全日病ニュース

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総合診療専門医育成を目指す病院は準備を開始されたい

【総合診療専門研修プログラム整備基準について】

総合診療専門医育成を目指す病院は準備を開始されたい

遅くとも17年1月初旬にはプログラム申請の公募が始まる予定

日本プライマリ・ケア連合学会 理事長 丸山 泉(全日病常任理事)
日本プライマリ・ケア連合学会 副理事長 草場鉄周

 平成25年4月に厚労省「専門医の在り方に関する検討会」の最終報告書が発表され、専門医制度全体の抜本的な改革と併せて「総合診療専門医制度」の設立が明記された。
 その後、26年5月に日本専門医機構が設立され、同機構内に設置された「総合診療専門医に関する委員会」で制度設計への議論が7月より始まり、27年8月にプログラム整備基準が発表された。
 このような経緯で作成された整備基準に示された総合診療専門研修プログラムの概要を、その経緯に関わってきた立場から概説する。

1. 総合診療専門医養成の背景

 専門医の在り方検討会では総合診療専門医養成が必要な理由として4 点挙げられている。
(1)特定の臓器や疾患に限定することなく幅広い視野で患者を診る医師が必要であること。
(2)複数の疾患等の問題を抱える患者にとっては、複数の従来の領域別専門医による診療よりも総合的な診療能力を有する医師による診療の方が適切な場合もあること。
(3)地域では、慢性疾患や心理社会的な問題に継続的なケアを必要としている患者が多いこと。
(4)高齢化に伴い、特定の臓器や疾患を超えた多様な問題を抱える患者が今後も増えること。
 また、総合診療専門医の位置づけについては、「現在、地域の病院や診療所の医師が、かかりつけ医として地域医療を支えている。今後の急速な高齢化等を踏まえると、健康にかかわる問題について適切な初期対応等を行う医師が必要となることから、総合的な診療能力を有する医師の専門性を評価し、新たな専門医の仕組みに位置づけることが適当である」ともされている。
 いずれも、高齢化に伴う多疾患合併患者への適切な医療を担う医師、また心理社会的な要因への対応も含む全人的な医療を提供できる医師に対する喫緊の時代の要請が背景にあることを如実に示している。

2.総合診療専門医制度の理念と専門医の使命

 制度の理念は以下の3点である。
①総合診療専門医の質の向上を図り、以て、国民の健康・福祉に貢献することを第一の目的とする。
②地域で活躍する総合診療専門医が、誇りをもって診療等に従事できる専門医資格とする。特に、これから、総合診療専門医資格の取得を目指す若手医師にとって、夢と希望を与える制度となることを目指す。
③我が国の今後の医療提供体制の構築に資する制度とする。
 他の領域に比べて独自性が強いのは②である。歴史的に臓器別専門医などの既存の専門医に比べて、領域の認知の低かった総合診療医が医師のキャリアとして選ばれにくい状況であったことを踏まえ、本制度がこの分野を志す若手医師に健全なアイデンティティを与えることを目指している。
 また、総合診療専門医は「日常遭遇する疾病と傷害等に対して適切な初期対応と必要に応じた継続的な診療を全人的に提供するとともに、地域のニーズを踏まえた疾病の予防、介護、看とりなど保健・医療・介護・福祉活動に取り組み、絶えざる自己研鑽を重ねながら人々の命と健康に関わる幅広い問題について適切に対応する使命を担う」とされた。
 特に「地域のニーズ」が重要なキーワードである。時代の変化、そして、人口やその構成、医療資源の密度など、地域の医療事情により、地域医療の現場で求められる医療・ケアの在り方は変化するが、それに柔軟に対応し続けることがプライマリ・ケアには求められる。
 このためにも、総合診療専門医が日本の医療の中で、一領域として確立されることへの期待は大きいのである。

3.総合診療専門研修の目標

 専門研修の到達目標は、6つのコアコンピテンシーで網羅された到達目標と5つの経験目標で構成されている(別掲)。
 【人間中心の医療】は、単に生物医学的問題のみではなく、患者自身の健康観や病いの経験、さらには患者を取り巻く家族、地域社会などのコンテクスト(注)を全人的に理解した上で診療・ケアを提供することを重視し、【包括的統合アプローチ】は疾患のごく初期の未分化で多様な訴えに対する適切な臨床推論に基づく診断・治療から、複数の慢性疾患の管理や複雑な健康問題に対する対処、さらには健康増進や予防医療まで、多様な健康問題に対する包括的なアプローチを、継続的な医師・患者関係の文脈で提供することと説明されている。
 また、地域での連携を視野に入れた目標として定義された【連携重視のマネジメント】では、地域の多職種との良好な連携体制の中での適切なリーダーシップの発揮に加えて、医療機関同士あるいは医療・介護サービス間での円滑な切れ目ない連携が明記された。
 また、地域を診る姿勢は【地域志向アプローチ】として全住民を対象とした保健・医療・介護・福祉事業への積極的な参画と同時に、地域ニーズに応じた優先度の高い健康関連問題の積極的な把握と体系的なアプローチによる地域全体の健康向上への貢献とされた。
 これらの4つのコンピテンシーは総合診療専門医の専門性の高さを明確に示しており、一つの専門領域としての確立を裏付けるものと考えて良いだろう。
 また、【公益に資する職業規範】では、専門性の自覚と自己研鑽や教育・学術活動への貢献を強調し、最後の【診療の場の多様性】では、外来のみならず、救急・病棟、更には在宅でも総合診療医の活躍が期待されることを示し、それぞれで求められる対応能力が明記された。
 経験目標は各種の手技や症候、疾患、そして具体的な地域での連携活動や事業が網羅されており、ここでは詳説できないが、日本専門医機構のHP をご確認頂きたい。

