全日病ニュース

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平成28年熊本地震活動報告

平成28年熊本地震活動報告

 全日病災害対策本部統括副本部長の加納繁照常任理事は、6月18日に開かれた支部長・副支部長会で特別講演を行い、熊本地震の支援活動について報告した。その要旨を掲載する。

 月の熊本地震に当たっては、AMAT の派遣や支援物資の提供など様々な形でご協力をいただき、深く感謝する。
 今回の地震の特徴は、震度7の前震から間をおかずに更に規模の大きな本震が起こったことである。4月14日21時26分に前震が発生し、その後1日あまりで、16日深夜1時25分にマグニチュード7.3の本震が発生した。初めての経験であり、対応面でいろいろな影響があった。
◎ 全日病と日本医療法人協会の合同対策本部を設置
 今回の支援活動の特徴を考えてみたい。
 まず、全日病と日本医療法人協会が合同災害対策本部を立ち上げたことがあげられる。このことは、被災地における拠点を設置したり、人を派遣する上で役立った。
 先遣隊を派遣したことやPush 型の支援も特徴としてあげられるだろう。Push 型支援とは、「ためらわずに支援を行う」という意味である。AMATや支援物資を含め、押し出していく形の支援が大切である。
 Push 型支援の一つとして、現地の活動拠点本部に全日病事務局員を派遣した。本震があった16日に2人の事務局員が現地に入ったが、初めての経験である。
 病院支援においてはAMAT の活躍が大きかった。入院診療支援(緊急増床分)と外来診療支援(夜間時間外救急)、さらに避難所の巡回診療などの活動を行った。
◎発災直後から迅速に対応
 発災翌日から3日間の初動対応を表1にまとめた。災害の発生時においては、最初の3日間が非常に重要である。
 4月14日には、本部事務局に災害対策本部を仮設した。発災の30分後には全日病事務局に事務員2人がかけつけ、対策に入った。当日、私は大阪にいたが、地震のニュースを聞いた直後から事務局と連絡をとりあった。
 まず熊本県内の会員病院の被災状況を確認した。同時に、九州地区のAMAT 指定病院に連絡し、AMAT派遣の可否を確認した。
 15日11時には、全日病と日本医療法人協会の合同で、災害対策本部を設置。発災から14時間で、対策本部を立ち上げた。
 4月16日の午前1時25分に本震が発生した。前震の被災状況から、今回の震災はあまり大きくないと認識していたが、本震後の状況をみて認識が大きく変わり、支援活動をリセットすることとなった。
◎支援物資の搬送で協力を得る
 16日には、白鬚橋病院のAMAT が空路で出発した。同病院の大桃院長は、救急・防災委員会の委員であり、災害医療の専門的知識を持っているため先遣隊として現地に入っていただいた。
 16日には、全日病の常任理事会が開かれたが、その機会をとらえて第1回の災害対策本部の会合を開いた。この時に九州の支部長から意見をいただき、状況を適確に判断することができた。
 また現地の会員病院から水や食料が不足しているという連絡があり、対策本部にて早急に対応を検討した。
 支援物資の搬送に当たっては、いくつかのルートを検討した。一つ目のルートは、福岡県に搬送拠点をつくり、熊本市内に搬送するルートである。福岡県の田主丸中央病院・ヨコクラ病院を拠点として熊本市内に搬送することとした。
 もう一つのルートは鹿児島県から搬送するルートである。災害対策本部で鉾之原常任理事・鹿児島県支部長(市比野記念病院)が物資の搬送を申し出ていただいた。余震が続き、熊本市内の状況がわからない状況だったが、鹿児島県から市比野記念病院、国分中央病院、サザンリージョン病院の3隊が熊本市内に水や物資を運んだ。こうして初期の一番たいへんな時期に水と食料を届けることができた。災害時における仲間同士の助け合いが大切であると実感した。
 16日には全日病の災害救援物資の搬送チームが出発した。全日病本部では、いざというときの災害救援物資を備蓄しており、すべての救援物資を被災地に運ぶことを対策本部で決め、事務局員の2人が物資を持って現地に入ることとした。熊本市内では、青磁野リハビリテーション病院を支援物資の拠点とすることとし、AMAT も同病院を拠点に活動を展開した。
◎民間病院の助け合いの仕組みとしてAMATを組織
 AMATは、DMATやJMATとどう違うのかという質問を受ける。
 DMAT は、阪神淡路大震災の後につくられた公的な支援チームであり、多くは3次救急の救命救急センターに配置され、災害時には指示を受けて派遣されることになっている。災害医療のトレーニングを受け、様々な器材も備えている。器材はすべて国の補助金で賄われ、訓練も国の補助で行われている。
 東日本大震災の際には、多くのDMAT が出動した。災害拠点病院に5〜6隊が入り、様々な支援を行ったが、近くにある民間病院には支援がなかった。要請してもDMATは民間病院を支援してくれなかったという事実がある。
 これがきっかけとなって、全日病の会員同士で助け合う仕組みとしてAMATをつくった。
 AMAT は、DMATと全く同じカリキュラム、同じ講師陣で2日間の研修を実施している。実力の面では、DMATに負けない組織となっていると自負している。こうした意識でつくられたAMATが今回の地震で初めて活躍したことを認識していただきたい。  一方、JMATは、日本医師会がつくる支援チームであるが、DMAT が初期の活動をした後に、避難所の医療班などの活動を担う役割がある。
 災害時の支援活動は危険を伴い、何かあった場合には補償する必要がある。JMATは、日本医師会の保険に加入しているが、AMATにおいても保険の適用が必要であり、JMATと同じ保険に加入することとした。災害時の活動に当たっては、万が一への備えが大事である。
◎支援物資に対するニーズの変化
 支援物資に対するニーズは時間の経過とともに変化する。
 発災から3日間は飲料水の不足があったが、それを過ぎると水の需要は満たされた。医薬品・衛生材料などの需要は7日目くらいまで、日用品・食料品の需要は14日目くらいまでであった。
 現地では、4月20日〜5月7日まで、県内の会員病院に毎朝9時にファクスを送り、支援物資の在庫状況を情報提供し、各病院に必要な物資をとりにきてもらった。全国からオムツなどの支援物資を提供していただいたが、今回の地震ではイオンなどが大量の物資を送ったこともあり、支援物資は若干余ることとなった。しかし、これは結果論であり、我々としては全力で物資の支援に当たった。
 表2は、AMAT の派遣先とその期間である。東病院と宇城総合病院に人を派遣してしっかりした支援をすることができた。
 5月17日には、西澤会長とともに被災地を視察し、阿蘇立野病院を訪れた。病院の裏側でがけ崩れがあり、撤収の判断をされたことは適切であったと思う。同病院の上村院長にお会いし、復旧に向けてがんばるという意欲にあふれた表情をみることができた。
 今回の熊本地震では、様々なことを経験した。AMAT は、災害時に民間病院が助け合うためにつくったものであり、今回その機能をしっかり果たすことができた。大きな震災がいつ起こるか分からないのが日本であり、今回の経験を活かして備えを確かなものにしていきたい。
 表1 発災から3日間の初動対応

