全日病ニュース
姜尚中氏が市民公開講座で講演
姜尚中氏が市民公開講座で講演
「災いの時代の自力と他力の関係を考える」
熊本出身の政治学者・姜尚中氏(熊本県立劇場館長、東京理科大学特任教授)を招いて行われた市民公開講座は、4,000人を超える応募があり、抽選で選ばれた300人が熱心に講演をきいた。
「災いの時代を生きる─自力と他力の結び付き」をテーマに講演した姜尚中氏は、経済の低迷や相次ぐ自然災害をあげて、「きわめて不確実性の高い時代になった」と指摘。不安の時代を生きるために自力と他力の関係を考え直し、社会関係資本をつくり直すべきだと語った。
普通に暮らすことの大切さ
講演の前には、映画「うつくしい人」が上映された。熊本出身の行定勲監督が熊本を舞台に制作した映画で、姜氏が主役を演じる。「昨年10月に阿蘇の草千里で撮影した。震災以前の熊本が映像に保存されたことはよかった。熊本の美しい光景が映画の主人公」と紹介した。
熊本は日本一といわれる水体系を有し、豊かな自然環境に恵まれる。しかしその自然がときに牙を剥き、生活を脅かす。4月の熊本地震によって住まいを失い、今も仮設住宅で暮らす人がいる。「戦後の日本は普通の人が普通の暮らしができる社会を築いてきた。普通の暮らしが一番しあわせであることを映画はメッセージとして伝えている」。
阪神淡路大震災以降、大規模な自然災害が相次いでいる。「自然災害によって、どうしようもない状況になったときには他力に頼らざるを得ない」。
歴史的にみて、天変地異が続いた時代に苦しむ人々を救うために新興宗教が生まれた。浄土真宗・親鸞の「他力本願」の教えもその一つだ。
「人間には、どうしようもない境遇におかれた人に共感する能力が備わっていて、その力が災害時のボランティアとなって現れる」(姜氏)。
しかし、経済の長期低迷が続く中でみんなが生活の防衛を考えなくてはならなくなっている。「余裕がなくなると、他力を望んでいる人に手を差し伸べられなくなる。その傾向がこの10年で顕著になっている」と姜氏は指摘する。
相次ぐ自然災害に加えてリーマンショックのような世界経済の乱調が、人々の生活に大きな影響を及ぼす。不確実性の高い時代となり、みんなが不安を抱えて生きている。「こうした時代に自力と他力の関係をどう考えるか」と姜氏は問いかける。
社会関係資本をつくり直す
「震災の経験から学ぶことは、社会関係資本の大切さだ」と姜氏は述べる。
阪神淡路大震災では、近隣のネットワークがある地域は死者の数が少なかったという。自衛隊や警察より先に隣近所の人が救助に当たった。こうした地域のつながりが社会関係資本だ。「社会関係資本が潤沢にあるところほど、安心・安全の市民生活が守られることがわかった」(姜氏)。
姜尚中氏は、地域の歴史や伝承を確認し、郷土愛を高め、人と人のつながりを強くすることを提案した。「そこに他力の力がある。もう一度、社会関係資本をつくり直す時代になっている」と語りかけた。
全日病ニュース2016年11月1日号 HTML版