全日病ニュース

全日病ニュース

出産・子育てなど女性医師の労働時間を男性医師比「0.8」と高めに推計
厚労省の医師需給推計方法に疑問。病院団体は医学部定員増の継続を希望

出産・子育てなど女性医師の労働時間を男性医師比「0.8」と高めに推計
厚労省の医師需給推計方法に疑問。病院団体は医学部定員増の継続を希望

【厚労省・医師需給分科会】

 5月19日の医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会は、当面の医師養成数と医師偏在対策に関する検討の方向性について意見を集約し、中間まとめを行った。その中で、医学部の定員は現状の9,262人を維持するとしつつも、今後3年間の追加増員については「慎重に精査」する考えを示した(1面記事を参照)。
 この考え方の基となるのが、厚労省が3月31日の同分科会に報告した「医師需給は早ければ2024年(平成36年)頃に均衡し、以後、医師の需要は減少する」とした将来の医師需給の推計結果である。
 これを踏まえて、厚労省は4月20日の分科会に「既に現時点で将来的な医師の供給過剰が見込まれる」との判断を示し、中間報告に向けた議論をリードした。
 こうした医師需給の推計結果に対して、4月27日に開かれた四病協の総合部会では、出席者から次のような疑問や意見が示された。
○ 医師数を推計する上で、男性医師に対して女性医師の労働時間を0.8としてカウントしているが、日本女医会は出産・子育ての多い女性医師の仕事量はそこまで高くないと述べている。(資料Ⅰ-(2)参照)
○ 一般病床・療養病床の医師数は、大学附属病院を除いて「高度急性期4.8: 急性期2.7: 回復期1.5: 慢性期 1.0」と按分して推計しているが、高度急性期をもっとも実施している、しかも、医師数が多いところを外して、それ以外の高度急性期で4.8と按分することに恣意的なものを感じる。(資料Ⅱ-(1)-①参照)
○ 医師の需要に大きく影響するのは勤務時間(週当たり)であり、推計では、上位45.7時間、中位51.1時間、下位53.9時間と想定。しかし、仮に適正な労働時間を40時間とみると需給が均衡するのはもっと先になる。  (資料Ⅱ-(1)-④参照)
○ 推計は結論から逆算して計算しており、推計の仕方に問題がある。
○ 十分な規制がかけられなければ、まだまだ医師を増やしてもらわないと困る。規制は、地域や診療科間の偏在あるいは研修医や専門医をどうするかということと絡んでくる。規制をかけたときに医学部定員とどう兼ね合いをとるのか、ということではないか。
 総合部会で示された意見の多くは「医師は現在も将来も足りない。引き続き養成数を増やす方向で臨むべき」というものであった。
 医学部に関しては、恒久定員を増やすだけでなく、新医師確保総合対策、緊急医師確保対策、骨太方針2009、新成長戦略によって臨時定員の上乗せが実施されてきた(資料Ⅲ参照)が、地域枠の運用や臨床研修の枠組等による影響を含む臨床就業への影響の検証は十分ではない。
 偏在対策としても「開設者・管理の要件」を含む様々な案があげられているが、その実効性を含む影響や効果は未知数であり、現在は期待値にとどまる。
 そうした中で、医師養成数の削減に向けて舵をとるのは、医師や看護師の需給見通しが常にはずれてきたことを踏まえると、大きなリスクをもたらすことが懸念される。どういう論拠でそうした方向性が導かれたのか、分科会議論の基となった資料を紹介する。

資料Ⅰ.医師の供給推計方法(3月31日の分科会資料から)

(1 )医学部定員数を基に、国家試験合格率、再受験率、医籍登録率、三師調査届出率、医籍登録後の就業率等過去10年分のデータから推計パラメータを算出し、現在の就業者数と各年の推計医師数を導く。今後の医学部定員は平成28年度の9,262人として推計する。
(2 )労働時間の違いが見込まれる女性医師・高齢医師(60歳代以上)および経験・技術の違いが見込まれる研修医については仕事量を考慮して供給に反映させる。30〜50歳代の男性医師を1.0とした場合の高齢医師と女性医師はそれぞれ0.8、1年目の研修医は仮に0.3、2年目の研修医は仮に0.5とする。

