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新専門医制度は2018年度から一斉にスタート

理事会終了後の会見に臨む吉村理事長(中央)と山下副理事長(左)と松原副理事長(右)

新専門医制度は2018年度から一斉にスタート

【日本専門医機構】
2017年度は既存プログラムの実施を要請

 日本専門医機構(吉村博邦理事長)は7月20日に理事会を開き、当初予定していた2017年度からの新専門医制度の実施を1年遅らせ、2018年度から一斉にスタートする方針を決めた。また、専門医制度のあり方を根本から検討するため、引き続き議論する方針も決めた。専門医機構は、これらの方針を7月25日の社員総会に報告し、了承を得た。

立ち止まって懸念を払拭
 理事会終了後の会見で吉村理事長は「ここは立ち止まって地域医療への懸念を払拭できるよう、機構と学会が連携して問題点を改善し、2018年度をめどに一斉にスタートすることを目指す」と報告した。あわせて「2017年度については、研修医や国民の混乱を回避するため、各学会が責任をもって制度を運用する。ただ機構としては既存のプログラムの実施を要望する」と述べた。
 新たなプログラムで研修を開始する学会には、地域医療に十分配慮することを要請した上で、暫定的なプログラムとして研修を開始することを認める考えだ。例えば、それぞれの診療領域の募集人数を実績の1.2倍程度にするなどの対応が必要とした。
 総合診療専門医については、「研修医の混乱を防ぐため新たな方策を考えたい」と述べたが、具体的な内容は示さなかった。
 また、専門医のあり方を検討する方針を示した。将来の人口や疾病構造を勘案して、領域別の専門医の数やあるべき専門医の姿について、「大局的な大方針」を描くとしている。検討内容には、研修施設の認定や総合診療専門医の位置づけ、いわゆるダブルライセンス問題、専門医を取得しない選択肢も含まれ、専門医制度のあり方について基本的な方向を定めることになる。
 これらの方針は、7月25日の社員総会に報告され承認された。なお、社員総会では、日本医学会連合の推薦枠で欠員となっていた1名が承認され、東京大学大学院医学系研究科教授の南学正臣氏が理事に加わった。
学会の対応に多くの懸念残る
 当日は、19の基本診療領域の学会が参加する基本診療領域連絡協議会を開き、各学会の考える地域医療への配慮についてヒアリングを行った。引き続き「新たな検討の場」(専門医研修プログラムと地域医療にかかわる新たな検討委員会・仮称)を開き、各学会の対応を踏まえて協議した。検討委員会には、学会推薦の理事は参加せず、公衆衛生の専門家として、地域医療機能推進機構(JCHO)の尾身茂理事長が加わっている。
 検討委員会で各学会の対応を吟味した結果、「各診療領域は地域医療に配慮しているが、いろいろな問題があることもわかった」(吉村理事長)。
 最も問題とされたのは、初期臨床研修を終えた8,000~ 9,000人の医師に対し、新制度における研修医である「専攻医」の募集枠が2倍以上に及ぶこと。「専攻医の分捕り合戦のような状態」になっており、放置すれば都会に医師が集中するのは明らかだ。
 また、指導医の要件が厳しく研修施設になれないケースが見られる。研修施設の認定基準が厳しいプログラムについて、要件を緩める方向が示された。吉村理事長は、「指導医の基準を考慮するなどして、よりたくさんの病院が参加できるよう工夫する」と述べた。
新専門医制度をめぐる経緯
 新たな専門医制度は、2013年の「専門医の在り方に関する検討会報告」以来、日本専門医機構において準備が進められてきたが、制度設計の概要が明らかになると、地域医療の現場から不安の声が高まった。日本医師会の横倉義武会長は2月17日、来年4月から開始することに懸念を表明。翌日の社会保障審議会・医療部会では、「拙速な開始は地域医療に混乱をもたらす」、「医療崩壊が再来する」など、見直しを求める意見が相次いだ。
 これを受けて厚労省は医療部会の下に、「専門医の在り方に関する専門委員会」を設置。来年度の開始を延期することも含め、議論が始まった。専門委では、機構のガバナンスの問題に対する指摘も多く出された。
 専門委員会で十分な議論がないまま第2回会合で、地域医療への影響を避けるため「専攻医」の募集枠に制限を設けるなどの委員長提案が出され「試行的な運用」として制度を開始する方向で議論が進み始めたため、地域医療を代表する委員が不満を表明。委員として出席した全日病の西澤会長は、専門医機構の組織が脆弱なままでは混乱は明らかとし、「医療関係者でしっかり議論する」ことを主張した。
 四病院団体協議会と日医は6月7日、機構と各学会に対する要望を発表。改めて新制度への懸念を表明するとともに、各学会のプログラムを精査するため、新たな「検討の場」を設置することを求めた。
 これを受けて塩崎恭久厚生労働大臣が談話を発表した。大臣談話は、四病協と日医の要望の趣旨を十分理解するとした上で、「一度立ち止まって検討の場を設け、医師の偏在が深刻化しないかどうか集中的な精査を行う」ことを求めた。この談話は重く受け止められ、その後の流れを決めることになった。
 機構は6月末に役員の改選期を迎え、6月27日の社員総会で新たな理事を選出し、池田康夫理事長は退任した。選出された理事24名のうち、再任は4人にとどまり、機構の執行部は刷新された。それまで四病協の理事は1名だけだったが、1名増員し、全日病の神野正博副会長と日本精神科病院協会の森隆夫常任理事が理事に就任した。
 専門医機構の理事に就任した神野副会長は、7月11日の四病協・総合部会で、新専門医制度に対する基本認識を示している(表1)。病院のあり方委員会の議論を経てまとめられたもので、機構と各学会の役割分担など制度のあるべき姿について考え方を示している。神野副会長は、この基本認識に沿って専門医機構の理事会で発言。「一度立ち止まって、新専門医制度の見直しを行う」ことを主張するとともに、専門医機構の基本姿勢について議論を展開。あるべき新専門医制度のの実現に向けて尽力している。

表1 新専門医制度に対する基本認識 四病院団体協議会 神野正博(全日本病院協会副会長)

 日本の医療提供体制の視点、国民的視点に立って、専門医の確保と質の担保は必須である。専門医は専門性を発揮すべきことは言うまでもない。しかし、非専門医を排除するものであってはならないし、決して専門医が上に立つものではない。専門医は、コンサルテーション時に専門的な知識・技術のもとで専門性を発揮すべきものと考える。
 1 .新専門医制度は、一度立ち止まり、新理事のもとで、見直しが必要である。
 2 .本質的に機構の仕事は、これまで学会が進めてきた制度(ここでいう、制度には研修プログラムとともに指導医、研修施設の基準を含む)の認証を主とすべきであり、機構が主体的、直接的に専門医を認証すべきではない。ただし、これまでの学会とは別に機構内で作業を進めてきた新たな総合診療専門医のみは、現時点で機構の所管とすべきである。
 3 .各領域の専門医基幹研修施設の認定は、外形標準を明確にした上で、基準を満たしたものに対しては、理由なく排除してはならない。
 4 .医師の引き上げなど地域医療の崩壊論議と専門医制度を関連付けるべきではない。医師の需給問題、(診療科と地域)偏在問題が先であり、その中で、専門医制度を議論すべきである。
 5 .医師の生涯時間の中で専門医の重複、いわゆるダブルライセンス取得は、排除するべきではない。
 6 .専門医を取得しない選択も明確にすべきである。(当然のことながら、全医師が専門医になることはナンセンスである)

 

全日病ニュース2016年8月1日号 HTML版

 

 

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