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急性期指標の取扱いに慎重論相次ぐ

急性期指標の取扱いに慎重論相次ぐ

【厚労省・地域医療構想WG】
病床機能の曖昧さ残すことも重要

 厚生労働省は5月10日の「医療計画の見直し等に関する検討会・地域医療構想に関するワーキングループ」(尾形裕也座長)に、病床機能別の2025年の病床必要量と現在の病床数を構想区域ごとに比較したデータを提出。ほとんどの構想区域で急性期が過剰となり、回復期が不足することを示した。その上で、病床転換を進める検討を促した。
  しかし全日病副会長の織田正道委員は、「現場の実態と必ずしも合っていない。
 性急な病床転換は危険で、病床機能の曖昧さを残すのも大事」と訴えた。
 病床機能報告制度では、医療機関が主に担っている現状の病床機能と2025年に予定する病床機能、現在の構造設備・人員配置等に関する項目の報告を義務付けている。2016年度からは医療の内容に関する項目も加わった。病床機能は、病棟ごとに「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」から1つを選ぶ。
 2016年度末で都道府県の地域医療構想が出そろったことを受け、各構想区域(341区域)の2025年の必要病床数と、病床機能報告制度による現状の病床数(2015年分)を比べた。人口減少や高齢化で、病床機能別にみた地域の医療需要は今後変化する。現状では、急性期と報告する病院が半数以上を占めるが今後は回復期の需要が増えると想定されている。
ほとんどの地域で回復期が不足に
 両者の比較をみると、高度急性期では、将来の病床必要量が現状の病床数を上回る病床不足が205区域、病床過剰が126区域、一致したのが10区域だった。ただ厚労省は現状で高度急性期がゼロ床の区域が82区域あり、うち9区域が、「将来の病床必要量をゼロ床として地域医療構想を策定した」と指摘。高度急性期病床が不足する区域は、離島・へき地が多く、厚労省は、「単純に病床の必要量を参考にするのではなく、地域の実情を踏まえ調整会議で十分議論すべき」と強調した。
 急性期は、将来の病床必要量が現状の病床数を上回る区域が13、下回る区域が328で、将来病床が過剰になる区域がほとんどだった。回復期では、逆に、将来の病床必要量が現状の病床数を上回ったのが336区域、下回ったのが5区域で、将来病床が不足する区域がほとんどだった。
 回復期で、病床が過剰になる5区域は、◇北秋田(秋田県)◇沼田(群馬県)◇大田(島根県)◇浜田(島根県)◇有明(熊本県)。有明は現状で、人口あたり回復期病床数が多く、他の地域は今後人口減少が大きく進む。
 慢性期は、将来の病床必要量が現状の病床数を上回ったのが69区域、下回ったのが270区域で、将来病床が過剰になる区域が多かった。
 厚労省はこれらの結果を踏まえ、「多くの構想区域で、急性期機能が多く回復期機能が不足する。急性期機能から回復期機能への機能転換を検討する際に、病床機能報告の具体的な医療の内容に関する項目や『急性期指標』の活用方法について、さらに検討を進めてはどうか」と提案した。
 これに対し日本医師会の委員は、「今は急性期病床が回復期を担っている。
 あまり厳格にすると、医療の包容力が失われる。『見える化』をやりすぎることの危険性がある」と発言。織田委員も、性急な病床転換が地域医療にもたらす悪影響を訴えた。
カテーテル治療ゼロの高度急性期も
 厚労省は同日の検討会に2016年度病床機能報告制度の分析結果を提示。
 2016年度から医療の内容がわかる項目をレセプトから病棟単位で収集している。それにより、報告した病床機能と実際に提供している医療の内容が比べられるようになった。比較の結果、厚労省は「同じ病床機能を選択し、同じ診療科であっても、診療実績に差が認められる」と指摘した。
 具体的な事例として示したのが、循環器内科等で高度急性期と報告した病棟における「病床あたり経皮的冠動脈形成術のレセプト件数」。実施件数を多い順で並べたところ、全764病棟(508施設)のうち、103病棟(48施設)がゼロ件だった(13.5%)。10件以上は296病棟で38.7%、1以上10件未満が365病棟で47.8%となっている。厚労省は「ゼロ件」を問題視した。
  また、医療の内容がわかる項目のうち、全体の平均に対し3倍以上の項目が報告されているものを病床機能別に整理。高度急性期は救命救急入院料や特定集中治療室管理料、回復期は回復期リハビリテーション病棟入院料や地域包括ケア病棟入院料、慢性期は療養病棟入院基本料や障害者施設等入院基本料が多かった。一方、急性期に特徴的なものはなかった。
急性期指標はランキングではない
 奈良県立医科大学教授の今村知明委員が「病床機能報告を利用した急性期指標」を説明した。病院の急性期機能を担う項目を選び出し、比較できるよう標準化したものだ。急性期の病院が満たしそうな項目として、入院基本料等の算定から人員配置、医療機器・院内設備の保有状況、手術件数などをポイントで表して集計。病院ごとに点数化して示している。今村委員は「『優れた病院ランキング』ではなく、地域における病院の立ち位置を把握するもの」と強調した。しかし、構成員より慎重論が相次ぎ、織田委員も、「病床機能報告は病棟の機能を評価するもので、病院として評価するのはおかしい。
 病院ランキングではないというが、都道府県で趣旨が理解されずに使われている。極めて慎重に利用すべき指標だ」と述べた。

 

 

全日病ニュース2017年6月1日号 HTML版

 

 

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