4.総合診療専門研修の方法と評価

 研修の方法は「職務を通じた学習(On-the-job training)を基盤とし、診療経験から生じる疑問に対してEBM の方法論に則って文献等を通じた知識の収集と批判的吟味を行うプロセスと、総合診療の様々な理論やモデルを踏まえながら経験そのものを省察して能力向上を図るプロセスを両輪とする」とされた。更に、外来医療ではプリセプティングやビデオレビュー、在宅医療では症例カンファレンス、病棟医療では回診や病棟カンファレンスと現場に応じた教育方法が示されている。
 研修の評価は研修手帳と最良作品型ポートフォリオで実施される。前者には経験目標とその到達度を記録する評価表があり、専攻医と指導医で共にチェックすることが可能となっている。また、定期的な指導医との振り返りの記録も必要である。後者は「学習者がある領域に関して最良の学びを得たり、最高の能力を発揮できた症例・事例に関する経験と省察の記録」とされ、研修手帳でコアコンピテンシーに沿った20項目のポートフォリオテーマが提示されている。
 また、修了判定は全ローテート研修の履修、専攻医自身による自己評価と省察の記録、作成した最良作品型ポートフォリオによる到達目標の達成、研修手帳を通じた経験目標の到達基準の達成にて実施される。

5.研修プログラムの構成と施設要件

 研修プログラムは総合診療専門研修Ⅰ・Ⅱを合計18ヶ月(それぞれを最低6ヶ月ずつ)、内科研修6ヶ月、小児科研修3ヶ月、救急科研修3ヶ月、自由選択研修6ヶ月で構成され、合わせて3年となる。3年間の研修のイメージを「研修プログラム例」として示す(別掲)。
 研修を統括する専門研修基幹施設は総合診療専門研修1 あるいはⅡの実施施設である必要があり(大学病院は除く)、プログラム運営に欠かせないいくつかの基準が設けられているが、いわゆる初期臨床研修病院である必要はなく、地方の小病院や診療所であっても認められる点が重要である。総合診療領域が地域での研修を基盤としていることが、ここに色濃く反映されており、他の専門18領域と大きく異なる。
 各施設の要件は多岐にわたるが、ここでは主たる研修である総合診療専門研修の特徴について以下に示す。
(1)総合診療専門研修Ⅰ
 診療所・中小病院を基盤とした研修であり、以下の診療内容を含み、診療実績として、のべ外来患者数400名以上/月、のべ訪問診療件数20件以上/月が必須。
○外来診療/日常よく遭遇する症候や疾患への対応(外傷も含む)、生活習慣病のコントロール、患者教育、心理社会的問題への対応、高齢者ケア(認知症を含む)、包括ケア、継続ケア、家族志向型ケアにも従事すること。
訪問診療/在宅ケア、介護施設との連携などを経験し在宅緩和ケアにも従事すること。
○地域包括ケア/学校医、地域保健活動などに参加すること。
(2)総合診療専門研修Ⅱ
 病院の総合診療部門における研修であり、以下の診療内容を含み、診療実績として、のべ外来患者数200名以上/月、入院患者総数20名以上/月が必須。
○病棟診療/臓器別ではない病棟で、主として高度医療技術の必要のない成人・高齢入院患者や複数の健康問題( 心理・社会・倫理的問題を含む) を抱える患者の包括ケア、癌・非癌患者の緩和ケアなどを経験すること。
○外来診療/臓器別ではない外来で、救急も含む初診を数多く経験し、複数の健康問題をもつ患者への包括的ケアを経験すること。
 以上、整備基準を概説してきたが、これ以外にも各診療科の指導医やプログラム統括責任者の認定要件、研修の場と目標の関係性、研修プログラム管理委員会の役割など、多岐にわたる内容が盛り込まれている。
 自院での総合診療専門医育成を何らかの形で意図する場合は、機構のHPにある資料を閲覧し、準備を進めていただきたい。遅くとも2017年1月初旬にはプログラム申請の公募が始まる予定である。また、本プログラムに直ちに関与することがない施設においても、地域に密着した医療における総合診療の重要性については十分にご理解していただいていると考えている。
 会員病院におかれては、今後の診療の中で総合診療をどう位置づけるのかの本格的検討をはじめていただきたい。10年後を見通した舵取りが必要である。
注)コンテクスト/患者の持つ疾患、病気の経験、健康観を理解する上で重要な様々な状況・要因のことで、その患者の個人的な生い立ち、家族、仕事、社会との関わりの歴史から、その人が住んでいる地域・国の環境、文化、言語、さらには私たちが住んでいる地球の条件(地球温暖化、感染症の大流行、自然大災害など)までを含む(葛西による)。