全日病ニュース

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勤務医と開業医を分けて医師需給を議論すべき時期がきている 薬価の毎年改定をすれば薬剤費は高止まりに

【「医療制度の変革期における病院団体の役割」 四病院団体協議会 会長座談会】

勤務医と開業医を分けて医師需給を議論すべき時期がきている 薬価の毎年改定をすれば薬剤費は高止まりに

加納 税金を堂々と払って持分ありでやるという人はそうしたらいいと思います。ただ、持分を放棄することによって補助金などで公と同じ条件にしてもらうのは私たちも望むところです。

医療法の人員配置基準は撤廃すべき

西澤 2018年度は、診療報酬と介護報酬の同時改定が予定されています。昨年の改定では、7対1入院基本料の基準が大幅に見直しになりました。次期改定に何を望みますか。
山崎 昨年11月に「精神医療保健福祉を考える議員懇談会」で話題にしたのですが、医師の人員配置基準を医療法から撤廃してほしいと話しました。
 医療法の人員配置基準は診療報酬と連動していますが、医師や看護師の数で診療報酬を決めているのは世界中で日本だけです。医療法は、戦後にGHQ によってつくられましたが本国のアメリカでも人員配置基準はありません。病院長が自分の病院にはどれだけの医師や看護師等のスタッフが必要かを決めています。議員から、診療報酬は何に連動すればよいかと質問があったので、私は重症度だと答えました。
 また、入院基本料が入院日数に応じて逓減することもおかしい。重症で入院が長引いているのにどうして診療報酬が半分になってしまうのか。患者の重症度に応じて診療報酬を評価する抜本的な改革をしてほしいとお願いしました。人員配置基準の撤廃を含めて検討するという話でした。
 確かに海外で看護師配置7対1の話をしても理解されません。看護が大事なのは否定しませんが、看護師の配置で入院基本料を決めるのはおかしいのです。
加納 昨年の診療報酬改定で、「重症度、医療・看護必要度」の基準が25%になりました。その影響が各地で出ています。重症度の基準に適合する患者の取り合いのようなことになって地域の医療を混乱させている。重症度の基準は、しっかり議論して決めないと危険であると昨年の改定をみて感じます。
 画一的な人員配置で診療報酬を評価している国は世界にありません。人員配置を含め運営そのものを病院に任せる形に改める必要があります。最終的には、患者に判断してもらうことになる。選ばれない病院には患者が来なくなります。
西澤 具体的にどうするかは、諸外国に学べばいいと思います。一つは疾病分類の考え方です。日本のDPC とそのもとになったDRG は疾病分類によってコストを評価しています。タイムスタディをすれば、疾病分類に応じた看護師の必要数は出てくるでしょう。
 急性期はDPC の疾病分類を活用すればある程度のことができると思います。
 一方、慢性期については、現在の医療区分・ADL 区分は、まさしく同じ発想で導入されたものです。タイムスタディに基づき医療の必要度とADLの状態で分けて、診療報酬の重み付けをしたのです。分類はよかったのですが、タイムスタディに基づくコストと全く違う点数をつけてしまったことが問題です。
 患者の状態像で区分すれば自然に必要なマンパワーは明らかになる。それをきちんと提示してその病院ではどのような患者を診ていて、そのためにどれくらいのスタッフが必要であり、今はこれだけいると示せばよいのです。
 質の評価については、個々の患者が評価するのは難しいので第三者評価の仕組みがあります。第三者評価と各病院の自己評価をうまく組み合わせればいいものができるはずです。

薬価の毎年改定は現実的ではない医療機関はコスト増に

西澤 消費税は10% への引き上げが延期されました。我々は社会保障の財源として、消費税率を上げるべきだと主張してきましたが、引き上げが延期されたことで、2018年の診療報酬・介護報酬同時改定は厳しいものになると言われています。一方、昨年末には、薬価制度の見直しが議論になり、毎年改定の話も出ています。
 薬価の毎年改定はやってできないことはないでしょうが、現実的ではないし、それで出てくる財源は医療財源ではなく国庫に入るでしょう。病院は今まで薬価差益があったので何とかやってこられた面がある。それがなくなり、さらに消費税の損税負担が増えるのでは、病院に死ねと言っているのかと思いますね。
山崎 毎年改定したいのならばいっそ、薬も医療材料も国が買い上げて現物で医療機関に支給すればいいのです。そうすれば薬価調査の必要もない。
加納 薬価改定が行われるのは、各病院が経営努力をしている結果です。薬価差益は既にないに等しいのですが、それでも経営努力して2年かけて薬価を下げた分が薬価改定に反映されてきたのです。毎年の改定になると、そういう努力も行われなくなるし、公的な買上げにすれば、高値安定の世界になる可能性があります。
西澤 1年に複数改定の話も出ていますが、それをすれば薬価は高止まりするでしょう。また、改定のたびに病院はシステムを入れ替えなければならないし、医療現場の出費は大きくなるのです。
 ところで、消費税の引き上げは延期されましたが、控除対象外消費税の問題が残っています。
加納 我々としては、消費税は早く上げていただきたいという立場ですが、一方で控除対象外消費税の問題がまだ片付いていないわけです。10%引き上げの時期が延びたので、この期間を使って課税も含めてしっかり取り組んでいきたいと思います。

