全日病ニュース

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地域ベースで決めていく地域医療構想は大きな変化

地域ベースで決めていく地域医療構想は大きな変化

それだけに医療提供者は策定に積極的に参加、かつ、協議を主導しなければならない

地域包括ケアのデザインをつくる必要がある

西澤 地域医療構想は病床の機能分化とともに在宅医療の充実も取り上げています。つまり、地域包括ケアシステムと一体的に改革を進めるということですね。
山崎 確かに高度急性期、急性期、回復期、慢性期というかたちで機能のすみ分けをしつつ、それを地域包括ケアにつなげるという方向ですね。その場合に、病院が持ってる機能と有床診を含む診療所の役割を考えると、勤務医からシフトしていく開業医の偏在あるいは診療科の偏在という課題がありますが、もうひとつ、診療所の過剰という問題が見逃されているように思います。そこには、9時から5時の診療で完結し、包括ケアへの参画が望めないビル診の存在があります。
 したがって、地域包括ケアの中核になる診療所とそうはならない診療所の存在を見極めた上で、過剰診療所の扱いをどうするかという点を踏まえたグランドデザインを描いていかないと、あるべき医療提供の姿といってもうまくいかないのではないでしょうか。
 あるいは、医療と介護の提供体制が地域によってばらばらになっているという問題もあります。住みなれた地域にいたいという老人がいても、そこに介護と医療がなければ住み続けられませんが、例えば、数十人の村落のために近隣にデイサービスを維持していくというのは無理な話です。こうした、色々な問題をすべて整理した上で地域包括ケアのデザインをつくっていかなければだめだと思っています。
西澤 地域包括ケアシステムにおける診療所の役割をきちんと議論すべきだということはその通りだと思います。
 ところで、高齢者の入院が非常に増えていますが、その中には、当然、認知症の患者も多くいます。これは在宅にも言えることで、地域医療構想では認知症への対応が大変大きな問題になるのではないでしょうか。
山崎 認知症が特別というわけではなく、むしろ終末期の問題があって、それをどこが診ていくかということではないでしょうか。
 今のご指摘にはなるほどと思うところがあります。というのも、医師には、どうも「急性期医療の方が上だ」という、いわれのない信念みたいなものがあるようですが、そんなことはありません。急性期というのは、患者の経過でも精々1週間か2週間に過ぎず、一番いるのは回復期から在宅です。
 しかし、医者も看護師も、そういうところでなかなか働きたがらないし、終末期の話も誰もしたがらない。これはどこかおかしいんです。
 日本病院会の大道副会長は「在宅が川上で、急性期が川下ではないか」と指摘しています。つまり、行き着く先がしっかりしてなければ急性期は成り立たないと。まさにそうだと思いますね。

高齢者の医療はQODとQOLがともに大切

加納 高齢者の医療というのは、在宅医療があって、次に、がん治療の分野があり、あとは急変対応の高齢者救急という3つの組み合わせからなりますが、ベースはやはり在宅です。ここで一番大事なのはQODですが、もう一つ、QOLも大切なテーマです。
 高齢者といっても、団塊の世代が後期高齢者になっていくと100歳を超えてまだまだ長生きな人も出てくるでしょうから、QOLを求める医療もしっかりやっていかなければなりません。
 しかし、どちらにしても、なるべく費用をかけずにできないかという話ばかり聞かされているような感じを受けます。
 例えば、地域包括ケアシステムにしても、QODの追求というのが欠けているんです。どこで議論したらいいのか、なかなか議論できない状況にありますが…。
山崎 私は以前から、終末期のルールを決めないで医療のルールを論じても無駄だと言ってきているのですが…。
 北欧では末期は施設か自宅に帰しています。だから病院に高齢者がいないのも当然なんです。国民の間に終末期をめぐるコンセンサスができている。
加納 ただ、そこは、2次救急に関してはきちんと仕分けしなければなりません。QOLを求める高齢者もいるし、もう本当に大事にQOD をしてあげなければならない人もいるというように…。今後は、そこをしっかり分けていかなければならないと思っています。
 高齢社会化の中で医療が二極化してきていると思うのです。一つは高度な医療をしていかなければならない。
 もう一つは、今論じてきたQODとQOLの問題というように。

地域包括ケアには在宅と入院をつなぐ地域一般病棟的機能が必要

西澤 QOLやQODとも関連して、かかりつけ医とか総合診療医の議論も重要になっています。あるいは、高齢化社会における病院の役割として、全日病や四病協が提唱してきた地域一般病棟のように、在宅と入院をつなぐ機能がないと円滑に行かないという問題もあります。
 いずれにしても、病院団体としては、しっかりとした議論を進めながら提言を重ねていく必要があると思いますね。
 厚生労働省が示した地域包括ケアシステムの図を見ると、医療と介護がきれいに分かれているんですね。しかし、そんなことはないでしょう。西澤先生がおっしゃった地域一般病棟というような機能が地域包括ケアの真ん中あたりになければならないのではないでしょうか。そのぐらい医療と介護の連携っていうのは重要だと思います。
山崎 医療をどこまで求めるのかということだと思うんです。昔は近所のお医者さんに診てもらって、で、看取られることで満足してたわけですが、今は、病院で亡くなると何か過失があったんじゃないかという風潮になっている。だから、医者も気弱になるし患者にも疑心暗鬼が生まれているというのは、非常に問題なのではないかと思うのです。それと、やれ先進医療だ、先端医療とか言って、どんどん新しい技術が入ってくるけど、あれはほとんど外国からで、中には、例えば1 人で年間3,000万円ぐらい使う抗がん剤もあります。それをすべて保険診療でカバーしていたら公的医療保険がもたなくなるのも当然です。だから、先進医療も、例えばダビンチでやるのはどこまでにするとかといった医療保険の提供に線を引かないと際限がなくなるんじゃないかと。
 そこら辺は難しい議論になる。その線を誰が引くのかって。行政が引いちゃうと…。
加納 イギリスのように年齢で透析を制限するとか…。
 あるいは、この地域にダビンチは何台あるからもうだめだよとか、消費税と絡んでそういう話が出てくる可能性もある。
山崎 新しい抗がん剤を使うと寿命が半年延びるっていうけど、半年延ばすために何百万円、何千万円の抗がん剤を使うことにどれだけの意味があるのかと思うのだけど、そういう議論って怖くて誰もできない…。
西澤 技術の進歩は必要だし、国民が高度な医療を受けられるというのは幸せなことです。その一方で、公的保険を持続させていく上でどうあるべきか。この辺りの兼ね合いをどうとるかということになるのですが、これはなかなか結論が出ないと思うのです。ただ、いえることは、我々提供する側もそういう問題意識をもって、きちんと考えながら色々な意見や情報を発信していく必要があるということではないでしょうか。

