全日病ニュース

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西澤会長「 医療事故調査制度は医療提供側が自律的・自主的に取組むべきもの」 神田医政局長「 医師偏在対策の必要性ではコンセンサスができた」

【変革期の医療政策を語る 新春座談会】

西澤会長「 医療事故調査制度は医療提供側が自律的・自主的に取組むべきもの」
神田医政局長「 医師偏在対策の必要性ではコンセンサスができた」

神田 部署をつくるかはともかく、いまの市町村には医療の直接的な権限、業務がありません。生活圏域で、地域包括ケアシステムをつくっていくとすると、まず、訪問看護ステーションや訪問診療をしてくれる在宅療養支援診療所・病院が必要となります。ただ小さな町や村で、必要な医療を整備するのは難しい。そこは、保健所を活用しながら、都道府県がリーダシップをとっていかないと難しいと思います。
西澤 我々の会員病院は医療だけでなく介護も担っています。訪問看護ステーションやデイケアにも取り組んでいますし、地域包括支援センターの委託を受けています。地域に密着した民間病院が医療・介護の総合的なノウハウを持っていますので、ぜひ地域の民間病院を活用していただければと思っています。

●医師の需給と 偏在対策

西澤 医師の偏在対策について、現在の検討状況を教えてください。
神田 医療従事者の需給に関する検討会で昨年6月に中間取りまとめをして、その中で施策のメニューを示しているので、それについて検討することになっています。大臣の意向を踏まえ、偏在対策についてはもう少し根本的な議論を踏まえて検討するということで、「新しい医療のあり方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が設けられて、議論をしています。
 中間まとめの際に医師の需給推計を示していますが、これは現在の配置を前提にして、将来急性期が減って回復期が増えたらどうなるか、あるいは、急性期の医師が今は週57時間働いているのを診療所や慢性期の病院と同じくらいの週46時間に労働時間が減ったらどうなるかは織り込んでいますが、医療のあり方が変わったらどうなるかということまで織り込んではいません。
 そこで、AI やICT の普及、あるいは多死社会が到来する中で、新しい医療のあり方とそれを踏まえた医師、看護師の働き方や養成・確保のあり方についてビジョン検討会で議論しています。
 その議論を踏まえながら、具体的な医師偏在対策について、医師需給分科会、最終的に医療部会で議論していただくことになると思います。神野 検討の時間軸が気になります。ビジョン検討会の結論はいつ頃になるのですか。
神田 そもそもこの話は、医学部定員の扱いに端を発していて、2008年~ 2009年に暫定的に医学部の定員増(313人)をしました。それが2017年度に切れてしまいます。また、2010年度以降の臨時定員増の2020年度以降の扱いを決めなければいけません。検討会では、将来的には需給が均衡して過剰になるので減らしていくべきだという意見と、医師はまだまだ足りないので増やすべきだという意見の両方がありました。
 医学部定員を絞るべきだという方々は医師不足の本質は偏在であると言っているし、一方で、医師を増やしていく立場に立ったとしても偏在対策を講じないまま増やしていくのは適当ではないということで、どちらの立場をとったとしても偏在対策をきちんとやった上での議論だという点についてはコンセンサスができたと思います。目先の検討が早い、遅いということはあったとしても平成32年度以降の扱いについて意見を収れんしていくには偏在対策の議論は避けて通れないと思うので、その議論をしっかり行うことが大切と考えています。
神野 それを聞いて安心しました。偏在対策をしないなら医師を増やしてほしいと言わざるを得ません。

●看護師の特定行為研修の普及に向けて

西澤 看護師の特定行為研修制度が2015年10月にスタートして1年が経過しました。全日病は指導者講習会を実施して積極的に取り組んでいますが、なかなか進んでいないようです。
神田 10万人養成の目標を掲げていますが、現状では研修機関が28機関、年間の定員は400人強となっています。
 特定行為研修については、制度改正の際の議論でも、研修が受けられないからといって別の病院に看護師が行ってしまうことがないように、つまり現場を離れないと研修が受けられないことにならないように十分配慮してほしいという話がありました。その意味では、28という数字は少ないと思うし、各都道府県に最低1つは研修機関をつくる必要があります。
 この制度は、医師が足りない中で、安全性を確保しながら、一定の行為について手順書に基づいて看護師が行うようにしようという仕組みです。在宅医療や訪問看護の現場でニーズが高いと言われているので、現場のニーズを持っているところに積極的に取り組んでいただくことが大事です。全日病をはじめとする病院団体や在宅医療、訪問看護の方々とよく話し合い、できるだけ現場の負担を少なくして、特定行為を行う看護師を育てていきたいと思います。
神野 全日病では、e -ラーニングや指導者講習に取り組んでいますが、新たに指定研修機関になるための研修(なるため研修)を実施し、情報を共有しながら、どうやったら指定研修機関になれるかを講習していこうと思います。
 また、昨年は、研修を終えた第1期生が出たので、これからその人たちがどういう仕事をしているかをアピールしていこうと思います。
神田 研修修了者の実態調査をすることになっていますので、その人たちがどのように活躍しているのかを取り上げて積極的に発信していきたいと思います。