保険医の定数を決めて偏在対策を進める

西澤 昨年は、厚労省が医師の需給推計を出して、医師数を今後も増やすかどうかをめぐって議論になりました。
山崎 厚労省の需給推計は、大雑把で積算根拠がはっきりしていない。
西澤 これまでも医師の需給を推計しているが、予測が当たったことがありません。医師は常に足りない状況が続いています。世の中の変化を読めないということもあるわけです。
 人口が減る中で医師の数はどれだけ必要かという話になるので難しいのですが、当面は今の仕組みを続けていくしかないと思います。一方、診療所は競争が激しくなっていて、日本医師会は今でも医師は多すぎると考えているわけです。
山崎 日医は、医師は多いと言うけれど、病院は全く違う。やめてほしいと思う医師に「やめてください」と言える病院なんて1割もないですよ。
加納 勤務医と開業医の数を厳格に分けて整理しなければいけない時期になっていますね。開業医については、日医が主張するように過剰に近づいているのかもしれません。そうであるならば必要な数を示していただいて、それをドイツのように保険医の数で制限する形にしたらどうでしょうか。
 病院の勤務医はまだまだ厳しい状況です。医師の勤務実態に関する調査が行われていますが、その結果が公表されれば勤務医ががんばって働いていることがわかるでしょう。労働環境を考えれば医師が足りないことは明らかになるはずで、そうなれば、いつまでもに、どのように医師需給を高めて行くか、答えが出てくるでしょう。
西澤 将来推計の方法は精緻化する必要がありますが、難しい面もあります。
 医学の進歩で医師の需要は増えています。少子化なのでどんどん増やせばよいということでもないのですが、今足りないことは事実なので、この辺はしっかり議論する必要があります。病院団体としては今は足りないから医師は増やすべきだという立場です。また、医師需給の問題と同時に偏在対策をきちんと考える必要があります。医師の偏在を放置したままでは、いくら養成しても医師不足は解消しないでしょう。

専門医制度の円滑なスタートに向けて

西澤 専門医制度については、2017年からの実施が予定されていましたが、地域医療への配慮を行う必要があり、1年延期となりました。
 病院の現場からすると臓器別の専門医は増やしたくないですね。必要なのは総合的に診る医師です。これから高齢者が増えていく中で専門医はどれだけの数が必要なのか、再確認する必要がありますし、すべての医師が専門医になるというのはおかしいと思います。
山崎 全人的な診療ができる総合診療医のような医師が半分いて、専門医が半分というのがバランスとしていいのではないですか。
 残念なのは現在の専門医に、総合診療医に相当するところがないことです。
 日本専門医機構と日医が早く一本化して提案してほしいと思います。
 総合診療専門医といっても、一つではなくて、診療所向けの医師と病院向きの医師があることを理解してほしいですね。その議論が行われていません。
西澤 100を超える専門医資格が乱立して、それぞれの基準があまりに違いすぎるという問題があり、それを整理しようということで新たな専門医制度をつくることになりました。18の基本診療領域に整理されたので、しっかり進めていく必要があります。一方、総合診療専門医は、専門医制度がない中でスタートするので少し混乱していますが、これは他の科と別に考えなければなりません。関係者が協議しながら、きちんとしたものをつくってほしいと思います。
 四病協は日本専門医機構の理事を出しているので、意見をまとめながら、専門医制度が円滑にスタートするように取り組みたいと思います。

病院団体が協力して災害に備える

西澤 昨年は4月に熊本地震が発生し、各団体とも対応されたことと思います。
山崎 日本精神科病院協会は熊本地震でDPAT(災害派遣精神医療チーム)を派遣し、患者の移動を含めてスムーズに対応することができました。この経験を踏まえて、精神科DPAT の拠点病院を各都道府県に2カ所ずつ設置してネットワークで結ぶ計画を進めています。さらに来年度は、DHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)と組み合わせて心のケアも含めた精神科の体制を整えていこうと考えています。
加納 熊本地震では、全日病と日本医療法人協会が一緒になってAMAT という形で展開しました。AMAT は、民間病院どうしが助け合うという基本理念に基づいて創設した災害対応チームですが、今回の熊本地震では現地で活躍できたと自負しています。
 次なる災害時にもしっかり展開できるように準備するとともに、全国的な組織としてさらに整備していきたいと考えています。
 災害医療については、日赤や自衛隊、医師会、病院団体などさまざまな災害医療チームがありますが、これらの連携を図る必要があると考え、日医と四病協で「災害医療を国家として統合するための提言」をまとめました。
 災害医療は、国家事業として国の責任の下に展開する必要があります。災害医療に関する知見を集積し、学術的根拠を背景として災害医療の国家的統合を実現するため、常設のシンクタンクを設立することを提言しています。
西澤 災害時に国民の生命を護るため、我々病院団体が備えを確かなものにしていく必要があります。今後とも団結してまいりましょう。新年早々、有意義なお話をありがとうございました。

 

全日病ニュース2017年1月1日・15日合併号 HTML版

 

 

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    http://www.ajha.or.jp/voice/arikata/2016/06.html

    現行の診療報酬体系を見ると、①~⑥のそれぞれに検討・改善の余地があるものの、
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    に ...

  • [2] 平成28 年度診療報酬改定関連通知の一部訂正及び官報掲載事項の一 ...

    http://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2016/160401_1.pdf

    2016年3月31日 ... 医療法上の許可病床における一般病床が20 ... 30日までの間は、平成28年度診療
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    http://www.ajha.or.jp/news/pickup/20160315/news06.html

    2016年3月15日 ... 今後は、全日病医療保険・診療報酬委員会委員としても、改定説明会やQ&Aの作成に
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