全日病ニュース

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医療安全管理者講習会を開催

医療安全管理者講習会を開催

事故の要因分析(RCA)と未然防止(FMEA)の手法学ぶ

 医療安全管理者継続講習(演習)会が10月1日・2日に全日病で行われ、RCA とFMEA の手法を用いた医療安全管理の進め方をグループワークで学んだ。
 冒頭に挨拶した西澤寬俊会長は、「医療事故調査制度が施行されて1年が経過し、全日病は支援団体として具体的活動を開始している。医療安全は病院を運営していく上で非常に重要であり、医療安全管理者の責任は大きくなっている。講習会で習得した内容を医療現場で活用し、質が高く組織的な医療の提供に結び付けてほしい」と述べた。
事故報告書をもとにグループ討議
 講習会は2日間の日程で、1日目にRCA を、2日目にFMEA を学んだ。RCA(Root Cause Analysis、根本原因分析)は事故の原因分析と再発防止が目的であり、FMEA(FailureMode and Effects Analysis、故障モード影響解析)は事故の未然防止を目的とする。
 講習会では、飯田修平常任理事が演習の進め方や留意点を説明した後、さっそく演習に入った。
 RCA の手順は、①出来事流れ図の作成、②背景要因の洗い出し(なぜなぜ分析)、③因果図作成、④対策立案と進む。①の出来事流れ図の作成で、事実関係を時系列で考え、②要因の洗い出しで、各事実がなぜおきたかの疑問をあげ、疑問に対する原因を記載する。疑問が出てこなくなるまで繰り返し、それ以上追及できなくなれば、それが根本原因である可能性が高い。なお、根本原因は一つとは限らない。
 参加者は、6人ずつのグループに分かれ、事前に渡された事故報告書をもとにグループごとに出来事流れ図の作成に着手した。課題となった事例は、リウマトレックスの投与過誤事例。関節リウマチ(RA)でリウマチの外来に通院していた患者が下血を訴えて、消化器内科に入院したが、その際に患者の家族が外来で処方されたリウマトレックスを持参。研修医が持参薬の与薬を指示したが、服用方法の誤りにより患者が死亡した。
 リウマトレックスの成分であるメトトレキサートは、白血病の治療に用いられる抗がん剤でもある。難治性の慢性関節リウマチの治療薬として開発され、十分な知識を持った医師が使用することが求められる。事例は、1カ月分の薬剤(1週間に1回・4日分)を連続4日間、投与した。
事故調査委員会を想定して演習
 事故発生報告書は完全なものではなく、原因を究明する上で足りない部分がある。このため、事故の当事者に対するヒアリングを行う必要がある。
 研修会では、実際の事故調査委員会を想定し、講師陣が事故の当事者となって壇上に上がり、参加者の質問を受けた(写真)。ここで大切なのは、誤りを責めないこと。責任追及が目的ではなく、原因の究明が目的だからだ。
 「薬剤師が投薬をチェックしていなかったのか」「お薬手帳は確認しなかったのか」などの質問に当事者役の講師が答えた。
 ヒアリングを踏まえ、出来事流れ図を修正。さらに出来事流れ図をもとに要因分析の作業に入り、なぜ事故が発生したのか、根本原因を追及した。
 一通りの作業を終え、各グループが発表した。一つひとつの出来事を深堀りして検討した経過を報告する。飯田常任理事は、「論理の飛躍がある。これでは改善につながらない」と指摘し、適切な要因分析を求めた。
輸血をテーマにFMEA を演習
 2日目には、輸血業務をテーマにFMEA(故障モード影響解析)の演習を行った。FMEA では、各工程で起こりえる不具合を想定し、不具合による現象・影響を検討し、対策をたてる。不具合の発生頻度、影響度、検知難易度を点数化して危険度を求め、FMEA シートを作成し、危険度の高い業務工程を抽出して対策を検討する。
 参加者はグループごとに輸血伝票の照合確認から輸血開始まで、輸血業務における18工程について、不具合の影響を考察して発表した。
 RCA とFMEA は、産業界で使われている安全管理手法。飯田常任理事は、「これらを使わない限り、未然防止と事後対応はできない。みなさんが指導者になって、医療安全に取り組んでいただきたい」と呼びかけた。

 

全日病ニュース2016年11月1日号 HTML版