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地域医療構想の現状と今後の対応

地域医療構想の現状と今後の対応

【シンポジウム】
現状のままでも病床数が収れん

 学会企画のシンポジウム「地域医療構想の現状と今後の対応」では、5人の識者が登壇した。地域医療構想をめぐっては、必要病床数(病床必要量)の全国推計が出て、当初は病床削減の手段と誤解されたが、シンポでは、地域の実情に応じた提供体制をつくることが重要であることを再確認。特別な対策を講じなくても、多くの地域で、現行の病床が医療機能別の需要に見合ったものに収れんする過程にあることもわかった。
 国際医療福祉大学の高橋泰学部長は、地域医療構想が想定する「2015年の病床数」と「2025年の必要病床数」のかい離を比べるだけでなく、現状で地域の病床がどう変化しているかを分析することが重要だと指摘。全国の二次医療圏について、過去10年(2004年→2014年)の変化を調べた。
 それによると、過去10年間で病床数は7万3,600床ほど減少。最も減少したのは、愛知県の名古屋▲1,886床、次いで東京都の区中央部▲1,690床、大阪府の大阪▲1,502床だった。減少割合では、長崎県の上五島が▲61%(▲148床)で最も高い。逆に、最も病床数が増えたのは千葉県の松戸の1,039床(15%)だった。
 過去10年間の傾向がつかめれば、今後もこの傾向が続くと予想される。高橋氏は「何もしなくても、地域医療構想の目標に近くなる地域がかなり多いことが予想される」と述べた。近森病院(高知)の近森正幸院長は、高知県が日本の将来を先取りした状況にあるとした上で、「激烈な機能分化と淘汰が進行している」と述べた。高知県は人口が減少し、所得は低い。患者が限られる一方で、病床数は多い。
 高度急性期・急性期は基幹病院に集中しつつあり、「機能分化できずに急性期で競合する中小病院は、経営悪化に陥り、ベッドを減らしている」と報告した。
 地域医療構想が目指す医療に向けては、2018年度の診療報酬改定で手が打たれている。特に、高度急性期・急性期は、「重症度、医療・看護必要度」の基準見直しなどで、患者の絞込みが行われており、「在院日数が下がり、回転率が速くなるとともに、重症患者の取合いが起きている」。患者を確保できなければ、病床稼働率が低下し、患者1人当たりの単価も下がる。その上で、「あと4〜5年で地域医療構想の必要病床数に収れんするだろう。だが医療機能の向上により、地域の医療体制は支えられる」と近森氏は述べた。
 平成立石病院(東京都)の猪口正孝理事長(全日病常任理事)は、東京都の地域医療構想をめぐる状況を報告。
 東京都は今後医療需要が増大し、2025年には現状より病床数を8,000床以上増やさなければならない。「これは地域の診療体制を変える500床の病院16施設分だ」と指摘。地域に与える影響が大きいとした。その上で、「単純計算だと、東京の各病院が8%ずつ病床を増やせば足りる。だが東京は土地がないので、それは不可能」と述べ、「空いた土地に病院を建てられるのは、他県からの医療法人」との懸念を示した。人手不足がさらに深刻になる可能性も高いとした。
 その対応として、現状の病院が稼働率を上げることで、不足する病床数を少なくできるとの見方を示した。
 猪口氏は、東京都では2025年には5万人以上の在宅医療患者を追加的に支えなければならないと指摘。「療養病床は自宅からの入院が少なく、自宅に帰る患者も少ない。『ほぼ在宅、時々入院』を支えるのは、地域に密着した急性期・回復期を担う中小病院だ」と強調し、医療機能の明確化を促した。
 織田病院(佐賀県)の織田正道理事長(全日病副会長)は、医療計画と地域医療構想の関係を整理する厚労省の「地域医療構想に関するワーキンググループ」の議論を報告した。地域医療構想が病床削減を目指すものではないことを強調するとともに、「退院後の受け皿をどのように整備するかが重要だ」と主張した。
 基準病床数と必要病床数(病床の必要量)との関係では、地方は将来の必要病床数が現状の既存病床数を下回るが、大都市は逆に、必要病床数が既存病床数を上回る。さらにこれまで大都市は基準病床数が足かせとなり、病床を増やせなかったが、今後この基準病床の急激な増加が想定され、既存病床を超えることが予測されるため、医療計画上の基準病床数の過不足を毎年チェックすることになったと報告した。
 将来の医療需要は地域により異なるため、現場の実態を把握することが不可欠だ。織田氏は、医療者が積極的に地域医療構想調整会議に参加することを促した。さらに、地域医療構想の目的が病床削減ではないことを明示するよう、都道府県に求めることを提案した。
 産業医科大学の松田晋哉教授は、地域医療構想の基本的な考え方を説明。
 データに基づき医療機関に自己決定を求めるものだとした。
 松田教授は政府の「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」の会長代理。同調査会は地域医療構想の全国推計を行っている。松田教授は、慢性期の需要について、「療養病床や介護施設、在宅等の合計であるのがポイント」と指摘。「地域により事情が異なる。在宅医療が難しく施設が望ましい場合もある」と述べた。
 今後急増する患者像として、75歳以上の女性患者が特に多くなるほか、疾患では、脳血管疾患、慢性心不全、肺炎、骨折が中心になるとした。その対応として、急性期の段階からの医療・介護のネットワーク化が不可欠になると主張した。

 

全日病ニュース2016年11月1日号 HTML版

 

 

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