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医薬品の費用対効果で厚労省が具体例示す

医薬品の費用対効果で厚労省が具体例示す

【中医協・費用対効果専門部会】
倫理的、社会的影響等を考慮して評価

 厚生労働省は6月14日の中医協・費用対効果評価専門部会(荒井耕部会長)に、医薬品の費用対効果評価の総合的評価(アプレイザル)の具体例を示した。既存薬より効果は高いが、費用も高い新薬を評価するため、増分費用効果比(ICER)を算出。倫理的、社会的影響等も考慮し、費用対効果の「よい・悪い」を判断する手順を明らかにした。
 今夏に実施する、一般人が質調整生存年を1年延ばすため支払う意思のある金額を把握する調査も了承した。
 厚労省は前回、ICERによる費用対効果の「よい・悪い」と、それに倫理的、社会的影響等の観点から考慮すべき要素を加えた5段階評価の費用対効果評価のイメージを示したが、委員から具体例を示してほしいとの要望が出ていた。今回、その要望に応えたが、実際の医薬品の事例ではなく、理解を促すための仮想例と位置づけている。
 倫理的、社会的影響等の観点で考慮すべき要素には、①感染症対策など公衆衛生的視点②介護費用など公的医療の立場の分析に含まれない追加的費用③長期にわたり重症の状態が続く疾患での延命治療④代替治療が十分に存在しない疾患の治療⑤イノベーション⑥小児の疾患を対象とする治療─が候補になっている。今回は⑥の小児の疾患に対する治療に該当する事例で、アプレイザルを実施した。
 医薬品Aを想定し、費用対効果評価の手順を示した。小児特有の疾患に対する治療薬で、疾患に対する医薬品はすでに各種あるが、予後が悪い。医薬品Aが医薬品Bに置き換わると想定。
 臨床研究の結果、無増悪生存期間は医薬品Aが12カ月、医薬品Bが6カ月、全生存期間は医薬品Aが24カ月、医薬品Bが15カ月となった。費用は医薬品Aが1千万円、医薬品Bが800万円であり、医薬品Aの方が効果は高いが費用も高いという状況だ。
 ICER で計算すると、1QALY あたり500万円という結果で、これまでの調査結果を踏まえると、費用対効果は「よい」と判断される。しかしこの結論は、企業が提出した評価結果なので、厚労省の第三者組織で再分析を行う仕組みになっている。再分析では、費用が1千万円から1,100万円と算出され、ICER は1QALY あたり750万円となった。費用対効果が「悪い」と判断されると仮定した結果である。
 このままでは、費用対効果は「悪い」と判断されるが、倫理的、社会的影響等の観点から考慮すべき要素に該当するため、評価が引き上げられ、5段階評価の中間である「受入れ可能」とされた。5段階評価は1段階目の「とてもよい」から「よい」「受入れ可能」「悪い」「とても悪い」の区分がある。
 全日病副会長(当時)の猪口雄二委員は、「『倫理的、社会的影響等の観点から考慮すべき要素』の大きさには段階を設けるのか」と質問。厚労省は、「インパクトの大きさをどのように反映させるかは、費用対効果評価専門組織で議論してもらう。定量的に評価するのは難しい」と回答した。
支払意思額の調査手法を了承
 ICERを計算するときに用いる支払意思額のアンケート調査の手法を了承した。支払意思額は、1QALYを獲得するために支払ってもよいと考える金額で、金額が上がるほど支払いを許容する人は減り、金額が下がるほど増えることになる。厚生労働科学研究補助金により、国立保健医療科学院の福田敬部長を代表者とする研究班が調査することになっている。
 アンケートは無作為抽出の一般人に対して実施。「完全な健康状態で1年生存することを可能とする医薬品・医療機器等の費用がX円であるとき、公的保険から支払うべきと考えるかを『はい』『いいえ』で尋ねる」としている。
 委員からは、「完全な健康状態というのは一般人にはわかりにくい」などの意見があった。

 

全日病ニュース2017年7月1日号 HTML版

 

 

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    、倫理的、社会的影響を勘案した総合的評価(アプレイザル)を行う。

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