全日病ニュース

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医療事故調査等支援団体としての全日本病院協会の役割

医療事故調査等支援団体としての全日本病院協会の役割

医療事故調査等支援担当委員会委員長 医療の質向上委員会委員長 飯田修平

■医療事故調査等支援担当委員会
 医療の質向上、安全確保、適切な医療事故対応は、医療提供側に対する社会の強い要請である。全日本病院協会は、医療の質向上、安全確保、適切な医療事故対応を目指して、医療の質向上委員会を中心に研究、報告書作成、研修会、講演会、相談受付等の活動をしている。
 その成果に基づいて、医療事故調査制度(本制度)における医療事故調査等支援団体として告示された。医療事故調査等支援担当委員会(本委員会)が業務を担当している。本紙2015年11月1日号に「医療事故調査制度における医療事故調査等支援団体としての取り組み」を報告した(http://www.ajha.or.jp/news/pickup/20151101/news11.html)。しかし、会員の本制度の理解は十分ではない。また、本委員会の認知度は低い。本制度の概要と、本委員会の活動を報告する。
■医療法における医療事故調査に関する法律
 医療法(2014年6月制定)における医療事故調査に関する条文を以下に抜粋する。
第6条の10
 病院、診療所又は助産所(以下この章において「病院等」という。)の管理者は、医療事故(当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)が発生した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なく、当該医療事故の日時、場所及び状況その他厚生労働省令で定める事項を第6条の15第1項の医療事故調査・支援センターに報告しなければならない。
第6条の11
 3 医療事故調査等支援団体は、前項の規定により支援を求められたときは、医療事故調査に必要な支援を行うものとする。
第6条の16
 医療事故調査・支援センターは、次に掲げる業務を行うものとする。
 五  医療事故調査の実施に関する相談に応じ、必要な情報の提供及び支援を行うこと。
■医療事故調査等支援担当委員会の業務
 医療法第6条の11に基づいて、医療事故調査等支援団体は、支援を求められたときは、医療事故調査に必要な支援を行う。
 本委員会の目的は、医療機関が院内事故調査を行うために必要な支援を行うと共に、医療の信頼の創造のために、遺族の質問や相談にもできる限り対応することである。
 支援の内容は、①医療事故調査制度全般に関する相談、②医療事故の判断に関する相談、③院内事故調査の手法に関する助言、④院内事故調査報告書の作成に関する助言、⑤院内事故調査委員会の設置・運営に関する助言、⑥院内事故調査に関わる専門家の派遣である。すなわち、相談・助言業務と専門家の派遣業務である。
 派遣する専門家は、診療の専門家ではなく、事故調査の専門家を想定している。
 また、医療法には規定されていないが、医療の信頼の創造のために、遺族の質問や相談にもできる限り対応する。
 相談・助言業務に要する費用は、無料である。専門家の派遣は旅費・宿泊費の実費と、1回あたり5万円の謝金である。
 委員会委員は、担当役員、医療安全に関する有識者、弁護士、その他会長が必要と認めた者である。
■医療事故調査等支援担当委員会の実績
 本委員会の実績を紹介する。
1 研修会開催1日間の「院内医療事故調査の指針研修会」と、演習を含む2日間の「院内医療事故調査の指針事故発生時の適切な対応研修会」を医療の質向上委員会と連携して、年数回実施している。
2 上記2つの研修会と、院内医療事故調査のシミュレーションをDVDに収録し、実費で頒布している。院内教育に活用いただきたい。
3 『院内医療事故調査の指針』と、医療従事者用と国民・患者用の2種類の本制度の広報ポスターを作成し、会員病院等に配布した。
4 会員病院の支援支援の実績は、報告対象事例の判断に関する相談1件、専門家派遣依頼4件であり、うち1件は専門家を紹介したが途中で辞退された。
■医療事故調査制度の見直し
 本制度成立(2014年6月)後2年以内に医師法21条を含む見直しをすることが、参議院で付帯決議された。これを受けて、種々の議論を経て、2016年6月24日、医療法施行規則が改正された(http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T160624G0020.pdf)。
 法の趣旨から逸脱し、適切に対応しない、隠ぺいしている団体や病院があるという、患者団体・遺族、法律家、報道関係者等の指摘があり、きびしい改正が予想された。しかし、結果はほぼ想定内であり、適切に対応している団体や病院にとっては、大きな影響はない。
■医療法施行規則改正の内容
 「医療法施行規則の一部を改正する省令」(2016年6月24日・厚生労働省令第117号)によって、改正省令が交付された。その主な改正点は、以下の如く、支援団体協議会の設置に関する事項である。
第二 医療事故調査等支援団体による協議会の設置関係
