全日病ニュース

全日病ニュース

医療・介護の見直しで社会保障費を抑制

医療・介護の見直しで社会保障費を抑制

【2017年度厚労省予算】
自然増を5,000億円の伸びにとどめる

 政府は昨年12月22日、2017年度予算案を閣議決定した。一般会計総額は97兆4,547億円で、このうち厚生労働省予算は30兆6,873億円で、1.2%(3,763億円)の増となった。厚労省予算の大部分を占める社会保障関係費は30兆2,483億円で1.3%(3,852億円)の増である。内閣府の予算になっている子ども・子育て支援新制度などの予算を合わせると、社会保障費は全体では32兆4,735億円となり、1.6%(4,997億円)の増となった。
 昨年夏の概算要求の段階では、社会保障費の「自然増」を6,400億円と見込んで、経済財政再生計画に基づいて1,400億円を圧縮し、5,000億円程度の伸びに抑えることになった。そのための手段として、医療・介護の給付抑制を行うことを決めている。
骨太方針2015で財政再生計画示す
 政府は一昨年の骨太方針2015で経済財政再生計画を示し、2016~ 18年度の3年間の社会保障費の伸びを1兆5,000億円に抑える方針を示した。景気に配慮して、消費税率の引上げを先送りする中で、財政健全化を進めるための方策として、社会保障の伸びを抑制する目標(目安)を打ち出した。1年にすると5,000億円に抑えることになり、厚労省は難しい予算編成作業を強いられることになった。
 2016年度は、診療報酬と薬価の改定で予算を削減し、社会保障費の抑制を達成した。2017年度は診療報酬・薬価の改定がなく、大きな制度改正も予定されていないことから、達成は難しいと見られていたが、医療・介護の見直しで1,400億円を削り、伸びを4,997億円に抑え、目標を達成した。
 そのための具体策が、昨年12月19日の塩崎恭久厚生労働大臣と麻生太郎財務大臣の閣僚折衝で決まった。医療で▲630億円、介護で▲450億円を抑制するほか、全国健康保険協会(協会けんぽ)の国庫補助額を320億円減額し、合わせて1,400億円となる。
 医療の▲630億円の内訳は、①高額療養費の見直し(▲220億円)②後期高齢者の保険料軽減特例の見直し(▲190億円)③入院時の光熱水費の見直し(▲20億円)④高額薬剤(オプジーボ)の薬価引下げ(▲200億円)である。一方、介護の▲450億円の内訳は、⑤高額介護サービス費の見直し(▲ 10 億円)⑥介護納付金の総報酬割の導入(▲440億円)である。
高額療養費の見直し
 高額療養費制度は、医療費が高額になった場合に患者負担が過大になることを防ぐための制度で、1カ月の医療費の自己負担の上限を定めている。負担上限は、年齢と所得に応じて定められているが、今回は70歳以上の負担を段階的に見直すことにした。
 今年8月から、70歳以上の現役並み所得者と一般所得者の外来の窓口負担上限(外来特例)を引き上げる(低所得者は据置き)(図1)。現役並み所得者は、4万4,400円から5万7,600円とする。一般所得者は1万2,000円から1万4,000円とするが、年間の上限額(14万4,000円)を設ける。また、一般所得者の自己負担限度額(外来と入院を合わせた上限)を5万7,600円に引き上げる。
 さらに、2018年8月から現役並み所得者について、外来上限を撤廃した上で、新たな所得区分による負担上限を設け、細分化する。一般所得者は、外来特例の上限を1万8,000円に引き上げる。
 なお、医療保険と介護保険における1年間の自己負担の合算額が高額になる場合に、負担を軽減する制度として高額介護合算療養費制度があるが、高額療養費制度と同様に、現役並み所得者について所得区分を細分化し、負担上限を引き上げることになった(2018年8月実施)。
 75歳以上が加入している後期高齢者医療制度に対する保険料軽減特例を段階的に解消し、法律本則に戻す。後期高齢者医療制度は2008年に発足したが、当時、制度に対する批判が高まったため、所得割や元被扶養者に対する軽減特例を設けた。今回、制度が安定的に運営されていることを踏まえ、特例の軽減措置を段階的に解消することを決めた。
入院時の患者負担を引き上げ
 入院時の光熱水費相当額の患者負担は、65歳以上で医療療養病床に入院する患者(医療区分Ⅰ)で日額320円から370円に上がる(2017年10月)(図2)。医療区分Ⅱ・Ⅲの患者に対しても、2017年10月から日額200円、2018年4月に日額370円の負担を求める(難病患者は除く)。なお、食事代の引上げは別途、2016年度から実施されている。
 抗がん剤のオプジーボの薬価引下げは、他の項目と若干性質が異なる。オプジーボは、薬価が極めて高額で、適用拡大により医療保険財政に対する懸念が高まったことから、2018年の薬価改定を待たずに、2月から薬価を半額に引き下げることになった。
 介護の高額介護サービス費の見直しでは、2017年8月から一般区分の月額上限を3万7,200円から4万4,400円とする。ただし、1割負担の被保険者のみの世帯に対しては、時限的な配慮がある。現役世代並みの所得者の利用者負担は、2018年8月から3割になる。
 介護納付金の総報酬割は、2017年度から段階的に実施する。すでに実施されている後期高齢者支援金の総報酬割と同じく、被用者保険が負担する介護納付金の按分方法を、現行の加入者割から総報酬割に移行させる。介護納付金の負担方法が、加入者割から総報酬割に変わることで、協会けんぽに投入されている国費が削減される。
 消費税を財源にした社会保障・税一体改革の社会保障の充実は、国・地方分を合わせて、1兆8,368億円を確保した。子ども・子育て支援新制度で1千億円規模の増額を行ったほか、地域医療介護総合確保基金は医療分で904億円、介護分で724億円と、今年度と同額を確保した。
 主に医政局が所管する医療提供体制の確保の予算は、対前年度比130億円増の622億円を確保した。新規では、医師の地域的な適正配置のためのデータベース構築(900万円)がある。新たな専門医の仕組みの導入に伴う医師偏在の拡大防止のため、都道府県協議会の経費を増額するとともに、日本専門医機構のシステム開発の経費を補助する(3.3億円)。在宅医療の推進では8,100万円、医療事故調査制度における医療事故調査・支援センターや支援団体等連絡協議会の運営などの経費では11億円を充てている。

