全日病ニュース

全日病ニュース

大規模災害時に医療を迅速に提供する体制づくり

大規模災害時に医療を迅速に提供する体制づくり

全日病・地域防災緊急医療ネットワーク・フォーラム開催

 全日病は3月12日、第18回地域防災緊急医療ネットワーク・フォーラムを開催した。テーマは「災害・イベント時における組織のリーダシップのあり方について」。東日本大震災発生から5年が過ぎた節目に当たり、大規模災害などで多数の人が同時に医療を必要とする状況に陥る場合に備えた対応などが、話し合われた。
 同フォーラムは阪神・淡路大震災をきっかけに始まったもので、「災害医療を志す者が広く交流できる場」と位置づけている。今回は、江戸消防記念会の杉林仁一幹事(第七代目新門辰五郎)、日本赤十字社の富田博樹事業局長、東京防災救急協会の野口英一副理事長が講演を行った。最後に、本会、救急・防災委員会の山本保博特別委員(東和病院病院長)が今後、首都直下型大地震が生じる可能性をふまえ、ますます複雑化する災害対応の展望を語った。
 杉林氏は、江戸時代から明治にかけて名をはせた町火消し組頭「新門辰五郎」の第七代目。浅草神社三社祭の宮頭を務めている。「観光立国日本と浅草の祭の雑踏」と題する講演の中で、政府が観光立国を目指していることを背景に、小さな事故が絶えなかった三社祭も、事故が起こらないように対応がなされてきた経緯を説明した。
 杉林氏は、神輿の担ぎ手たちの事故防止策とともに、観光客に外国人が増えたことから英語や中国語を交えながら、メガホンで大声を出して、注意を促す様子を伝えた。
 富田事業局長は、「日本赤十字社の災害救護における連携調整等について」をテーマに講演した。日本赤十字社は、災害救護活動を法律に基づく本来業務としている点で、DAMT(災害派遣医療チーム)やAMAT(全日本病院協会災害時医療支援活動班)と異なる。
 阪神・淡路大震災後の中規模災害では初動の遅れが指摘されたが、東日本大震災においては、本部の指示を待つことなく、病院長判断で迅速に救護班を派遣できたとした。今後の大規模災害の備えでは、消防庁や海上保安庁、自衛隊などとの関係づくりを進めており、特に消防庁と海上保安庁とは包括的な協定を締結していることを伝えた。
 野口副理事長は、東京消防庁での経験をふまえ、「多傷病者事故活動」において災害現場に設けることが不可欠な機能などを説明した。多傷病者が発生する事案では、指揮系統を維持し、初期においては救護の提供量よりも必要量の方が多い状況をふまえ、①トリアージ②応急処置③搬送─ に現場で迅速に対応する必要性を強調した。
 秋葉原の歩行者天国で2008年6月8日に発生した無差別殺傷事件では、事件現場が400メートルの長さにまで及んだ。本来は被害者を1か所に集めて、トリアージするべきところを、個別に対応してしまい、効率面で問題が生じたとした。ただ重傷者を「動かすことがよいのか悪いのか」の判断が難しかったと述べた。
 山本特別委員は、これらの講演をふまえ、将来起きる可能性が高いことが予測されている首都直下型大地震に対する備えを語った。具体的には「必ず来る」との覚悟を持ち、「平時に経験していないことは、もしもの場合行うことができない」ことを心に留め、起きた場合には、「行政、消防、警察、自衛隊、医療がスクラムを組み、総力戦で対応する」ことの必要性を強調した。

 

全日病ニュース2016年4月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。