残薬や多剤・重複投薬の減少など、医薬品の適正使用を推進するための方策
◎いわゆる門前薬局の評価の見直し
◎重症化予防の取組の推進◎医薬品、医療機器、検査等の市場実勢価格を踏まえた適正な評価