資料Ⅱ.医師の需要推計方法(3月31日の分科会資料から)

(1)臨床に従事する医師
① 入院医療(一般病床・療養病床・精神病床)

※ 地域医療構想の必要病床数推計のうちパターンCによる推計に基づく。在宅医療等で追加的に対応する患者は外来に含む。地域医療構想にない精神病床の患者数は別途推定。
※ 一般病床・療養病床の医師数は「高度急性期4.8:急性期2.7:回復期1.5:慢性期 1.0」と按分する(大学附属病院を除く推計)。
※ 高度急性期・急性期の平均労働時間が、将来、一定程度短縮することを見込む。女性医師・高齢医師については供給推計と同様に仕事量を考慮して推計する。
② 入院外の医療(無床診・外来・訪問診療)※ 病院及び有床診の医師は「一般病床及び療養病床」において推計する。
③介護老人保健施設※ 入所者数当たりの医師数は三師調査における介護老人保健施設勤務医師数から推計する。
④ 労働時間の適正化の見込み方(週当たり勤務時間の状況)

(2)臨床以外に従事する医師(省略)
(3)医師の需給推計の結果医師需給は、中位推計では2024年頃に、上位推計では2033年頃に均衡すると推計される。いずれの場合も需給が均衡した後は、将来人口の減少により、医師の需要は減少すると考えられる。

資料Ⅲ .医師不足県における暫定的な医師養成の増加策(4月20日の分科会資料から)

○ 医学部入学定員の臨時定員・恒久定員の内訳
○ これまでの臨時定員増に係る都道府県および大学等の取組
(1 )新医師確保総合対策(2006年8月31日)2008年度からの最大10年間、現行医師養成数に最大10人の上乗せを認める。これによる2008 〜2017年度までの臨時定員増は105人。
(2 )緊急医師確保対策(2007年8月30日)2009年度から最大9年間、都府県ごとに最大5人まで(北海道は15人まで)の上乗せを認める。これによる2017年度までの臨時定員増は212人。
(3 )「経済財政改革の基本方針2009」以降各都道府県に原則10人を上限(医師不足が認められる都道府県の自治医科大学は大学として10人を上限)に増員を認める等。これら措置による2010 〜2019年度までの臨時定員増676人(2016年時点)。内訳は①地域枠592人②研究医枠40人③歯学部振替枠44人。

 

全日病ニュース2016年6月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 2024年に約30万人で医師数が均衡|第869回/2016年4月15日号 ...

    http://www.ajha.or.jp/news/pickup/20160415/news10.html

    2016年4月15日 ... 厚労省は3月31日の医療従事者の需給に関する検討会の「医師需給分科会」(片峰茂
    座長)に、将来の医師数の需給推計の結果を報告した。医師数 ... 医師の供給数は、
    医学部定員増と東北医科薬科大学の医学部新設を含む2016年度の9,262人を基礎と
    した。 ... 入院医療に従事する医師数は、病床機能報告制度を用いて、慢性期を「1」と
    した比率で、高度急性期は「4.8」、急性期は「2.7」、回復期は「1.5」と仮定。

  • [2] 全日病ニュース・紙面PDF(2016年2月15日号)

    http://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2016/160215.pdf

    2016年2月15日 ... ... 需給分科会. は、①医師需給数の推計方法、②医師 ... 医学部定員増措置の解消に
    対して、. 神野構成員 ... 行 15%)に、10対1入院基本料の急性期 .... 医学部構成員.
    神野副会長. 医師需給. 分科会. △ 2016年度改定の答申に臨む診療側委員. 診療側が
    会見。病院団体 ..... れる機能、(5) 高度急性期病棟の多寡な. ど病院・ ...

  • [3] 新専門医制度に関する厚労省の委員会が初会合

    http://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2016/160415.pdf

    2016年4月15日 ... 続いて、日本医師会の横倉義武会長、. 自民党の武見敬三 ..... 2018年度からの第3期
    医療費適正化計画の基本方針案を了承 ..... 給に関する検討会の「医師需給分科. 会」.
    (片峰茂座長)に、将来の医師数の. 需給推計の結果を報告した。医師数の ... 医師の
    供給数は、医学部定員増と東 ... 性期を「1」とした比率で、高度急性.

本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。