全日病ニュース

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骨太方針2017を閣議決定

骨太方針2017を閣議決定

地域医療構想の実現に向けて2年間で集中的に議論

 政府は、6月9日の臨時閣議で、「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太方針)を決定した。GDP 600兆円の実現を目指して、人材に投資して生産性向上を図る考えを示すとともに、2020年の財政健全化目標の達成に向けて歳出・歳入両面の改革を進める考えを強調。社会保障分野では、地域医療構想の実現や薬価制度の抜本改革に取り組む方針を示した。あわせて成長戦略である「未来投資戦略2017」も閣議決定。遠隔医療を次期診療報酬改定で評価する考えを示した。
 全日病は10日、骨太方針および未来投資戦略に対し声明(下記)を発表。
 地域医療構想の策定に向けて2年間程度で集中的に検討するとしている点について「拙速な議論はすべきではない」と指摘した。
 骨太方針は、日本経済の将来ビジョンと中長期的な目標を示すもので、経済財政諮問会議が作成。2018年度の予算編成の大枠を示している。
 日本経済の現状については、雇用・所得環境が改善する一方で、潜在成長力の伸び悩みや将来不安からの消費の伸び悩みといった課題を抱えていると指摘。人口減少・少子高齢化をイノベーションのチャンスととらえ、「人材への投資を通じた生産性向上」に取り組むべきとしている。
 600兆円経済の実現と2020年度の財政健全化目標(プライマリーバランスの黒字化)の達成を目指すことを確認。
 「経済・財政再生計画」に沿って歳出・歳入両面の取り組みを進めるとした。
地域医療構想の実現を強調
 2018年度は、診療報酬・介護報酬等の同時改定、医療計画・介護保険事業計画の実施、国保の財政運営の都道府県単位化、介護保険制度改正の施行など重要な改革が集中する節目の年と位置づけ、社会保障分野の改革の考えを述べているが、とくに地域医療構想について踏み込んだ記述となっている。
 地域医療構想の実現に向けて、「地域医療構想調整会議」での具体的議論を促進するとした上で、「病床の役割分担を進めるデータを国から提供し、個別の病院名や転換する病床数等の具体的対応方針の速やかな策定に向けて、2年間程度で集中的な検討を促進する」と明記。さらに、自主的な取り組みによる病床の機能分化・連携が進まない場合には、都道府県知事が役割を発揮できるよう、権限のあり方について速やかに検討を進めるとしている。
 また、地域医療構想の全国推計で2025年に介護施設、在宅医療等で追加的に30万人程度の需要が生じるとしていることを踏まえ、「都道府県、市町村が協議し、整合的な整備目標・見込み量を立てる上での推計の考え方を夏までに示す」とした。
 医師の需給問題については、「医学部定員について、医師需給の見通しを踏まえて精査を行う」とした上で、全体としての医師数増加が地域の医師確保につながり、全ての国民が必要な医療を受けられるよう、タスクシフティング、タスクシェアリングを進め、グループ診療や遠隔診療支援等、へき地に勤務する医師の柔軟な働き方を支援するなど、抜本的な地域偏在・診療科偏在対策を検討するとした。
 また、医療費適正化に関連して、地域医療構想の実現によりどの程度、入院医療費の縮減が見込まれるかを明らかにする考えを示した。診療報酬でも、「地域医療構想の実現に資するよう病床の機能分化・連携を後押しする」と記載した。
未来投資戦略に遠隔診療盛り込む
 未来投資戦略2017では、5つの戦略分野を挙げ、その一つに「健康寿命の延伸」を位置づけた。その中で、「遠隔診療、AI開発・実用化」をあげ、対面診療と遠隔診療を適切に組み合わせることにより効果的・効率的な医療提供について、次期診療報酬改定で評価する考えを示している。
 また、画像診断支援、医薬品開発、手術支援、ゲノム医療、診断・治療支援、介護・認知症を重点6領域と定め、保健医療分野でのAI開発を戦略的に進める。

「経済財政運営と改革の基本方針2017」「未来投資戦略2017」の閣議決定を受けて 6月10日 全日本病院協会

1.基本的な考え方について
 「経済財政運営と改革の基本方針2017」における社会保障の基本的な考え方として、「全ての団塊の世代が後期高齢者となる2025年度を見据え、データヘルスや予防等を通じて、国民の生活の質(QOL)を向上させるとともに、世界に冠たる国民皆保険・皆年金を維持し、これを次世代に引き渡すことを目指す。」として、国民の生活の質(QOL)の向上とともに、国民皆保険・皆年金制度を持続可能性のあるものとして維持を謳っている点を高く評価したい。
2.都道府県の保健ガバナンスについて
 各種改革が控える2018年度(平成30年度)に向けて「公平な負担の観点を踏まえた効果的なインセンティブを導入しつつ、「見える化」に基づく国による効果的な支援等を行うことによって、都道府県の総合的なガバナンスを強化し、医療費・介護費の高齢化を上回る伸びを抑制しつつ、国民のニーズに適合した効果的なサービスを効率的に提供する。」とされている。医療の効率化、無駄の排除は医療側も同じく取り組むべき課題ではあるものの、都道府県の保健ガバナンスの強化は、話合いを前提とすべきものである。特に民間医療機関に対しての都道府県の権限は規定すべきではない。
3.地域医療構想策定について
 速やかな策定に向けて、2年間程度で集中的な検討の促進を謳っている。
 もとより、本構想は2025年までに協議することが原則として制度設計されている。地域の人口動態ばかりではなく、地勢、経済状況を鑑みてこそ、地域の医療であり、拙速な議論はすべきではない。
4.医療費適正化、平成30年度診療報酬改定と地域医療構想
 医療費適正化の中で「入院医療費については、地域医療構想の実現によりどの程度の縮減が見込まれるかを明らかにする。」という表現がされ、また診療報酬改定の中で「地域医療構想の実現に資するよう病床の機能分化・連携を更に後押しする」とされている。
 地域医療構想を入院医療費削減のドライバーにすることに対しては異議を申し立てる。
5.医師需給について
 医師需給に関しては、議論は今後に委ねられている。しかし、全国的に医師不足は深刻であり、効果的なタスクシフティング、タスクシェアリングの具体策が示されないままの需給抑制策には反対を表明する。
6.ICT の活用について
 「経済財政運営と改革の基本方針2017」においては、データベースとしての「保健医療データプラットフォーム」や電子版お薬手帳等がICTの活用として言及されている。これらに関しては、様々な規格が混在することなく、いち早く国が主導した標準仕様を作成すべきである。他の医療情報システムを含めてこれらの導入・維持費用に関しては、一時的な補助金ではなく、診療報酬で評価することで持続的な手当てとすべきである。
 一方、Society5.0の実現に向けた改革とする「未来投資戦略2017」においては、その戦略分野の第1番目として健康寿命の延伸が位置付けられている。  特に、次期診療報酬改定において位置付けを訴える対面診療と組み合わせた遠隔診療に関しては、地域特性を踏まえたうえで遠隔地の専門医が検査指示や処方を行えるような仕組みを早急に構築すべきである。