1 法第6条の 11 第2項に規定する医療事故調査等支援団体(以下「支援団体」という。)は、同条第3項の規定による支援(以下「支援」という。)を行うに当たり必要な対策を推進するため、共同で協議会(以下「協議会」という。)を組織することができるものとすること。(医療法施行規則第1条の10の5第1項関係)
2 協議会は、1の目的を達するため、病院等の管理者が行う法第6条の10第1項の報告及び医療事故調査の状況並びに支援団体が行う支援の状況の情報の共有及び必要な意見の交換を行うものとすること。(医療法施行規則第1条の10の5第2項関係)
3 協議会は、2の情報の共有及び意見の交換の結果に基づき、以下の事項を行うものとすること。(医療法施行規則第1条の10の5第3項関係)(1)病院等の管理者が行う法第6条の10第1項の報告及び医療事故調査並びに支援団体が行う支援の円滑な実施のための研修の実施(2)病院等の管理者に対する支援団体の紹介
■医療法施行規則改正に関する通知
 医療法施行規則改正の内容を、通知から以下に抜粋する。
医療機関での判断プロセスについて
○ 管理者が判断するに当たっては、当該医療事故に関わった医療従事者等から十分事情を聴取した上で、組織として判断する。
○ 管理者が判断する上での支援として、医療事故調査・支援センター(以下「センター」という。)及び支援団体は医療機関からの相談に応じられる体制を設ける。
○ 管理者から相談を受けたセンター又は支援団体は、記録を残す際等、秘匿性を担保すること。
○ 医療機関の判断により、必要な支援を支援団体に求めるものとする。
○ 支援団体となる団体の事務所等の既存の枠組みを活用した上で団体間で連携して、支援窓口や担当者を一元化することを目指す。
○ その際、ある程度広域でも連携がとれるような体制構築を目指す。
○ 解剖・死亡時画像診断については専用の施設・医師の確保が必要であり、サポートが必要である。
■課題とその対応
 研修会受講者から、「医療事故調査の指針が何種類もあるが、どれを信用したらよいか」と質問を受け、「我々の指針です」と回答した。他団体の指針を読むと、程度の差はあるが、法律、省令、通知と異なる解釈をしている。
 すなわち、明らかに報告対象事例にもかかわらず、“医療に起因しない”、“予期した”とする解説がある。前述の、「法の趣旨から逸脱し、適切に対応しない、隠ぺいしている団体や病院がある」の例である。本委員会が、法律、省令、通知に基づいた指導をしても、受け入れない方が少なくない。
 対象事例の報告と院内事故調査は、規模の大小に関係なく、全医療機関の義務であることを再確認いただきたい。報告義務を果たさなければ、医療不信を増長し、紛争が増加するであろう。
 医療事故調査の目的は、原因究明、再発防止であり、業務フロー図、特性要因図、RCA( 根本原因分析)、FMEA(故障モード影響解析)等の品質管理手法(道具)が有用である。分析手法がわからないという方が多い。これら手法の研修会を、医療の質向上委員会が実施しているので、参加いただきたい。
■今後の展望
 支援団体として手を挙げた会員病院を優先とする「医療事故調査制度事例検討研修会」を、11月9日(水)に予定している。
 また、演習を含む2日間の「院内医療事故調査の指針 事故発生時の適切な対応研修会」を12月10日(土)・11日(日)に予定している。
 本委員会の今後の展望は、紙幅の都合で、全日本病院学会雑誌第27巻1号で紹介予定である。
【参考文献】
1 .飯田修平編著:院内医療事故調査の指針 第2版 メディカ出版 2015
2 .全日本病院協会『医療事故調査制度に係る指針』プロジェクトチーム:医療事故調査制度に係る指針全日本病院協会 2015h ttp://www.ajha.or.jp/voice/pdf/150821_1.pdf
3 .日本看護協会・医療事故調査制度に関する普及啓発委員会:医療に起因する予期せぬ死亡又は死産が発生した際の対応 日本看護協会 2015
4 .飯田修平編著:医療信頼性工学 日本規格協会 2013
5 .日本品質管理学会・医療経営の総合的「質」研究会:医療事故調査制度に関する声明 日本品質管理学会 2014http://www.jsqc.org/iryojiko.html
6 .厚生労働省医政局:地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律の一部の施行(医療事故調査制度)について(省令・通知)2015. 5. 8http://www.pref.mie.lg.jp/IRYOS/HP/iryosoudan/270508tuuti.pdf
7 .飯田修平:医療事故調査制度の概要および具体的な対応の指針 看護Vol.67, No.13 2015. 11

 

全日病ニュース2016年9月1日号 HTML版

 

 

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  • [2] (医療事故調査制度)について(厚生労働省医政局長:H27.5.8)

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