全日病ニュース

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医療事故調査制度の概要と対応の問題

医療事故調査制度の概要と対応の問題

【医療の質向上委員会企画】

 医療事故調査制度(以下、本制度)成立後2年半、施行後1年が経過したが、医療関係者の理解は十分ではない。
 また、対応が悪い団体や病院があるという、患者・遺族、マスコミ、政治家等の指摘が多く、本年6月には極めて厳しい見直しが予想された。しかし、改正は最小限であった。
 本企画の目的は、本制度の立法の趣旨・概要と対応の問題を提示し、適切に理解していただくことである。
医療事故調査制度の概要と対応の問題 (飯田修平)
 本制度成立に向けた検討の経緯を解説した。厚労省の「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」報告書(2013.5)に基づいて、本制度が成立し(2014.6)、2年後に見直された(2016.6)が、医療法施行規則改正は最小限であった。医療事故調査と事故対応、原因究明・再発防止と責任追及・補償・納得の混同等運用の問題がある。そして、制度の理解が不十分であるために事故報告が適切でない場合が少なくない。その要因は、複数団体の指針が、法令の趣旨とは異なる、とくに、‘ 医療に起因する’ と‘ 予期しない’ の判断に関する解釈である。本委員会開催の研修会への参加、『院内医療事故調査の指針』、DVD 等を参考に、適切に対応していただきたい。
医療事故調査制度の位置づけと諸外国の状況 (長谷川友紀)
 医療事故の問題はほぼ同時期(1990年代)に世界中を席巻したことを、医療事故報道件数の推移のグラフで示した。日本においては、1999年の横浜市立大学病院事件と都立広尾病院事件である。政府の役割として、安全確保体制の構築に向けて、医療事故情報の収集と分析、報告制度、安全担当者養成等種々の施策をとってきた。2014年医療事故調査制度を制定し、院内医療事故調査を義務付け、その組織と手法に一定のルールを設けた。
 医療は安全かといえば、歴史的には必ずしも安全とは言えなかった。麻酔法、感染対策(消毒法、抗菌剤)、輸血等の進歩により安全確保が進んだ。
 病院のマネジメントシステムの構築が重要である。
 医療安全に対する各関係者の考え方の違いが鮮明になった。本制度への非協力的態度は、メディア等の批判にさらされ、事故報告が強制化され、遺族からの届け出、報告書交付義務も検討されるにいたった。
医療事故調査報告制度~病院管理者の立場から~ (永井庸次)
 安全における病院管理者の役割と、安全管理者・リスク管理者の役割の違いを解説した。ひたちなか総合病院の実態を報告した。死亡事例については、診療情報管理士が、心肺停止、急変、30日以内の再入院等の項目をチェックし医療安全管理室に報告する経路と、各部署が医療安全管理室に報告する経路がある。
 医療事故が発生した場合には、上記報告を受けて、院長が判断し、臨時の院内医療事故調査委員会を設置する。
 委員長は医療安全管理センター長(副院長)であり、支援団体である全日病に外部委員を依頼する。院内医療事故調査委員会は医療安全専従者を中心に事情聴取し、必要があれば遺族にも聴取する。原因究明・再発防止が目的であり、責任追及ではない。医療事故調査と並行して、遺族への説明・対応、当事者への対応が必要である。信頼関係の醸成が重要である。複数施設にまたがる事例の対応が課題である。
 医療の質向上・安全確保のためには、固有技術と管理技術の両方が重要であり、プロセス(工程)で質を作りこむ、TQM(総合的質経営)を達成できる基盤づくりが必要である。
 患者、遺族、国民の信頼を得るためには、組織を挙げて、質向上による、安全確保の努力が必須である。本制度への適切な対応が求められる。

 

全日病ニュース2016年11月15日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 医療事故調査制度に係る指針(H27.8)

    http://www.ajha.or.jp/voice/pdf/150821_1.pdf

    13. 〈本制度の対象事例と判断した時の報告事項〉. 〈院内医療事故調査終了後の報告
    事項〉. 9 遺族への説明. 14. 10 遺族への説明事項. 14. 11 医療事故調査・支援
    センター. 15. 12 医療事故調査・支援センターの業務. 15. 13 医療事故調査等支援団体
    . 15.

  • [2] 診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究 研究報告書

    http://www.ajha.or.jp/topics/kouseiroudoukagaku/pdf/h26kk_houkoku.pdf

    2014年12月24日 ... 診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究」. 総括研究報告書. 研究代表者
    全日本病院協会会長 西澤 寬俊. 研究要旨. 平成 26 年の通常国会に医療事故調査
    制度の創設を含む医療介護総合確保推進法案が提出され、6 月.

  • [3] (医療事故調査制度)について(厚生労働省医政局長:H27.5.8)

    http://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2015/150511_3.pdf

    の整備等に関する法律の一部の施行(医療事故調査制度)について ... なお、改正後の
    医療法第 6条の 11第 2項に規定する「医療事故調査等支援 .... 投薬・注射(輸血含む)
    に関連するもの ..... 本制度の目的は医療安全の確保であり、個人の責任を追及.

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