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医療機関におけるマイナンバー制度への対応

【◆論考】

医療機関におけるマイナンバー制度への対応

Ⅰ はじめに

 2015年9月9日、「個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律」(個人情報保護法一部改正法)と「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律(マイナンバー法一部改正法)」が同時に公布された。
 両法は、密接に連携しており、個人情報保護法の公布から12年、マイナンバー法の公布から2年経過して初めての大きな改正である。2015年10月から改正法の一部が施行された。
 年金情報漏えいがあり、その後、特定個人情報に関する情報システム障害等による不具合が続出し、マイナンバー法の運用に疑問や問題が提起されている。
 全日本病院協会は、個人情報保護法制定直後から担当委員会を設置して、認定個人情報保護団体として、相談受付、情報提供、講演会、研修会等を継続している1。その結果、医療機関管理者および職員の個人情報保護法の理解と関心は高まっている。
 しかし、マイナンバー法は、制定後短期間であり、また、医療機関への影響が不明確であり、医療関係者の理解と関心は十分とは言えない。
 両改正法とも、全面施行されておらず、医療分野における運用に関するガイドライン等も策定されていない。しかし、改正法の一部が施行されているので、概要を理解する必要がある。
 個人情報保護法改正法にも触れるが、マイナンバー法改正法を中心に解説する。

Ⅱ マイナンバー法の目的

 マイナンバー法は、「行政事務を処理する者が…効率的な情報の管理及び利用並びに他の行政事務を処理する者との間における迅速な情報の授受を行う…行政運営の効率化及び行政分野におけるより公正な給付と負担の確保を図り…国民が、手続の簡素化による負担の軽減、本人確認の簡易な手段その他の利便性の向上を得られるようにする…個人番号その他の特定個人情報の取扱いが安全かつ適正に行われるよう行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律及び個人情報の保護に関する法律の特例を定めることを目的とする」と第1条に明記されている。
 名称の通り、行政事務の効率化が主目的であり、民間組織や個人の便益は従である。

Ⅲ マイナンバー法改正法の概要

 マイナンバー法改正では、マイナンバーの利用範囲や行政機関等の間での情報連携の範囲が拡大された。預貯金口座へのマイナンバーの付番、予防接種などの医療等分野における利用、地方公共団体の要望等や個人情報保護委員会への改組に係るもの、さらに、年金情報の流出事案を踏まえた追加修正があった。

Ⅳ  個人情報保護法・マイナンバー法の用語の定義

 用語が明確化あるいは新たに定義された。医療機関には、特に下線の用語の理解が必須である。
 行政機関、独立行政法人等、個人情報個人識別符号要配慮個人情報匿名加工情報、個人情報ファイル、個人番号、本人、個人番号カード特定個人情報、特定個人情報ファイル、個人番号利用事務、個人番号関係事務、個人番号利用事務実施者、個人番号関係事務実施者、情報提供ネットワークシステム、法人番号

Ⅴ  マイナンバーの利用範囲(番号法別表)(2013年法律第27号)

 マイナンバーの利用範囲は以下のとおりである。
1 社会保障分野
1) 年金
・ 年金の資格取得・確認・給付に利用
・ 国民年金法、厚生年金保険法による年金の支給に関する事務
・ 確定給付企業年金法、確定拠出年金法による給付の支給に関する事務
2) 労働
・ 雇用保険等の資格取得・確認・給付。 ハローワーク等の事務に利用
・ 雇用保険法による失業等給付の支給、雇用安定事業、能力開発事業の実施に関する事務
・ 労働者災害補償保険法による保険給付の支給、社会復帰促進等事業の実施に関する事務 等
3) 福祉・医療等
・ 保険料徴収等の医療保険者の手続、福祉分野の給付、生活保護の実施等に利用
・ 健康保険法、介護保険法等による保険給付、保険料の徴収に関する事務
・ 児童扶養手当法による児童扶養手当の支給に関する事務
・ 障害者総合支援法による自立支援給付の支給に関する事務
・ 生活保護法による保護の決定、実施に関する事務 等
2 税分野
・ 国民が税務当局に提出する確定申告書、届出書、調書等に記載。当局の内部事務等に利用
・ 災害対策 被災者生活再建支援金の支給に関する事務等に利用
4  上記の他、社会保障、地方税、防災に関する事務その他これらに類する事務であって地方公共団体が条例で定める事務に利用

Ⅵ 個人情報保護法改正法の目的

 改正後の個人情報保護法は、第1条で、「個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮」することを目的とするとしている。
 すなわち、個人情報の保護と利活用をバランスよく推進することである。

Ⅶ 個人情報保護法改正の概要2

 情報通信技術の急速な発展により、個人情報を含むパーソナルデータを取扱う環境が大きく変化し、主に以下の問題が明らかになり、それらに関して改正された。
1  かつては想定しなかった多種多様なパーソナルデータが流通し、ビッグデータとして新たに利活用され、プライバシー保護と適正な情報の利活用環境を整備する必要が生じた。
2  個人情報取扱事業者の監督が主務大臣制で、27分野38ガイドラインに基づき、事業分野ごとに行われてきた。
3  企業や団体の活動がグローバル化し、個人情報を含む多くの情報が国境を越えて流通、取り扱われる時代となり、EU、アメリカにおける個人情報保護法制の見直しも踏まえて、国際的な整合性を図る必要がある。
 パーソナルデータの利活用に関する項目を含む「日本再興戦略」及び「世界最先端IT国家創造宣言」の閣議決定(2013年6月)に基づき、「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)」の下に、「パーソナルデータに関する検討会」が設置された。
 2014年6月、同本部は「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」を決定し、これに基づき個人情報保護法を改正した。