消費税負担を医療費でまかなうはおかしい。課税こそが抜本的解決策

西澤 ところで、消費税の問題ですが、事態はどうにも厳しいものがあります。
加納 消費税に関しては、日医と四病協との間で政府税調に対する要望で合意したところです(註)。内容的には、いわゆる2階建て、つまり診療所と病院とでは別の対応を求めていくというもので、ま、一つの道筋ができたということでしょうか。
 診療所にとっては、課税化された場合に、これまで診療報酬に上乗せされてきた分が引き剥がされるというのはなかなか難しいことだろうと思います。一方、病院にとっても、引き剥がされる額がこれ以上膨らむと経営に大きな影響が出ることは確かですから、タイミング的には、本当にここらあたりが限界ではないかなという感じがしています。
 しかし、以前から求めてきた課税化の話はなかなか前に進まず、正直いって、話がとまっている状況にあります。
 そうした中、非課税が続く限り、病院は今後も控除対象外消費税を負担し続けるわけですので、原則を踏み外さないようにしつつ、しかし、色々な可能性を探りながらということで、今回の要望で日医と合意したということではないでしょうか。
山崎 消費税については、医療費をばらして薬剤と医療材料費を別にしたほうがいいと思います。そもそも医療費に薬剤や医療材料費が入っているのがおかしいので、あれは国が買い上げて医療機関に提供する、つまり、現物給付にするべきだと思うのです。
 ついでに言うと、これは民間病院に限った話ですが、増改築の費用を診療報酬でまかなうのも変だと思うのです。
 病院というのは地域の社会資源ですから、公・民ともに、国が整備すべきです。
 こうすれば、高額投資部分についての消費税は解決するわけです。
加納 しかし、現物給付にすると、地域に病院は幾つかといった適正配置を図るという考え方が出てくるのでは。
 今まで、日本の医療は民間主体でそれぞれ独自性をもってやってきて、その中で競争をしてきた結果として今の医療があるのではないでしょうか。
山崎 それは国が決めるのではなく、地域ごとに審議会を設けて、そこで決めていけばいいんじゃないかな。
 医療と教育は社会的共通資本だという考えがありますが、まさにそのとおりでして、診療報酬で病院の経営をみていかなければならないというのは非常に残念なことですね。しかも、消費税が導入されたために、控除対象外消費税まで医療費でまかなうというのは本当におかしな話です。ただ、我々は20数年原則課税を主張し続けてきたのですが、話がまったく前に進まなかった。そうした状況で消費税がどんどん上がっていくと、立ち行かなくなる病院がかなり出てくると思うんです。財務省のお役人は「消費税で潰れた病院はない」って言ってるようですが、潰れ出したら、それこそ元に戻すことは無理です。
 加納先生がおっしゃった今回の日医・四病協の合意というのは、日本医師会の提案に乗った結果ですが、病院団体としては本当に苦渋の選択です。それだけに、これを何とか実現につなげていければと思っています。病院団体としての、この要望にしても、例えば基金をつくるのかとか、財源はどうするかといった技術的な問題は色々あるとは思うのですが、1つ1つの案をしっかり検証しつつ意見を言っていかないと、また、消費税導入と同じような形で病院団体がつんぼ桟敷に置かれかねない。そういうことにならないよう注意していく必要があると思います。
加納 仮に基金とかの話になると、厚労省の予算枠がどうのこうのとなって、結局は、病院にとってタコ足食いになってしまいかねません。したがって、抜本的な解決策はやはり医療への消費税課税というものであって、我々はその考えを決して捨てるわけではないというところははっきりさせる必要があるのでは…。
 確かにベストの選択は原則課税なんです。しかし、それが無理だとしたらセカンドベストで臨もうということなのですが…。
加納 物事にはタイミングがあるので、今の状況ではこういうことも一つの方法かもしれません。今までも診療報酬に乗せてやってきたりとか色々な形で対応してきたわけなので、今の段階ではこういう対応しかないという考え方は、それはそれでありだとは思うのです。
西澤 いずれにしても、控除対象外消費税の全額還付を求めるという点で我々の主張は一致していると思います。この点は守っていく。これが現在の消費税に対する対応だと考えてよろしいですね。

 

全日病ニュース2016年1月1日・15日合併号 HTML版

 

 

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  • [2] 全日病ニュース・紙面PDF(2014年12月1日号)

    http://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2014/141201.pdf

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