図1 高額療養費制度の見直し

図2 入院時の居住費(光熱水費相当額)の見直し

 

全日病ニュース2017年2月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 2014年度予算案:社会保障費30兆円台に。医療保険:給付の伸びは ...

    http://www.ajha.or.jp/news/pickup/20140201/news03.html

    2014年2月1日 ... 医療保険:給付の伸びは自然増の範囲に抑制|第817回/2014年2月1日号 HTML版
    。21世紀の医療を考える「全日病ニュース」は、 ... 社会保障関係費はそのうちの31.8%
    を占め、30兆5,175億円(13年度当初予算比1兆3,951億円=4.8%増)と、初めて30兆
    円を超えた。 ... 医療費国庫負担の対前年度増加額が概算要求の約3,500億円から約
    1,500億円に減少した要因は、①薬価調査を踏まえた薬価の市場 ...

  • [2] 「自然増を高齢化要因に限定、年平均0.5兆円程とすべし」|第849回 ...

    http://www.ajha.or.jp/news/pickup/20150615/news02.html

    2015年6月15日 ... 社会保障関係費について、その「自然増」には、診療報酬の薬価部分に市場実勢価格を
    上回る過大要求があることや診療報酬本体に高齢化による影響以外に「医療の高度化
    等」など様々な要素が織り込まれていると指摘し、社会保障費全体 ...

本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。