Ⅷ 個人情報保護委員会設置

 2016年1月から、特定個人情報保護委員会が個人情報保護委員会に改組された。特定個人情報に関する事務とともに、新たに個人情報全般について、適正な取扱いの確保のための監督、認定個人情報保護団体の監督、個人情報全般に関する広報・啓発、個人情報の取扱いに関するクローバル化への対応等、権限が大幅に強化された。

Ⅸ 日本再興戦略 改訂2015

 日本再興戦略 改訂 2014(2014年6月閣議決定)に基づき、「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会において、医療分野における番号の必要性や具体的な利活用場面に関する検討を行い、年内に一定の結論を得る」とされ、2014年12月10日、中間まとめが公表された3。2015年6月30日、日本再興戦略 改訂2015「経済財政運営と改革の基本方針2015 ~経済再生なくして財政健全化なし~」(骨太方針)が経済財政諮問会議での答申を経て閣議決定された4。社会保障では、医療・介護提供体制の適正化、インセンティブ改革による各種予防、公的サービスの産業化、負担能力に応じた公平な負担・給付の適正化、薬価・調剤等の診療報酬に係る改革及び後発医薬品の使用促進を含む医薬品等に係る改革等にも取り組んでいくとした。

Ⅹ  「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」の報告書

 上記を受けて、「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」は報告書を発表した5(2015年12月10日)。その概要は以下のとおりである。
1  医療等分野の情報連携に用いる識別子(ID)の具体的な制度設計等を整理し、検討結果をまとめた。
2  医療等分野の個人情報の情報連携のあり方を整理した。
(1)医療等分野の個人情報の特性
(2 )医療等分野の個人情報の情報連携のあり方
3  マイナンバー制度のインフラとの関係
(1 )医療情報の連携にマイナンバーは用いない。
(2 )支払基金が住基ネットを経由して取得する「機関別符号」は、住民票コードと一対一の関係を持ち、事務を受託した保険者の被保険者について、重複がない一意の識別子(ID)とする。
4  医療保険のオンライン資格確認の仕組み
(1 )支払基金と国保中央会が保険者から共同で資格管理等の事務の委託を受ける。
(2 )個人番号カードの裏面のマイナンバーの表示の工夫や、マイナンバー等が見えないカードケースの配布など、個人番号カードを安全に利用する対策を講じる。
5  医療等分野の情報連携に用いる識別子(ID)の体系(具体的な制度設計)
(1 )地域医療連携に用いる識別子(ID)の位置づけ異なるID体系の地域医療連携のネットワーク間で、患者本人を一意的に把握するための共通の識別子(ID)として、「地域医療連携用ID(仮称)」を生成し、異なるネットワーク間での患者情報の連携を可能とする。
(2 )医療等分野の識別子(ID)の生成・発行の仕組み支払基金と国保中央会がIDの生成・発行機関となり、支払基金が取得する機関別符号と一対一に対応するように、「地域医療連携用ID(仮称)」等の識別子(ID)を生成・発行する。
(3 )医療等分野の識別子(ID)の視認性(見える番号とするかどうか)
(4 )医療保険の資格確認用番号(仮称)とレセプト情報の活用
(5 )医療等分野の情報連携の識別子(ID)の発行・管理機関
(6 )医療機関等への地域医療連携用ID(仮称)の発行の仕組み
6  医療等分野の識別子(ID)の普及に向けた取組

Ⅺ 医療機関の対応

 マイナンバー法への医療機関がすべき具体的対応は以下のごとくである。
1  規定見直し(基本方針、就業規則、個人情報管理規定等)
2  個人情報保護、安全管理措置(体制構築・セキュリティ対策)
3 従業員研修
4  従業員等の個人番号カード取得開始(番号確認と身元確認)
5  申請書、申告書、調書等順次番号記載開始(厚生年金・健康保険は、2017年1月~)
 給与所得・退職所得の源泉徴収票、報酬、料金、契約金及び賞金の支払い調書、不動産の使用料等の支払調書、不動産等の譲渡受けの対価の支払調書

Ⅻ おわりに

 マイナンバー法は、行政事務の効率化が目的であり、適用範囲は限定されている。また、個人情報保護法改正法では、“匿名加工情報”が定義され、情報の利活用が促進されようとしている。
 年金情報漏えい、個人番号管理システムの不具合がある中、“医療番号”が具体的に検討され、また、“特定個人情報”の利用範囲が拡大されることも考慮し、民間組織あるいは個人として、あらゆる形の“個人情報”を自分自身で制御可能な形に保持できることが重要である。
 2017年7月に開始される予定の本格的な情報連携に向けた準備が進められている。本制度の導入目的に基づいて、公平・公正・円滑に運用されるよう、関係者が連携し、必要に応じて見直す必要があろう。

参考文献
1(公社)全日本病院協会個人情報保護担当委員会:病院における個人情報保護Q&A第2版、2015年1月、じほう
2 特集:個人情報保護法・マイナンバー法改正:ジュリスト2016.2 No.1486 pp.13-68
3 医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会 中間まとめ 2014年12月10日
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000068083.pdf
4 日本再興戦略 改訂2015 2015年6月30日閣議決定
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/dai1jp.pdf
5 医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会 報告書 2015年12月10日
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000106609.pdf

 

全日病ニュース2016年5月15日号 HTML版

 

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