●医療事故調査制度への理解を広げる

西澤 医療事故調査制度が施行されて1年が経ち、昨夜6月には見直しが行われました。報告数が少ないなどの指摘がありますが現状をどうみていますか。
神田 1年が経って制度に基づく報告数は388となっています。当初は1,300~ 1,500といわれていたので、それと比べると少ないことになりますが。これは「医療事故情報収集等事業」に基づく予想で、医療事故の定義が違いますので、それと比較して多い、少ないを議論するのは適当ではありません。
 一方で、相談事業に寄せられる相談の6割は、事故に該当するかどうかの判断や手続きに関するものです。制度がはじまって1年の創成期なので、しっかり育てて定着させることが大事です。
 昨年6月には、自民党の医療事故調査制度の見直し等に関するワーキングチームで、見直しの議論がありました。
 医師法21条との関係をどう考えるかという問題があり、論点整理ができているから、それを優先的に議論してはどうかという話と、より本質的な業務上過失致死との関係も含めて医療行為と刑事責任の関係を議論すべきだという話がありました。いずれにしろ、そういう議論をするには時間が足りないということで、6月の段階では、当面、制度の運営面での改善事項について、とりまとめをしました。
 制度が定着して国民の信頼を得ていくためには、報告されるべきものが報告されてしっかり調査されることが大事です。そのために院内で死亡事例を把握する体制をつくっていただく必要がある。また、医療事故に該当するかの判断や調査についても丁寧に行っているところとそうでもないところがあるので、支援団体の協議会をつくって事故についての判断や院内調査、あるいは支援の仕方も含めて、意見交換や情報交換をしていくことになりました。西澤 正直言って医療提供側も患者側も制度をよく理解していません。双方に周知徹底していく必要があります。
 昨年の見直しは、私たちがしっかりしていないが故に行われたということで、くやしい思いをしています。この制度は、私たち提供側が自律的・自主的に取り組むべきものであり、外からこうしろと言われてやるものでありません。
 そのことを会員に周知していこうと思います。

●災害医療のノウハウを蓄積

織田 2011年に東日本大震災があり、昨年は熊本地震があり、大きな災害の都度、対応をとってきた結果、私たちもそれなりのノウハウを蓄積してきました。今後、どんな災害がおこるかわからず、災害対策を充実していく必要があると考えています。
神田 昨年の熊本地震では、全日病からAMAT を派遣していただき、ありがとうございました。東日本大震災の教訓から検討会を設置し、議論してきましたが、例えばDMAT では、ロジスティクスが大事だということで、熊本地震では、現地のDMAT 派遣調整本部に災害医療センターから直接ロジスティクスチームが入って調整業務を担いましたし、DMAT からJMAT、AMAT への引き継ぎについても以前に比べて改善されたと思っています。
 一方で、今回の震災では、DMATの活動時期から通常の避難所の医療確保にニーズが移っていく時期に、きめ細かい地域のニーズを汲み上げる部分が十分ではなかったと指摘されています。どこの避難所にどんな人がいるかも含めてきちんと引き継いでいけるようにするために、もう少しきめ細かい単位で、被災地の医療ニーズをくみ上げる人材が必要だと考え、地域の災害医療コーディネータを2017年度予算で要望しています。
 今後、さらに規模の大きな震災も予想されますので、DMATのチーム数を増やすなどの取組みをしていく必要があると思っています。
安藤 熊本地震では、全日病のAMATがフル活動し、物流についても熊本と福岡で会員病院が拠点となって、比較的早い段階でデリバリーができたと思っています。また、災害時には看護師が不足し、疲弊してしまいます。今回、AMAT の活動によって、看護師を含めてコメディカルを支援することができたことはよかったと思っています。
西澤 これまで災害医療というと、一部の病院が対応していましたが、今はすべての病院が参加しています。これからどんな災害がおこるかわからないので、私たちも一体となって対応していきたいと思います。

 

全日病ニュース2017年1月1日・15日合併号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 全日病ニュース・紙面PDF(2016年1月1日・15日合併号)

    http://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2016/160101.pdf

    5面/. 医政局長. VS正副会長座談会. 「. 本番を迎える医療制度改革. 」 6. ・. 7面/. 四.
    病. 協. 4. 会. 長. 座. 談. 会. 「. 医. 療. 改. 革. 、 .... いきます。また、医師・看護職員等の
    需給については、地域医療構想との .... 策として、病院を訪問しての支援事業、年2回の
    支 ..... 神田医政局長「将来推計と現状から課題を導くだけでなく、あるべき姿も議論して
    ほしい」 .... 看護ステーションに東京や大阪に出て ..... めぐるコンセンサスができている。

  • [2] 平成22年度 事業報告・決算

    http://www.ajha.or.jp/about_us/plan/kessan_h22.pdf

    2010年4月1日 ... 修事業としては、トップマネジメント研修、事務長・看護部門長研修、医療安全管理者.
    養成課程講習 .... 7月1日 厚労省医政局長へ要望書提出(厚労省). 7月2日 ...... スター
    会議室神田 神田アビベル5階. 1. ...... 医療機関や訪問看護ステーションとの連携が
    必要とな. る。 .... うにすることを、国民的コンセンサスを形成した上で、.

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