4月14日(木)21:26発災
・本部事務局に災害対策本部を仮設
・熊本県内の会員医療機関の被災状況を確認
・九州地区AMAT指定病院へ派遣対応の可否を事前確認
4月15日(金)
1:10 派遣が可能なAMAT病院に対して待機指示
7:20 倒壊の恐れがある希望ヶ丘病院へAMAT派遣決定
8:05 山田・熊本県支部長と調整、希望ヶ丘病院へAMAT派遣指示、織田病院、ヨコクラ病院、熊本機能病院、サザンリージョン病院が派遣待機
10:41 織田病院AMAT移動開始、希望ヶ丘病院の患者避難完了
11:18 全日本病院協会・日本医療法人協会合同災害対策本部設置
4月16日(土)
1:25 マグニチュード7.3の地震(本震)が発生
11:00 全日病事務局にある備蓄水・食料を支援物資として福岡県の田主丸中央病院(搬送拠点)へ搬送することを決定
11:46 白鬚橋病院AMAT出発(空路)先遣隊派遣
12:30 平成28年熊本地震 第1回災害対策本部会議を開催
14:00 市比野記念病院 災害救援物資搬送チーム出発
15:10 赤穂中央病院AMAT出発(陸路)
14:41 全日病災害救援物資搬送チーム出発
17:43 全日病支援物資についてヨコクラ病院を集積病院に決定
18:55 熊本県内の全日病・医法協会員病院へ電話聞き取り調査
20:50 国分中央病院、サザンリージョン病院 災害救援物資搬送チーム出発
21:28 南多摩病院AMAT 出発(陸路)
23:57 伊藤・医法協会長代行が自院から持参した支援物資を青磁野リハビリテーション病院へ搬送移動
4月17日(日)
0:15 伊藤・医法協会長代行が現地では水不足との情報を入手。飲料水約70tを手配
8:00 伊藤・医法協会長代行と総合大雄会病院職員が支援物資を持参し、青磁野リハビリテーション病院へ到着
9:22 永生病院AMAT 出発(陸路)
10:15 青磁野リハビリテーション病院において、支援物資の供給についてミーティング開始。メンバーは、伊藤・医法協会長代行、大桃先生(白鬚橋AMAT)、金澤先生(青磁野リハビリテーション病院院長)と全日病事務局
10:40 熊本県内からの支援物資の集積場所を青磁野リハビリテーション病院関連施設「ファインテラスせいじの」とし、県外からの支援物資の集積場所を福岡県のヨコクラ病院とすることを決定
18:20 織田副本部長が青磁野リハビリテーション病院へ支援物資を直接搬入

 

全日病ニュース2016年7月15日号 HTML版

 

 

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